監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
進行・再発胃癌における化学療法の役割 : 個々の患者データに関するメタアナリシス
GASTRIC(Global Advanced/Adjuvant Stomach Tumor Research International Collaboration)Group, EJC, 2013 ; 49 : 1565-1577
進行・再発胃癌の予後に関する臨床研究は30年以上も行われているにもかかわらず、OSの中央値は1年をわずかに超える程度で現在でも不良である。治療法としては5-FUを用いた併用化学療法などがランダム化比較試験で評価されており、化学療法レジメンの選択肢は少なくない。しかしOS中央値が1年未満であることも多く、重大な副作用を伴うことを考えると、進行・再発胃癌患者がそのbenefitを真に受けるかどうかは不透明な状態である。
GASTRICは、切除可能胃癌の術後補助化学療法または進行・再発胃癌の化学療法に関するランダム化比較試験について、個々の患者データに基づく(IPD)メタアナリシスを行う国際学術プロジェクトとして立ち上げられた。IPDメタアナリシスは、研究対象となった治療法が多数であること、相応しいと認められる対照群が欠如していること、症例数が少ないこと、明快な結果が不足していることといった問題に光を投げかける唯一の方法であり、GASTRICでは進行・再発胃癌のOSとPFSに関するIPDメタアナリシスを行った。
解析対象とした試験は、2006年末までに患者登録を終えたランダム化比較試験のうち、5-FU、MMC(mytomycin C)、アントラサイクリン系薬剤、白金製剤、CPT-11、タキサン系薬剤について研究したものとして、MEDLINE、Cochrane Central Register of Controlled Trials、NIHなどから報告言語を問わず検索した。各試験について、被験者属性、ステージ、治療状況等のデータを集めるとともに、予後に関する情報の更新も求めた。
免疫療法、術前/術後補助療法、放射線療法、腹腔内化学療法に関するものは解析から除外した。治療レジメンは均一でないため、薬剤数の多いほう、薬剤数が同数の場合は新しい薬剤を用いているほうを試験群とした。また、追加デザイン(対照群と同じ化学療法に新たな化学療法薬を加えて比較している試験)、代替デザイン(1剤を別の薬剤に変えて比較している試験)、その他のデザインの3種に分けてサブ解析を行った。
主要評価項目はOSとし、PFSについても解析した。主眼は、試験群が対応する対照群と比較してbenefitを受けているかどうかである。OSはランダム化の日から死亡(死因問わず)の日まで、PFSは病勢再発または同じく死亡の日までとした(途中で追跡が終わっている場合は、OSは最終受診日で、PFSは再発していない最終受診日で打ち切り)。治療効果は層別解析で評価した。試験間の不均一性はχ2検定にて検定し、I2(試験間ばらつきの割合)で評価した。
2010年末時点で、55試験、9054例を解析適格対象として特定した。入手可能データは22試験、4245例(試験群2494例、対照群1748例、3例は試験群化対照群か不明)で、OSとPFSのデータは20試験、各4214例、4073例から得られた。
メタアナリシスの対象とした全試験についてみると、OS中央値は試験群37.6週 vs 対照群34.4週(HR 0.88、95%CI 0.82-0.94、p<0.0001)、PFSは20.4週 vs 16.4週(HR 0.81、95%CI 0.76-0.86、p<0.0001)で、ともに試験群が有意に優れていた。
サブ解析の3種のデザイン間では、OSに対する治療効果に不均一性はみられなかったが、PFSは追加デザイン試験の試験群が優れていた(p=0.04)。また各試験間ではPFSのHRに不均一性がみられ(p<0.01、I2=44%)、OSの不均一性はほとんどなかった(p=0.31、I2=11%)。
追加デザイン試験(同じ化学療法に新たな化学療法薬を加えた場合の比較)でみると、OS(HR 0.89、95%CI 0.80-0.98、p<0.01)もPFS(HR 0.74、95%CI 0.67-0.81、p<0.0001)も上乗せ群が良好であった。OS、PFSともハザード比の不均一性はなかった。
最後に個々の薬剤のOS、PFSに与える影響を評価した。MMCは5試験、839例で用いられており、OS(HR 1.15、95%CI 0.98-1.34、p=0.084)、PFS(HR 1.06、95%CI 0.91-1.24、p=0.45)とも有意差はなかったが、OS(p=0.003)にもPFS(p=0.002)にも試験間の不均一性がみられた。
アントラサイクリン系薬剤はOSに関しては10試験1461例、PFSに関しては8試験1320例で投与されており、OS(HR 0.97、95%CI 0.87-1.09)、PFS(HR 0.92、95%CI 0.82-1.04)とも有意差はみられず、試験による不均一性もなかった。
白金製剤は8試験、2337例で用いられていた。OS(HR 0.96、95%CI 0.88-1.05)には有意差は認められなかったが、PFSは白金製剤ベースのレジメンを用いたほうが有意に優れていた(HR 0.88、95%CI 0.81-0.96)。しかし、試験による不均一性がOS(p=0.021)、PFS(p<0.0001)の両方にみられたため、極端な結果を示した1試験を除いて感度解析を行ったところ、OSのbenefitは境界線上に乗ったものの(HR 0.92、p=0.08)、PFSは不均一なままであった(p=0.01)。
タキサン系薬剤は3試験、667例で用いられ、OS(HR 0.90、95%CI 0.76-1.07)にもPFS(HR 0.88、95%CI 0.75-1.04)にも有意差はなく、不均一性はPFS(p=0.05)にだけみられた。
CPT-11は5試験、1380例で投与され、OS(HR 0.90、95%CI 0.80-1.01)には有意差はなかったものの優れる傾向にあり、PFS(HR 0.81、95%CI 0.72-0.90)は有意に優れていた。
本解析は予後因子、胃癌の部位や程度を考慮していないこと、試験によってPFSの判断時期が異なること、解析の適格対象とした症例数が全体の47%と少ないこと等の問題はあるものの、進行・再発胃癌患者のOSとPFSは、標準療法に新たに評価する化学療法薬を加えることにより、あるいは白金製剤、タキサン系薬剤、CPT-11のような活性の高い薬剤により、ある程度までの改善を示すことが明らかになった。死亡の相対リスクの低下の大きさがそのまま生存期間の中央値の大幅な延長につながるわけではないが、進行・再発胃癌に対する化学療法のbenefitは確かにあり、現在用いられているレジメンを改良する努力はこれからも続けられるべきである。また生物学的特性に基づいて患者を選択し、分子標的治療を行うことによって予後が改善することが望まれる。
Individual Patient Dataによる進行・再発胃がんのレジメン開発の意義の評価
進行・再発胃がんに対するレジメン開発の意義を包括的に評価した研究である。まず過去の試験でExperimentalとして設定されたレジメンが約1ヵ月のOS、PFS延長をもたらしたことが示され、さらに白金製剤やCPT-11を含むレジメンの有効性が示された。今回の報告に含まれた試験は比較的古いものが多いが、臨床試験の積み重ねにより予後の改善がなされてきたことがわかる。今後は進行中の大規模試験の追加や、特定のサブグループに限定した解析なども期待できる。
GASTRIC groupが行ったIPD(Individual-Patient-Data)メタアナリシスは、要約統計量のみを用いる一般的な(文献ベースの)メタアナリシスに比べて膨大な時間と労力がかかり、データ提供の有無による選択バイアスの影響も不可避である。しかし個々のデータを収集することにより、公表されている情報の信頼性の確認、対象集団の標準化、追跡情報の更新、統一的な解析手法による正確な推定、予後因子の解析等が可能になることは大きな利点である。個別化医療に向けた治療開発が望まれる昨今、被験者属性情報も併せ持つIPDは新たな仮説を提供する、信頼できる情報源としての役割も担っている。
監訳・コメント:横浜市立大学附属 市民総合医療センター 大庭 真梨(助教)
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