監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
胃-食道腺癌に対するdocetaxel+cisplatin+capecitabine(DCX)を用いた周術期化学療法 : Arbeitsgemeinschaft Internistische Onkologie(AIO)の第II相試験
Thuss-Patience PC., et al., Ann Oncol.,2012 ; 23 : 2827-2834
手術可能な胃食道接合部癌に対する、epirubicin+CDDP+5-FU(ECF)またはCDDP+5-FU(CF)を用いた周術期化学療法はヨーロッパでは標準療法となっているが、診断後5年以内の死亡率は63.7%である。Docetaxel+CDDP+5-FU療法は効果の面ではこれらの療法に比べ改善が認められたが、安全性に議論があることからさまざまな変法が考えられている。最近、切除不能な局所進行胃癌に対し、5-FUのかわりにcapecitabineを用いた3剤併用療法の第II相試験が行われ、74%の患者で手術が可能になり、R0切除率は63%であったことが報告された。
本試験は治癒的切除可能な胃食道腺癌患者における術前術後DCX療法の実施可能性および有効性を検討する第II相試験である。
対象は組織学的に胃、胃食道接合部、食道下1/3に腺癌が認められた18〜75歳の未治療の患者で、UICCのステージII〜III、TNM分類はT3〜4、N0〜3、M0、またはT2、N1〜3、M0、またはT1、N2、M0、KarnofskyのPS 70%以上、登録前の5年以内に他の癌の診断を受けていない者とした。
治療は、docetaxel 75 mg/m2とCDDP 60 mg/m2をday 1にそれぞれ1時間で静注、capecitabineは1,875 mg/m2/日(分2)をday 1〜14に経口投与した。これを1コースとして3週ごとに、術前3コース、術後3コース実施した。
主要評価項目はR0切除率、副次評価項目は奏効率(画像で評価、内視鏡も可)、病理学的奏効率、OS、無イベント生存率(EFS)、術前術後合併症発症率、術後30日の死亡率、安全性とした。追跡期間の中央値は24.8ヵ月である。
2008年10月〜2009年12月に51例が登録された。年齢中央値65歳、男性48例、腫瘍部位は胃食道接合部31例、胃体部15例、下部食道5例であった。
術前療法は51例全例が、術後療法は37例で実施された。術前94.1%、術後52.9%が3コースを完了した。術前に実際に投与されたdocetaxelの用量は予定された用量の92.8%、capecitabineは84.8%、CDDPは94.4%、術後はそれぞれ69.1%、68.2%、70.1%といずれも高い割合であった。
術前療法の奏効率(CR+PR)は56.9%で、腫瘍関連の症候を訴えていた42例中31例(73.8%)については術後療法後少なくとも1つの症候が改善された。治療前の画像による評価と切除標本の病理学的評価を比較すると(intention-to-treat解析)、60.8%でT分類のダウンステージがみられ、41.2%がN+からN0になった。pathological complete remission(pCR)率は13.7%(7例)、near-comlete remission(nCR)率は7.8%(4例)で到達した。
治癒的切除術は49例で実施され、うち46例(90.2%)がR0切除、3例(5.9%)がR1切除であった。
腫瘍部位別にR0切除達成率をみると、下部食道では100%、胃食道接合部では84%、胃体部では100%で、pCR率はそれぞれ20%、16%、7%であった。
1年EFSは80.2%、2年EFSは63.2%、1年OSは88.0%、2年OSは70.8%で、18例が死亡していた。pCR率の7例中再発例はなかったが、腫瘍と関連のない死亡が2例あった。
副作用は術前のほうが高頻度であった。CTCのグレード3/4の好中球減少症は術前が76.5%、術後は62.9%、発熱性好中球減少症は21.5%、11.1%にみられた。術後合併症は評価可能49例中20例(40.8%)で発症し、縫合不全(8例)、肺合併症(10例)の頻度が高かった。
術後30日以内の死亡はみられなかった。
以上のように、切除可能な胃-食道腺癌の周術期化学療法としてDCX療法は有効で副作用も管理可能であり、安全に投与できるものであった。本試験におけるpCR率は13.7%で、epirubisin+CDDP+capecitabine(5.9%)を検討した試験よりも高かった。また、docetaxel+CDDP+5-FU(11.7%)を検討した試験でもECF療法(0%)やCF療法(3.0%)を検討した試験に比べ高く、docetaxelによるepirubicinの置き換えやdocetaxelの追加の有効性がいかに顕著であるかがわかる。有効性およびR0切除率が高かったのはタキサン由来の効果と考えられ、DCX療法は今後の検討に用いるうえでも有望なレジメンと言えよう。しかし3コース完遂率が術前療法で高かった一方で術後療法では半数強しか完遂できなかったのは課題である。さらに完遂率を上げ、発熱性好中球減少症発症率を抑えるためには、G-CSFの投与も考慮されてよいと考える。
進行胃癌に対する術前・術後3剤併用療法(Docetaxel+CDDP+capecitabine療法)の有効性と問題点
今回の第II相臨床試験はdocetaxel+CDDP+capecitabineの3剤併用術前化学療法の有効性が強く示唆された試験である。この試験の奏効率は56.9%、R0切除率(治癒的切除)は90.2%で1年EFSは80.2%、2年EFSは63.2%、1年OSは88.0%、2年OSは70.8%と、とても良好な成績であった。特に組織学的奏功率は今までの試験に比べて高いpCR率(13.7%)が見られ、またpCR症例で再発がないことはタキサン系のパワーを再確認した次第である。ただ、このDCX療法ではCTCのグレード3/4の好中球減少症が高い頻度(76.5%)で見られており、術前の治療完遂率(94.1%)に比べて術後が約半分となっていることでタキサン系の効果も高いが副作用も強いことが示唆された。
我々のグループでは進行胃癌に対する2剤併用術前化学療法、TC-NAC療法(paclitaxel: 80 mg/m2+CDDP: 25 mg/m2)を行い、pCR率(1.92%)、pPR率(44.2%)、奏功率は44.2%と今回の試験と比べるとやや劣るが、CTCのグレード3/4の好中球減少症は36.5%と副作用は低く、タキサン系の奏功性と認容性の良さが認識された(Nagata et al: EJC, Vol. 7, No. 2 September 2009, 370 (Po6528))。
今回のこのレジメンは高いpCR率やR0切除が得られ、術前に化学療法を行うことで高度進行胃癌の再発率を減じる可能性があり、また術後化学療法を追加することで生存率の向上が図れる可能性が示唆されたが術後完遂率が低く血液毒性が高い点が問題であると思われた。
監訳・コメント:北九州総合病院 永田 直幹(院長)
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