論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

7月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

手術可能な消化管間質腫瘍に対するimatinibを用いた術後補助療法の1年実施 vs 3年実施

Joensuu H, et al., JAMA. 2012; 307(12): 1265-1272

 進行消化管間質腫瘍(GIST)ではimatinibをはじめとするKITおよびPDGFRA阻害薬が奏効する場合が多いが、大半の患者で病変進行をみる。KIT免疫陽性GISTではimatinibによる1年間の術後補助療法がプラセボと比較しrecurrence-free survival(RFS)を延長するものの、OSに対する効果は不明である。GISTの再発は、術後補助imatinib療法中止後1年以内に起こることが多いことから、術後補助imatinib療法は1年以上実施するほうが効果的であるとの仮説を立て、imatinib 1年間投与と3年間投与とを比較する前向き多施設共同第III相オープンラベル無作為化比較試験を行った。
 18歳以上、KIT陽性、ECOG PS≦2で再発リスクの高い切除後のGIST患者を、術後imatinib 400 mg/dayを12ヵ月間または36ヵ月間経口投与する群に1:1の割合で無作為に割り付けた。再発リスクはmodified NIH Consensus Criteriaに従い、@腫瘍最大径10.0 cm以上、A腫瘍細胞分裂像数10/50 HPF超、B最大腫瘍径5.0 cm以上かつ腫瘍細胞分裂像数5/50 HPF超、C手術前あるいは手術時に腫瘍破裂がみられる、の4項目のうち少なくとも1つに該当するものを高リスクとした。手術から無作為化までは1-12週とした。追跡期間の中央値54ヵ月である。  主要評価項目はRFS、副次評価項目はOS、GIST特異生存期間、安全性とした。
 2004年2月-2008年9月に400例の対象患者を12ヵ月群200例、36ヵ月群200例に割り付けたが、3例の同意が得られず、intention-to-treat解析の評価可能症例は12ヵ月群199例(年齢中央値62歳、男性52%)、36ヵ月群198例(60歳、49%)となった。
 再発または死亡のイベントは12ヵ月群の84に対し36ヵ月群では50で、RFSは36ヵ月群で有意な改善がみられた(5年RFSは47.9% vs 65.6%、HR 0.46、95%CI 0.32-0.65、p<0.001)。しかし有意差があったのは無作為化後12-24ヵ月、24-36ヵ月のみで、最初の12ヵ月までと36ヵ月以降の差は認められなかった。また死亡は25例 vs 12例でOSも36ヵ月群が有意に優れていた(5年OSは81.7% vs 92.0%、HR 0.45、95%CI 0.22-0.89、p=0.02)。GISTに死因を絞ると、死亡は14例 vs 7例、5年生存率は88.5% vs 95.1%で36ヵ月群が優れる傾向にあったものの有意差はなかった(HR 0.46、95%CI 0.19-1.14、p=0.09)。
 RFSはサブグループ解析でも36ヵ月群が優れていた。とくにKITエクソン11変異を有する患者では36ヵ月群のベネフィットが大きかった。一方、エクソン9変異、PDGFRA変異、野生型のサブグループにおいては有意な改善は認められなかった。
 ほぼ全例が少なくとも1つの有害事象を経験したが、ほとんどは軽微なものであった。グレード3/4の有害事象は36ヵ月群での頻度が高く(20.1% vs 32.8%、p=0.006)、有害事象により治療中止となった割合は12ヵ月群の7.5%に対し36ヵ月群では13.6%であった。Imatinibの平均投与量は12ヵ月群393.1 mg/day、36ヵ月群394.3 mg/dayであった。
 以上のように、high-risk GIST患者に対する術後補助療法としてのimatinib投与期間は1年間より3年間のほうがRFSもOSも改善することが本試験より明らかになった。OSに有意差が出たのは本試験が初めてであると考えるが、本試験では死亡数が少ないため、さらに長期間の追跡を行って効果を確認する予定である。また術後補助療法を中止するとGIST再発の頻度が上昇するため、治療期間を延長した試験が行われることが望ましい。

監訳者コメント

高再発リスクGIST患者に対する長期imatinibアジュバント療法は予後を改善する

 GISTの根治は、現在の所、外科手術で完全摘出が行われた時にのみ期待出来る。しかし、high-risk GISTでは、根治術後にしばしば再発が見られ、また、標的薬のimatinibはcytostaticと考えられ、再発・転移GIST患者の予後の改善をもたらしたものの、根治は得られていない。
 本第III相臨床試験では、KIT陽性high-risk GISTの根治術後に、imatinibを投与することで、RFSやOSと云った予後を改善するかどうかを検証した。同様の第III相試験は、Z9001(placebo対imatinib 1年;主要評価項目RFS)とEORTC 62024(placebo対imatinib 2年;主要評価項目imatinib耐性までの生存期間とOS)がある。前者の試験では、RFSは−特にhigh-risk GISTで−改善したが、OSはイベントが少なく不明であった。後者の試験は、まだ解析にまで至っていない。
 本試験で、imatinibアジュバント治療が、high-risk GISTのRFSだけでなくOSも改善することが示された。則ち、分子標的治療薬−それもcytostaticであるimatinib−が、アジュバントでOSを改善することが始めて示された。只、筆者も述べている様に、OSのフォローは中途で、統計学的には差はあったものの、まだイベント数が少なく、今後のフォローが重要であるし、1年並びに3年両治療群とも、アジュバント終了後1〜2年間の再発率が高く、OSの期間は伸びるものの、完治率は大きく変わらない可能性も残されている。有害事象が許容範囲内であれば、乳癌の抗ホルモン剤のアジュバントと同じく、より長期のアジュバント治療が必要かも知れない。これには3年以上の長期imatinibアジュバント治療の、安全性と有効性(OS)を検証する臨床試験が必要となってくる。
 何れにしても、再発してからのimatinib投与では、アジュバント治療の予後に及ばないので、high-risk GISTでは、3年のimatinibアジュバント治療が標準的な治療になると考える。

監訳・コメント 大阪警察病院 西田 俊朗(副院長)

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