論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

12月
2012年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

治癒的切除後胃癌における検索リンパ節数不足の臨床的意味

Son T, et al., Cancer, 2012 ; 118(19) : 4687-4693

 胃癌で最も重要な予後因子の1つはリンパ節転移である。UICCおよびAJCCのTMN分類第6版ではリンパ節のステージングに必要な検索リンパ節総数を15としていたが、第7版では16以上と1つ増やしている。しかし適切なステージングに求められる検索リンパ節総数は施設や国によってまちまちであることから議論を呼んでおり、TNM分類第7版では検索リンパ節総数に関係なくすべての検索リンパ節数が陰性であればN0とするとも明示している。また最近の補遺では、リンパ節陽性胃癌は検索リンパ節数とは別に、同じ方法でステージングされるべきであると規定している。一方で多くの研究により、検索リンパ節総数が不十分だと治癒療法を受けた胃癌患者のOSに悪影響を与えるとのエビデンスが示されている。そこで、治癒的切除術を受けた胃癌患者において不十分なリンパ節の評価は生命予後不良と関連するという仮説を立て、検索リンパ節数と長期生存成績との関連を解析した。
 対象は1987〜2007年に韓国延世大学病院でR0手術を受けた胃癌患者とし、残存胃癌に対する手術、術前化学療法を受けた患者、術後30日以内に死亡した患者は解析から除外した。患者は病理学データから検索リンパ節数15以下(不十分群)と16以上(十分群)の2群に分けて臨床病理データと生存データを比較解析した。またTNM分類第7版に基づいて分類した後、同じ解析を行った。なお、本解析における初発胃癌の標準手術は、早期癌に対してはD1+βまたはD2リンパ節郭清、進行癌にはD2とし、リンパ節郭清の決定は日本の胃癌取扱い規約に基づいた。生存例の追跡期間中央値は84ヵ月であった。
 解析可能患者は10,010例で、全例の平均検索リンパ節数は39.6、中央値は38であった。病理学データにより316例(3.2%)が不十分群に分類され、うち5.4%が1〜5、17.7%が6〜10、76.9%が11〜15のリンパ節数検索を受けていた。不十分群では257例(81%)でリンパ節転移が認められなかった。
 不十分群と十分群の臨床病理データから主な特質を比較すると、平均年齢58.9±11.3歳 vs 56.2±11.8歳、男性77.8% vs 66.8%、全摘術17.4% vs 25.7%、未分化癌40.3% vs 58.6%、平均腫瘍径3.1±2.1 cm vs 4.3±2.8 cm、腫瘍部位上部9.2% vs 12.6%、中部28.2% vs 25.5%、下部62.3% vs 60.1%、平均検索リンパ節総数11.9±3.2 vs 40.1±15.0ですべて有意差がみられた。
 5年OSは不十分群81.8% vs 十分群75.3%で有意差なし(p=0.09)であったが、TNM分類に基づいた解析ではT1(p<0.001)、N0(p=0.01)で不十分群は十分群に比べ有意に生命予後不良であった。しかしT1N0患者のうちリンパ節陰性および早期癌に分類されたのは不十分群のほうが多かった(リンパ節陰性93.6% vs 89.2%、p=0.048 ; 早期癌73.9% vs 66.9% 、p=0.018)。生存予後はステージIの患者でも不十分群が不良であったが(p<0.001)、他のステージでは有意差はみられなかった。
 多変量解析を行ったところ、全例の生命予後のリスク因子として、検索リンパ節数不十分(p<0.001)、年齢60歳以上(p<0.001)、男性(p<0.001)、T2以上(p<0.001)、N1以上(p<0.001)、腫瘍部位が胃上部3分の2(p<0.001)であることが挙げられた。検索リンパ節数15以下はT1の患者(p=0.034)、N0の患者(p=0.018)、ステージI(p=0.026)の患者でも予後不良因子であったが、他のサブグループでは予後不良因子としては認められなかった。
 二項ロジスティック回帰解析によれば、検索リンパ節数不十分を予測する因子は、高齢(vs 60歳未満)、N3(vs N0、N1、N2)、分化癌(vs 未分化癌)であった。
 以上の解析の結果、検索リンパ節数15以下の患者の大半はT1またはN0であることがわかった。根治手術後、検索リンパ節数15以下でT1、N0の患者およびステージIの患者は検索リンパ節数16以上の患者に比べて有意に予後不良であった。本解析では検索リンパ節数15以下でリンパ節陽性例数が少なく、進行胃癌の生存成績に関する評価が適切に行えずこれらの患者に関する適切なステージング手段を提供することができなかった。また本解析がレトロスペクティブであること、胃癌特異生存成績の解析をしていないこと、さらにはこの解析結果を西欧の施設に直接適用はできないといった問題はあるものの、不十分なリンパ節検索は不正確なステージング、治療の原因となり、ひいては生存率に影響を与えることは本解析から示唆される。リンパ節陰性の決定は検索リンパ節数を考慮に入れて再評価されるべきである。適切なTNM分類を行うために、最低限必要とされるoptimalな検索リンパ節数を明らかにするような試験が今後求められよう。

監訳者コメント

cT1N0胃癌において正確なpN分類を行うためには15個以下のリンパ節検索では不十分である

 TNM分類ではリンパ節転移個数によりNが規定されているため、十分な個数のリンパ節を検索しないとstage migrationが起こる可能性がある。新TNM分類(第7版)においては、郭清した胃癌の標本を組織学的に検索すると通常16個以上のリンパ節が含まれるとしており、16個以上のリンパ節郭清が推奨される。従ってpN0とするには最低でも16個以上のリンパ節検索が必要であるが、新TNM分類ではこの個数を満たしていなくても、すべてが転移陰性の場合はpN0に分類するとしている。この論文は本当に15個以下のリンパ節検索でpNを決定して良いかどうかを検証したものである。
 その結果、根治手術後、検索リンパ節数15個以下でT1、N0の患者およびステージIの患者は検索リンパ節数16個以上の患者に比べて有意に予後不良であった。すなわち検索リンパ節数15個以下の患者ではN0といえども検索されていないリンパ節に転移を有している可能性があることを示唆している。従って、胃癌においてはNを決定するには検索リンパ節数が15個以下では不十分であり、今後適切なTNM分類を行うために、最低限必要とされるリンパ節数を明らかにしていくことが必要であるとしている。
 早期胃癌に対してもきちっとしたリンパ節郭清を行い、しかも摘出標本におけるリンパ節整理を丁寧に行う日本の消化器外科医にとってはいささか理解し難い内容であるかもしれないが、リンパ節検索個数の不足によりstage migrationが起こり正確な予後が予測できないことは十分に認識しておく必要があろう。

監訳・コメント 山口大学医学部附属病院 吉野 茂文(腫瘍センター・准教授)

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