論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

8月
2012年

監修:名古屋大学大学院 医学系研究科 坂本純一(社会生命科学・教授)

前治療を受けた胃癌に対するサルベージ化学療法:化学療法+BSCとBSC単独の第III相無作為化比較試験

Kang JH, et al., J Clin Oncol, 2012 ; 30(13) : 1513-1518

 進行胃癌のfirst-line治療はフッ化ピリミジン製剤+プラチナ製剤の併用療法が標準とされているが、化学療法は半数以上の患者には奏効せず、奏効例であっても奏効期間は数ヵ月に過ぎない。進行胃癌に対するサルベージ化学療法(SLC)はいくつかの第II相試験で好成績を収めているにもかかわらず、best supportive care(BSC)に比べてOS延長をもたらすというエビデンスがないことと、毒性への懸念から広く臨床に取り入れられてはいない。そこで、進行胃癌に対するdocetaxel(DOC)またはCPT-11を用いたSLCの有効性と安全性をBSC単独と比較する多施設共同オープンラベル第III相無作為化比較試験を行った。
 対象は、組織学的に確認された進行胃癌、ECOG PS 0/1、first-lineかsecond-lineの化学療法(結果フッ化ピリミジン製剤とプラチナ製剤をともに含む)を受けたものの奏効しなかった韓国人患者である。third-line以上の化学療法既治療例、PS2以上例、タキサンとCPT-11をともに投与された例、重複癌は除外した。試験登録前の無投薬期間は4週間以上とした。2008年9月〜2010年9月に登録された202例をSLC+BSC群133例またはBSC群69例に無作為に2:1の比で割り付けられ、188例(SLC+BSC群126例、BSC群62例)に治療が行われた。全例に標準的なBSCレジメンを実施し、SLC+BSC群には、医師の判断により、DOC 60mg/m2 day1を3週ごと、またはCPT-11 150 mg/m2を2週ごとのどちらかが投与された。投与は病勢進行または許容できない毒性がみられるまで継続した。主要評価項目は割り付けからのOSとし、有効性の評価はintent-to-treat解析で行った。データのカットオフは2011年6月、追跡期間中央値は20ヵ月であった。first-line既治療例148例、second-line既治療例54例であった。
 SLC+BSC群のDOC投与66例(測定病変有42例)の投与期間中央値は4.4ヵ月で、7例がPR、18例がSDであった。また、CPT-11投与60例(測定病変有50例)の投与期間中央値は4.2ヵ月で、5例がPR、21例がSDであった。解析時183例が死亡していたが、全例で有効性の評価が可能であった。OS中央値はSLC+BSC群5.3ヵ月、BSC群3.8ヵ月で、SLC+BSC群で有意に延長した(HR 0.657、95%CI 0.485-0.891、p=0.007)。DOC投与例(5.2ヵ月)とCPT-11投与例(6.5ヵ月)に有意差はなかった(p=0.116)。OSの予測因子は、単変量解析では治療群、PS、化学療法無投薬期間、前治療のレジメン数であり、Cox比例ハザードモデルによる多変量解析でもPS(0 vs 1、HR 2.035、p<0.001)、化学療法無投薬期間(<3 vs ≧3ヵ月、HR 0.638、p=0.013)、前治療のレジメン数(1 vs 2、HR 1.811、p=0.001)が有意な予後因子であった。年齢、性別などの治療前の患者背景因子を用いたサブグループ解析でもBSC群に比べSLC+BSC群でOSは優れていた。BSC群に対するDOC投与例のHR 0.760、CPT-11投与例は0.581であった。SLC+BSC群では40%、BSC群では22%の患者が分子標的薬を含む後治療を受けていた(40% vs 22%、p=0.011)。後治療を受けた患者のOSは受けていない患者に比べて有意に延長した(中央値8.0ヵ月 vs 3.7ヵ月、p<0.001)。
 SLC+BSC群で高頻度にみられた血液毒性は骨髄抑制であったが、大半の症例では一過性で、容易に管理が可能であった。グレード3/4の好中球減少症は17%で発症したが、非致死的な発熱性好中球減少症はわずか6件であった。非血液毒性は両群同様にみられたことから、治療関連ではなく疾患によるものと考えられた。治療中止の主な理由は、病勢進行(62%)、患者の拒否(15%)、有害事象(13%)、死亡など(10%)であったが、SLC+BSC群では病勢進行、BSC群では患者の拒否が多かった。無作為化後30日以内の全死因による死亡は両群とも2%ずつであった。
 以上のように、前治療後進行胃癌患者においてSLC+BSCによりBSC単独に比べてOSは有意に改善した。また、SLCは忍容性にも優れていたことからSLCの臨床的意義が示された。なお本試験進行中、German AIOの無作為化比較試験からsecond-line治療としてCPT-11療法がBSCに比べ優れるという結果が報告されたが、この試験は登録数が40例に過ぎず、早期に中止となったものであった。したがって本試験は進行胃癌に対するSLCとBSCを比較した試験としては2番目ではあるものの、最大規模であると言ってよいであろう。SLCは進行胃癌の標準療法とされてしかるべきであるとともに、DOCまたはCPT-11に分子標的薬などを加えることによって効果はさらに改善するものと考える。

監訳者コメント

既治療胃癌に対するサルベージ化学療法は生存を延長する(大規模臨床試験での初めてのsecond-line治療のエビデンス)

 近年、胃癌化学療法の生存期間は延長してきており、その要因の一つとしてsecond-line化学療法の有用性が間接的に示唆されてきた。また、これまでに進行胃癌に対するsecond-line化学療法がBSC(best supportive care)と比べOSを延長したとするいくつかの報告があるが、エビデンスとしては確立するまでには至らず、コンセンサスのみが得られてきたのが現状である。RCTとしては、唯一BSCとCPT-11の2群比較がドイツのAIOグループで行われ、CPT-11の優越性が示唆されたものの、残念ながら両群あわせて40例のみの小規模なものであった。この報告以外に、second-line化学療法の意義を検証した質の高い第III相試験の報告はいままでのところ存在しなかった。
 今回の論文は2011ASCOで報告された韓国の200例規模のRCTである。BSC群に比べてサルベージ化学療法群(DocetaxelあるいはCPT-11投与群)が有意に生存を延長し、サルベージ化学療法の意義を明らかにした。サルベージ化学療法は、フッ化ピリミジン製剤とプラチナ製剤をともに含む治療後(sequential あるいはconcurrent併用)のため、second-line治療例7割、third-line治療例3割であった。
 本邦においては、second-line化学療法のコンセンサスが既に得られており、BSCと比較するRCTは倫理的な問題から実現不可能であったとも考えられる。しかし、韓国からの本報告はsecond-line化学療法の有用性についてマイルストーンとなる報告であり、称賛に値するものと考える。
 今後は、今回報告のあったDocetaxel、CPT-11をはじめ、weekly Paclitaxel、S-1耐性後のCPT-11/CDDP、S-1/CPT-11など、second-line化学療法として何がベストレジメンかが検証されていくものと思われる。本報告の考察にもあったように分子標的薬との併用も検討されるであろうし、さらに将来的にはsecond-line化学療法においてもバイオマーカー等による治療薬選択も考慮されてくるであろう。

監訳・コメント 大阪府立急性期・総合医療センター 西川 和宏(外科・副部長)

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