論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

進行胃癌または食道胃接合部癌患者治療におけるcisplatin/S-1併用療法 : First-Line Advanced Gastric Cancer Studyにおけるcisplatin/5-fluorouracil療法と比較した非劣性および安全性

Ajani JA, et al. EJC, 2013 ; 49(17) : 3616-3624

 進行胃癌では国際的な標準療法が確立しておらず、現在普及しているcisplatin(CDDP)+fluorouracil(5-FU)併用療法は、副作用に加え投与の煩雑さが問題となっている。そのため簡便に投与でき毒性が低く忍容性に優れたレジメンが緊急に求められている。
 S-1はヨーロッパ27ヵ国で進行胃癌治療薬として承認されているが、S-1+CDDP併用療法の安全性と有効性が確認されているのはアジア人においてであり、西欧人における至適用量を確立する必要がある。欧米で行われた第I相試験で最大耐量(MTD)としてS-1 25mg/m2(day 1〜21)+CDDP 75mg/m2(day 1)が推奨され、第II相試験で有望な成績を上げている。FLAGS試験は非アジア人を対象として進行胃癌のfirst-line治療におけるS-1+CDDP療法とCDDP+5-FU療法を比較した国際多施設共同第III相オープンラベル並行群間ランダム化試験で、中間解析結果は報告済みであるが(J Clin Oncol, 2010; 28(9): 1547-1553)、今回S-1+CDDP療法のCDDP+5-FU療法に対する非劣性を検討するとともに、安全性に関する追加解析結果を詳細に報告する。
 対象患者は化学療法歴のない18歳以上の局所進行/転移性胃癌または食道胃接合部癌患者(ECOG基準のPS 0/1)でS-1+CDDP(CS)群またはCDDP+5-FU(CF)群にランダムに割り付けた。
 CS群にはS-1 25mg/m2を1日2回、21日間経口投与、CDDP 75mg/m2をday 1に静注した。CF群には5-FU 1000mg/m2/24時間の持続静注をday 1〜5に、CDDP 100mg/m2をday 1に静注した。両群とも投与は4週ごとに繰り返し、CDDPは6週で終了したが、S-1と5-FUは病勢進行または忍容しがたい副作用が発現するまで続けた。支持療法として制吐剤、止痢薬、G-CSFなどの投与を許可した。非劣性は、ハザード比(HR)の95%CIの上限が≦1.10の場合とした。
 2005年5月〜2007年3月に1053例がランダム化され、1回でも薬剤投与を受けた1029例(CS群521例、CF群508例)が解析対象となった。CS群とCF群の主な患者背景は、年齢中央値が59.0歳、60.0歳、男性73.3%、68.3%、白人85.8%、86.2%、胃癌84.1%、82.1%、食道胃接合部癌15.7%、17.3%、遠隔転移95.4%、96.1%である。
 OSに関する観察打ち切り患者の追跡期間中央値18.3ヵ月におけるOS中央値はCS群8.6ヵ月、CF群7.9ヵ月で、HR 0.92、95%CI 0.80-1.05であった。したがってCS療法のCF療法に対する非劣性が認められた。
 安全性についてみると、relative dose intensityの中央値はS-1が0.92、5-FUが0.95、CDDPはCS群0.97、CF群0.95であった。投与中止の主要原因は病勢進行(全例の62.1%)で、有害事象を主原因として中止したのはCS群10.7%、CF群14.4%とCS群のほうが少ない傾向にあった。また、いずれかの薬剤について少なくとも1段階の減量を要したのは22.8% vs 45.1%(p<0.001)、治療関連の重篤な有害事象は20.5% vs 29.7%(p=0.001)、入院を必要としたのは67.4% vs 80.7%(p<0.001)と、いずれもCS群のほうが有意に低頻度であった。
 少なくとも1つの有害事象をみたのは全グレードではCS群98.7% vs CF群99.2%と(p=0.547)有意差はなかったが、グレード3以上では76.0% vs 86.6%(p<0.001)とCS群が有意に少なかった。
 グレード3以上の有害事象についてみると、血液毒性の発症頻度は、好中球減少18.6% vs 40.0%(p<0.001)、血小板減少5.4% vs 8.5%(p=0.064)、白血球減少7.3% vs 13.8%(p<0.001)、発熱性好中球減少(1.7% vs 6.9%、p<0.001)で、いずれもCS群で有意または低い傾向にあった。グレード3以上の好中球減少性感染症はみられなかった(グレード1/2で3.1% vs 8.3%、p<0.001)。
 非血液毒性で有意差がみられたのは口内炎/粘膜炎(グレード3以上2.1% vs 21.7%、p<0.001)、低カリウム血症(p<0.001)、低リン酸血症(p<0.001)、低マグネシウム血症(p=0.011)で、いずれもCS群が有意に低頻度あった。下痢はグレード3以上では有意差はなかったが、全グレードではCS群が有意に少なかった(29.2% vs 38.4%、p=0.002)。腎障害28.2% vs 48.2%、腎関連有害事象は18.8% vs 33.5%と、ともにCS群が有意に低頻度であった(p<0.001)。
 毒性による死亡は2.5% vs 4.9%(p=0.047)であったが、骨髄抑制による死亡はCS群4例、CF群14例(0.8% vs 2.8%、p=0.017)とCS群が有意に少なく、腎関連死は0.2% vs 1.0%(有意差なし)、肝関連死はみられなかった。
 以上のとおり、進行胃癌に対するS-1+CDDP療法はS-1+5-FU療法に比べOSに関しては非劣性であり、有害事象は頻度も重度も低く、忍容性に優れていた。またS-1+CDDP療法は投与法も簡便であることから、進行胃癌においてCDDP+5-FU療法より安全に実施できると結論づけることができるであろう。

監訳者コメント

S-1+CDDP療法は国際的標準治療になるか

 2010年のFLAGS試験の報告では、S-1+CDDP療法の5-FU+CDDP療法に対するOSの優越性は証明されなかった。しかし、安全性が高く、今回改めて非アジア地域における進行胃癌に対するS-1+CDDP療法のOSでの非劣性、安全性が示されたことになる。
 有害事象については、グレード3以上の好中球減少(18.6% vs 40.0%)、発熱性好中球減少(1.7% vs 6.9%)、口内炎/粘膜炎(2.1% vs 21.7%)で、有意にS-1+CDDP療法で少なく、欧米人に多いとされるS-1による下痢についても、グレード3以上では差がなかったが、全グレードではS-1+CDDP療法群が有意に少なく、発症率も本邦のSPIRITS試験と大きな差はなかった。その他、腎関連有害事象(18.8% vs 33.5%)、毒性による死亡(2.5% vs 4.9%)についてもS-1+CDDP療法群が有意に低頻度であった。
 今回の試験では、dose-intensityを減弱してもOSに差がなく、毒性も軽減され簡便であることから、欧米でも標準治療の一つになりうると考えられる。
 最近、S-1+OxaliplatinのS-1+CDDPに対する非劣性の報告があり、毒性も軽く入院の必要性も少ないことから、今後S-1+CDDPに代わるレジメンとなる可能性もある。しかし、現時点では決して進行胃癌の予後は良いとはいえず、HER-2陽性胃癌に対するTrastuzumab併用のような新たな分子標的薬の開発・併用や、バイオマーカーに基づく個別化治療、強力で安全な3剤併用療法の開発などが待たれるところである。

監訳・コメント:国立病院機構名古屋医療センター 外科 片岡 政人(外科医長)

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