監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
進行胃癌患者に対するweekly PTX+S-1療法とweekly PTX+5-FU療法を比較した多施設共同ランダム化試験
Huang D., et al. EJC, 2013 ; 49(14) : 2995-3002
中国における進行胃癌治療は西欧諸国と大きく異なり、PTXの3週ごと投与が最も普及しているが、PTXの毎週投与のほうが有効性は変わらないまま毒性が低いことがいくつかの試験で指摘されている。それに基づき、weekly PTX+5-FU投与についての研究を行ったところ、5-FUの持続投与にはCVカテーテルの挿入が必要であり、挿入に伴う血栓と合併症のリスクが上昇した。一方、S-1は5-FUを経口剤化したものであり、こうした問題は回避することができ、またPTXとの併用は忍容性にも優れるとされている。しかし進行胃癌に対する緩和的化学療法の標準レジメンはこれまでのところなく、weekly PTX+S-1投与の有効性と安全性をさらに追究する必要がある。そこで、進行胃癌のfirst-line治療としてのweekly PTX+S-1とweekly PTX+5-FU投与について比較検討する中国の多施設共同第II相ランダム化試験を行った。
本試験では、18〜75歳で少なくとも1つの転移病変を有する切除不能または再発胃癌患者を対象とした。そのほか、KarnofskyのPS≧70、余命3ヵ月以上、術後補助化学療法完了後6ヵ月を超えて化学療法を受けたり再発がみられないこと、術後補助化学療法にタキサン系薬剤やS-1が含まれていないこと、測定可能病変に放射線療法を受けていないことなどを適格条件とした。
患者はweekly PTX+S-1(試験群)またはweekly PTX+5-FU(対照群)にランダムに割り付けられた。PTXは両群とも60mg/m2をday 1、8、15に静注、試験群のS-1は体表面積によって80mg/日(体表面積<1.25m2)、100mg/日(<1.5m2)、120mg/日(≧1.5m2)を1日2回、14日間連続で経口投与、対照群では5-FUを500mg/m2をday1-5に持続静注、LV 20mg/m2をday 1-5に静注した。レジメンはすべて4週ごとに繰り返し、1次的なG-CSFの予防的投与は認めなかった。
主要評価項目は病勢コントロール率(DCR : CR+PR+SD)、副次評価項目はPFSと安全性とした。
2007年11月〜2010年4月に240例が登録され、各群120例ずつにランダム化された。評価可能症例は試験群119例、対照群110例で、年齢中央値はそれぞれ56歳、54歳、男性は74.8%、69.1%、遠隔転移は94.1%、92.7%、腺癌95%、92.7%であった。
試験群19例、対照群18例が試験途中で治療を中止したため、per protocol(PP)解析100例、92例で行った。それぞれ65%、45.7%が4コース以上の治療を受けた。
PP解析による奏効率は試験群50.0% vs 対照群28.3%(p=0.002)、全229例の奏効率は42.0% vs 24.8%(p=0.007)で、いずれも試験群が有意に優れていた。DCRもPP解析で82.0% vs 70.7%(p=0.064)、全例で68.9% vs 60.6%(p=0.187)と試験群が優れていたが、有意差はみられなかった。したがって、PTX+S-1療法はPTX+5-FUと比べて非劣性であることが明らかになった。
全例のPFS中央値は2010年12月時点で試験群153日 vs 対照群129日(HR 0.641、95%CI 0.473-0.868、p=0.004)と試験群で有意な延長がみられた。6ヵ月PFSは31.3% vs 31.8%で有意差はなかった(p=0.94)。OSは中央値に達していない。
PFSの予後予測因子を多変量解析(Cox回帰解析)にて調べたところ、化学療法のレジメンと年齢が独立した予後因子であり、生命予後は5-FU投与を受けている患者で最も不良であった(HR 0.641、95%CI 0.473-0.868)。
副作用イベントは224みられ、その大半は血液学的副作用と消化管障害であった。Grade 3-4の副作用の発症頻度は両群同様で、骨髄抑制を除いて5%以下と低かった。骨髄抑制は、試験群53.8% vs 対照群21.8%(p=0.001)、好中球減少は43.7% vs 16.3%、白血球減少は34.5% vs 11.8%と、いずれも試験群で高頻度に発症したが(ともにp<0.05)、Grade 3-4の発熱はなく、Grade 1-2の発熱の頻度は同等であった。重篤な副作用は6例に認められた(3.4% vs 1.8%、有意差なし)。治療関連死は各群1例で、試験群の1例の死因は好中球減少と感染症で、対照群の1例は消化管出血により死亡した。
進行胃癌患者に対するweekly PTX+S-1の有効性はweekly PTX+5-FUと比較して少なくとも非劣性であり、忍容性は優れていた。試験群でGrade 3-4の骨髄抑制が高頻度だったのは治療期間が対象群に比べて長期に亘ったこと、またG-CSF投与が遅かったことによるものと考えられる。進行胃癌治療においてS-1の経口投与は5-FU静注の優れた代替療法であり、weekly PTX+S-1は新たなfirst-line治療のレジメンとして期待されるものと言えよう。今後はS-1+白金製剤(SP治療)を比較する大規模な第III相試験が行われることが望まれる。
切除不能進行胃癌に対するweekly PTX+S-1治療の中国と日本の現状
中国から、進行胃がんに対するweekly PTX+S-1とweekly PTX+5-FUの比較試験の結果が報告された。この報告では奏功率は有意にweekly PTX+S-1が優れていたが(42.0% vs. 24.8%、p=0.007)、主要評価項目である病勢コントロール率ではweekly PTX+S-1が若干良好であったものの、有意な差はなく両治療法は同等と評価された(68.9% vs. 60.6%、p=0.187)。また、副次評価項目であるPFSでは、PFS中央値は153日と129日でweekly PTX+S-1が有意に良好であったが(HR 0.641、95%CI 0.473-0.868、p=0.004)、6ヵ月PFSには有意差は認められなかった(p=0.94)。さらに、もうひとつの副次評価項目の安全性の結果では、weekly PTX+S-1群で白血球減少や好中球減少では有意に高頻度にGrade 3-4の有害事象を認めたが、特に問題なく対応可能であった。他の血液毒性や消化器毒性はいずれの群でも5%以下で、両群間に差は認めなかった。Weekly PTX+S-1は従来のweekly PTX+5-FU治療に対し非劣勢で忍容性も優れており、OSのデータは報告されていないが、中国では、進行胃癌に対しては、PTXの3週ごとの投与が最も普及しているようで、この治療がfirst-line治療のひとつの候補となることが報告された。今後、SP治療との第III相比較試験が望まれると述べてこの論文を終えている。
一方本邦では、JCOG 9912試験とSPIRITS試験により、切除不能進行胃癌に対するfirst-line治療はSP治療であり、ToGA試験の結果よりHer2陽性胃癌でのcapecitabine(または5-FU)+CDDP+trastuzumabと共に、この2つのレジメンが標準として推奨されている。S-1+αの検討としては、TOP 002ではCPT-11の上乗せ効果が示されず、またSTART試験でもASCO-GI(2011)ではdocetaxelの上乗せ効果は示されなかったが、多数のcensored症例の再調査の後の解析のESMO(2012)での報告では、S-1に対するS-1+docetaxelのOSにおける有意な延長が認められ、特に腹膜播種では、PFSとOSともに有意に良好な結果が報告された。現在はSPとSOX(S-1+L-OHP)の比較試験(SOX試験)やSP+trastuzumab(HERBIS-1試験)などの結果が報告されつつあり、またJCOGで実施されているcisplatin+S-1 vs docetaxel+cisplatin+ S-1治療の結果などから標準治療としての候補が整理されるものと思われる。
一方、PTXの立ち位置としては、SP治療後の2次治療や5-FU不応の腹膜播種に対するavailable 5-FU療法とPTXの比較試験など、2次治療以降の候補としての臨床試験やPS不良例に対する臨床試験が実施されてきた。現在、PHOENIX-GC試験として、高度腹膜播種を有する胃癌患者に対するPTXの経静脈投与+腹腔内投与の臨床試験が進んでおり、その有効性が期待される。本邦ではPTXが切除不能進行胃癌に対するfirst-line治療の1剤としての地位を獲得する可能性は高くはないと判断されるが、腹腔内投与や2次治療以降の有力な候補として重要な位置を占めるものと考えられる。また、本年2月より人血清アルブミンにPTXを結合させナノ粒子化したnab-PTXが胃癌に対して使用可能となっており、今後の治療成績が期待される。
Weekly PTX+S-1は忍容性が高く、効果も期待でき、CDDPの使用が制限される75歳以上の症例や腎機能障害のある症例、腹膜播種のある症例などが対象症例になると判断される。
監訳・コメント:関西労災病院 田村 茂行(副院長)
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