監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
Imatinib療法およびsunitinib療法が失敗した進行消化管間質腫瘍に対するregorafenibの効果と安全性(GRID試験): 国際多施設共同プラセボ対照第III相ランダム化試験
Demetri GD, et al. Lancet, 2013 ; 381(9863) : 295-302
消化管間質腫瘍(GIST)に対する臨床効果が証明されている薬剤は現時点ではimatinibとsunitinibのみである。Regorafenibは血管新生、腫瘍形成、腫瘍微小環境などの制御に関する新たな経口マルチキナーゼ阻害薬であり、第I・II相試験を経たのち、imatinibとsunitinib無効の転移または切除不能GIST患者に対するregorafenibの有効性と安全性を評価するプラセボ対照第III相二重盲検ランダム化試験を行った。
対象患者はregorafenib(R群)またはプラセボ投与(P群)に2対1の割合でランダムに割り付け、R群にはregorafenib 160mg、P群にはプラセボを1日1回経口投与した。これを二重盲検で3週間投与、1週間休薬を1コースとして病勢進行または忍容不能な副作用が生じるまで続けた。
世界17ヵ国から2011年1月〜8月に登録された240例のうち199例をR群133例、P群66例にランダムに割り付けた。
PFS中央値は中央委員会の評価ではR群4.8ヵ月、P群0.9ヵ月(HR 0.27、95%CI 0.19-0.39、p<0.0001)とR群で有意な延長がみられた。3ヵ月PFSは60% vs 11%、6ヵ月PFSは38% vs 0%であった。OSについては両群で有意差はみられなかった(HR 0.77、95%CI 0.42-1.41、p=0.199)。
Cox比例ハザードモデルにてサブグループ解析を行ったところ、遺伝子変異部位(エクソン11、エクソン9)による効果の差はなく同様にregorafenibによるbenefitを認めた。
二重盲検期間中、R群132例全例、P群61例(92%)で何らかの有害事象がみられた。治療関連有害事象はR群98%、P群68%で生じ、手足皮膚反応がR群56%、P群14%と最も高頻度であった。グレード3以上のregorafenib関連有害事象としては高血圧(23%)、手足皮膚反応(20%)、下痢(5%)などがみられた。重篤な有害事象はR群では腹痛(4%)、発熱(2%)、脱水(2%)をはじめとして29%で、P群では疲労(3%)、疼痛(3%)などが21%で報告された。投与中止に至る有害事象の発生頻度はR群6%、P群8%で、有害事象は用量調整によって管理可能であった。
以上のように、imatinibとsunitinibが無効であったGIST患者に対するBSC下のregorafenib療法はプラセボ療法に比べてPFS中央値は5倍以上延長した。
安全性のプロフィルは先行する臨床試験と同様であり、既定の用量調整の範囲内で忍容性に優れていた。
消化管GISTに対する三次治療としてのregorafenibの効果
消化管間質腫瘍(GIST)の治療に臨床応用されている2つの分子標的治療薬(imatinibとsunitinib)は高い有効性を示しているが組織学的なCRはないといわれている。進行・再発GISTに対しては、一次治療としてimatinibは使用され、耐性になった場合には通常sunitinibが使用される。Sunitinibに耐性となった場合はimatinibのrechallengeである程度のSDが得られるとの報告もあるがBSCにならざるを得ないことが多い。GRID trialの結果は、PFS中央値がR群4.8ヵ月、P群0.9ヵ月(HR 0.27、95%CI 0.19-0.39、p<0.0001)とR群で有意な延長がみられた。3カ月PFSは60% vs 11%、6ヵ月PFSは38% vs 0%であり、有害事象も高血圧、手足皮膚反応が主なもので3次治療として有用なことが示された。我が国においてregorafenibは、2013年3月25日に厚生労働省より「治癒切除不能な進行・再発結腸・直腸癌」の適応で製造販売承認されたが、GISTの適応についても早期の保険収載が望まれる。
さらに注目すべきはサブグループ解析において、エクソン9変異症例とエクソン11変異症例が同等の効果を示したことである。Imatinibはエクソン9変異症例に対しては比較的有効性が低いことが知られている。エクソン9変異症例がimatinibに不応となった場合、1つにはimatinib 400mg/日から800mg/日への増量が有効であることが報告されているが、わが国ではimatinibの増量は保険で認められていない。したがって現在の唯一の方法はsunitinibへの変更である。エクソン9変異症例がimatinib耐性になった場合のsunitinibの効果(無増悪生存期間中央値19.4ヵ月、19.0ヵ月)は、エクソン11変異症例がimatinib耐性なった場合の効果(無増悪生存期間中央値5.1ヵ月)よりも高いことが報告されている。しかしながら、sunitinibは比較的有害事象が多いことが知られている。本報告の3次治療としてのregorafenibのPFS中央値は、二次治療としてのsunitinibのPFS中央値よりも短いが、regorafenibがエクソン9、11両変異症例に有効であれば二次治療としてのregorafenibの有効性も検討されるべきかもしれない。
監訳・コメント:川崎医科大学消化器外科 平井 敏弘(教授)
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