監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
未治療の進行食道・胃癌患者に対するepirubicin+oxaliplatin+capecitabine±panitumumab療法(REAL3試験): 第V相オープンラベルランダム化試験
Waddell T., et al., Lancet Oncol, 2013 ; 34(6) : 481-489
進行食道・胃癌には国際的に認められた標準療法はないが、REAL2試験の結果からepirubicin+oxaliplatin+ capecitabine(EOC)療法が標準的なfirst-line治療として確立されるようになった。食道・胃癌では27〜55%にEGFR過剰発現がみられ、これが予後不良に関連しているとされる。panitumumabはEGFRを直接標的とするモノクローナル抗体で、進行大腸癌で延命効果が認められている。そこで、本REAL3試験では進行食道・胃癌のEOCにおけるpanitumumabの上乗せ効果を検討した。
対象は、食道/食道胃接合部/胃腺癌・未分化癌のうち、切除不能な転移/局所進行癌で、18歳以上の未治療患者(PS 0-2)である。
患者を標準的なEOC療法群(EOC群;epirubicin 50mg/m2、oxaliplatin 130mg/m2 をday 1、capecitabine 1250mg/m2/dayをday 1-21)と用量を減量したmodified-dose EOC+panitumumab療法群(mEOC+P群;epirubicin 50mg/m2、oxaliplatin 100mg/m2 をday 1、capecitabine 1000mg/m2/dayをday 1-21、panitumumab 9mg/kgをday 1)にランダムに割り付けた。どちらの治療法も21日ごとに最大8コースまで実施した。
主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、安全性、患者自身の報告による成績である。生存例の追跡期間中央値はEOC群4.6ヵ月、mEOC群5.3ヵ月である。
2008年6月〜2011年10月に登録された適格患者553例をEOC群275例、mEOC+P群278例にランダム化した。両群の年齢中央値は62歳、63歳、男性82%、83%、腺癌99%、98%であった。KRAS変異は全例の5.7%にのみ認められた。
EOC群266例、mEOC+P群276例が実際に少なくとも1コースの治療を受けた。実施コース数の中央値は5コースで、各群30%、27%が8コースの治療を完遂した。薬剤の相対的dose intensityに両群の差はみられなかった。
OSのイベント数は251(EOC群110、mEOC+P群141)で、生存期間の中央値はEOC群11.3ヵ月に対しmEOC+P群8.8ヵ月(HR 1.37、95%CI 1.07-1.76、p=0.013)、1年OSは46% vs 33%とmEOC+P群が有意に劣っていた。試験終了時EOC群の20%、mEOC+P群の13%が治療継続中であったが、観察はこの時点で打ち切った。
一方、PFSは333イベント(EOC群153 vs mEOC+P群180)で、PFSの中央値は7.4ヵ月 vs 6.0ヵ月、1年PFSは21% vs 20% と、有意差は認められなかった(HR 1.22、95%CI 0.98-1.52、p=0.068)。
奏効率(CR/PR)はEOC群238例、mEOC+P群254例で、それぞれ42%、46%と有意差はなかった(オッズ比1.16、95%CI 0.81-1.66 p=0.42)。
安全性の評価可能症例はEOC群266例、mEOC+P群276例であった。グレード3-4の副作用はEOC群では末梢神経障害、好中球減少、発熱性好中球減少、血小板減少、mEOC+P群では下痢、粘膜炎、発疹、低マグネシウム血症の頻度が有意に高かった。全体ではグレード3-5の副作用の発生頻度に両群に差はなかったが、血液毒性と生化学的毒性を除くとmEOC+P群のほうが有意に高頻度であった(p=0.035)。グレードにかかわらず発疹を生じた症例(219例)では生じなかった症例(57例)に比べてOS(10.3 vs 4.3ヵ月、p<0.0001)、PFS(6.8 vs 3.7ヵ月、p<0.0001)ともに有意な延長が認められた。
治療関連死はそれぞれ6例と4例であった。
以上のように、進行食道・胃癌のEOC療法においてpanitumumabの上乗せ効果はみられなかった。mEOC+P療法の成績が不良であった原因として以下の3つが考えられる。1つはREAL3の用量決定試験においてグレード3の下痢が高頻度にみられたことでoxaliplatinとcapecitabineを減量せざるをえなかったことである。2番目にpanitumumabとEOCの中の薬剤のどれかとの間に負の相関関係が働いた可能性がある。3番目に、本試験では分子レベルでの患者選択を行っていないことが挙げられる。本試験と同様の患者における抗EGFR療法についてはEXPAND試験、COG試験でも同様の結果が報告されており、EGFRが必ずしもターゲットとして適していないのではないかとも考えられる。今後はKRAS、EGFR、HER2、METなどの解析により、抗EGFR療法のbenefitを受ける患者群をバイオマーカーによって同定する努力が求められよう。
進行食道・胃癌における抗EGFR抗体薬の効果はいかに?
進行食道・胃腺癌(OG癌)に対するepirubicin、oxaliplatin、capecitabineによる3剤併用療法(EOC療法)は、英国では標準治療の1つである。未治療進行OG癌に対するEOC療法へのpanitumumab併用の上乗せ効果の検証がREAL 3試験で行われたが、結果はOSがpanitumumab併用群で有意に悪いというnegative dataとなった。OS悪化の原因が、併用群におけるoxaliplatinやcapecitabineの減量の影響なのか、EOC療法の薬剤とpanitumumabの相性が悪かったためなのかなどの疑問を残したものの、EXPAND試験でもOG癌に対する抗EGFR抗体薬の上乗せ効果が証明されなかったので、そもそもEGFRがターゲットとして適していない可能性も示唆されている。
これらの検証結果を踏まえると、われわれ、日本において胃癌を扱う臨床医にとってはSPなどS-1 baseのレジメンとの併用効果に期待、関心が移る。しかし、一方では、医療費を圧迫する高価な分子標的治療薬の適正使用という観点から見ると、大腸癌の場合とは異なり、OG癌で汎用されるにはまだ時間を要するという印象を受けた。
監訳・コメント:春日井市民病院 山口 竜三(外科部長)
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