監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
進行再発胃癌に対するSecond-lineとしてのIrinotecan vs weekly Paclitaxel、第III相ランダム化比較試験: WJOG4007
Hironaka S, et al., J Clin Oncol, 2013 ; 31(35) : 4438-4444
JCOG 9912試験やSPIRITS試験、GC0301/TOP-002試験の結果から、わが国における進行胃癌のfirst-lineはS-1+cisplatin(SP)療法である。SP療法抵抗性となった場合のsecond-lineには確立したエビデンスはないが、70%を上回る患者が2次治療を受けているのが現状である。進行胃癌に対するsecond-lineに関してはいくつかの第II相試験の結果に基づき、わが国ではweekly paclitaxel(PTX)またはirrinotecan(CPT-11)を含む治療がしばしば行われている。この2剤を直接比較した第III相臨床試験はない。そこでWest Japan Oncology Group(WJOG)はPTXとCPT-11を比較する多施設共同第III相オープンラベルランダム化比較試験(WJOG 4007)を行った。
対象はSP療法などのfirst-line抵抗性の進行再発胃癌患者、20〜75歳、ECOG performance status(PS)0〜2、CPT-11またはタキサン系薬剤治療歴がなく、明らかな腹膜転移がない患者とした。ランダム化は中央で行い、最小化法(施設・PS・測定可能病変の有無を調整因子とした)により1:1に割付けた。PTX群にはPTX 80mg/m2をday 1、8、15に静注、CPT-11群にはCPT-11 150mg/m2をday 1、15に静注。4週を1コースとし、病勢の進行または重篤な副作用の出現がなければ繰り返し投与を行った。
主要評価項目はoverall survival(OS)、副次評価項目はprogression-free survival(PFS)、奏効率、安全性、third-lineへの移行割合とした。
2007年8月〜2010年10月に37施設、223例が登録され、適格患者229例中108例がPTX群に、111例がCPT-11群に割付けられた。PTX群およびCPT-11群の患者背景に大きな差はなく、それぞれ、年齢中央値64.5歳:65歳、男性割合77.7%:78.4%、ECOG PS 0〜1の割合96.3%:96.4%であった。first-lineはSP療法が最も多く(85.2%:91.9%)、2つ以上の転移部位を有する患者の割合はそれぞれ47.2%:42.3%であった。
薬剤投与回数の中央値はPTX群11.5、CPT-11群4.5で、投与中止は主に病勢進行を理由としていた。副作用による中止はPTX群5.6%、CPT-11群9.1%、third-lineへの移行割合は89.8%:72.1%(p=0.001)でPTX群に多かった。third-line以降の治療も含めるとPTX群の80.6%がCPT-11を、CPT-11群の67.6%がPTX投与を受けていた。
追跡期間の中央値17.6ヵ月で203例(92.7%)が死亡した。主要評価項目であるOSはPTX群9.5ヵ月(95%CI 8.4 - 10.7)、CPT-11群8.4ヵ月(95%CI 7.6 - 9.8)で有意差を認めなかった(HR 1.13、95%CI 0.86-1.49、p=0.38)。PFSはPTX群3.6ヵ月(95%CI 3.3-3.8)、CPT-11群2.3ヵ月(95%CI 2.2-3.1)であった(HR 1.14、95%CI 0.88-1.49、p=0.33)。奏効率はそれぞれ20.9%:13.6%であった(p=0.24)。
サブグループ解析においてもPTX群のOSが全体的に良好な傾向を認め、効果の方向性は一定していた。
有害事象に関して、Grade 3以上の血液毒性はPTX群で白血球減少(20.4%)、好中球減少(28.7%)、貧血(21.3%)、CPT-11群で白血球減少(19.1%)、好中球減少(39.1%)、貧血(30.0%)であった。非血液毒性は、Grade 3〜4の末梢神経障害がPTX群7.4%にみられたが、CPT-11群での発症はなかった。発熱性好中球減少はPTX群、CPT-11群でそれぞれ2.8%:9.1%であり、最終治療後30日以内の死亡はそれぞれ3例:4例、CPT-11群の2例が独立した安全評価委員会によって治療関連死と判定された。
本臨床試験の結果より、進行再発胃癌に対するsecond-lineとしてのCPT-11はweekly PTXに対して優越性を示すことができなかった。またPFS、奏効率にも差がなかった。これまで実施されてきた他の試験に比べてPSが良好で、明らかな腹膜転移のない患者を対象としたため、両群のOSがやや長かった。またthird-lineへの移行割合が高かったのも腹膜転移患者を除外したことが影響していると考えられた。いずれにしても、本試験の結果から、PTXおよびCPT-11はどちらもsecond-lineの選択肢となりえると考えられた。薬剤を選択に関しては2剤の有害事象のプロファイルや投与スケジュールなどによって判断されるべきである。
進行再発胃癌のsecond-lineはパクリタキセルが使いやすい
すでに本稿の結果は、進行再発胃癌のsecond-lineに関する初めての第III相臨床試験として、2012年のASCOで発表されている。臨床医の診療感覚との整合性が良好であり、試験内容の詳細はすでに広く普及している。本研究はPTXの優越試験でないため検証的な結果にはならなかったが、OS、PFS、奏効率、third-line移行割合すべてにおいてPTXが有利な傾向にあり、有害事象に関しても、血液毒性はほぼ同等で、末梢神経障害以外のほとんどの項目でPTXが軽微であった。CPT-11は消化器毒性が高く、腹水を有する症例やイレウスの懸念がある症例に使いにくいこと(本試験では除外された症例群)、本試験においても関連死亡が2例存在することを考慮すると、PTXに優先してCPT-11を使用する根拠は乏しく、second-lineはPTXを選択するほうが自然であると考えられる。また、PTXを先行させてもthird-line移行割合が維持されたという結果も重要である。
この結論はすでに臨床家にとって受け入れられつつあると思われるが、試験背景について若干の議論の余地もある。もちろん本試験のプロトコール作成の時点で十分に議論をつくされたことであろうが、本研究開始時点で必ずしもPTXが標準とはいえず、そのOSが5ヵ月という設定根拠も十分とはいえない。さらにCPT-11が50%の優越性を示すという見積りにも若干の無理があった。本来的には非劣性試験のデザインを第一に考慮したのかもしれないが、おそらくはサンプルサイズなどの観点から試験実施可能性が損なわれることが懸念されたのではないかと推察される。研究者の苦悩も推して知るところではあるが、見積もりのOSが5ヵ月に対して実際には9.5ヵ月となるとサンプルサイズ設計の根底が覆ることとなり、主要評価項目を検証できないという残念な結果となった。しかし、主要評価項目がNegativeな結果であっても、しっかりと結果を吟味して発信していくことで、実臨床に合理的な方針を提示することが可能であるということも本研究は教えてくれた、非常に意義深い成果と考えられる。
監訳・コメント:がん研有明病院 消化器外科 本多 通孝
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