監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
前治療を受けた進行胃腺癌または胃食道接合部腺癌に対するramucirumab単独療法(REGARD):国際多施設共同第III相プラセボ対照ランダム化比較試験
Fuchs CS., et al. Lancet, 2014 ; 383 : 31-39
胃癌のsecond-line治療では、米FDAやEMA(European Medicines Agency)はじめ多くの国の医薬品管理局が承認しているものはなく、新しいターゲット療法による進行胃癌患者の予後改善が求められている。胃癌の発生と病勢進行にはVEGFおよびVEGFR-2を介するシグナル伝達と血管新生が重要な役割を果たしており、胃癌患者の循環血中および腫瘍内のVEGF濃度が腫瘍の攻撃性増強と生存率低下に関連することがわかっている。ramucirumabは完全ヒト化IgG1モノクローナル抗体VEGFR-2拮抗薬で、リガンド結合と内皮細胞における受容体の活性化を阻害する作用をもつ。そこで進行胃癌患者を対象にramucirumabの有効性と安全性を検討する国際第III相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を行った。
対象は24〜87歳の転移または切除不能、局所再発胃癌または胃食道接合部癌患者で、白金製剤またはfluoropyrimidineを含む術後補助療法の最終治療後4ヵ月以内に病勢進行をみた症例(ECOG PS 0/1)などとした。対象患者はBSC(best supportive care)下でramucirumab投与群(R群)とプラセボ群(P群)に2 : 1にランダムに割り付けられた。
R群にはramucirumab、P群にはプラセボを8mg/kg、2週ごとに静注し、病勢進行または忍容しがたい副作用が認められるまで継続した。
主要評価項目はOS、副次評価項目は奏効率、奏効期間、PFS、12週時点でのPFS、安全性、QOL(EORTC QLQ-C30、version3.0にて評価)、ramucirumabの免疫原性である。
2009年10月〜2012年1月に世界29ヵ国、119施設で355例が、R群238例、P群117例に割り付けられた。R群 vs P群の年齢中央値は60歳 vs 60歳、男性は71% vs 68%、胃を原発部位としていたのは75% vs 74%、腸型22% vs 30%、びまん型40% vs 38%、転移部位数3以上は32% vs 39%、腹膜転移27% vs 38%と、腹膜転移がP群にやや多い以外は両群の背景因子に差はなかった。
奏効率はR群3% vs P群3%で同等であったが、疾患コントロール率は49% vs 23%でR群が有意に優れていた(CR以上1% vs 0%、PR 3% vs 3%、SD 45% vs 21%、p<0.0001)。PDは33% vs 54%であった。奏効期間中央値は4.2ヵ月 vs 2.9ヵ月でR群が有意に長かった(P=0.036)。
データカットオフ時(2012年7月25日)、R群179例(75%)、P群99例(85%)が死亡していた。OS中央値はR群5.2ヵ月、P群3.8ヵ月でR群に有意な延長が認められた(HR 0.776、95%CI 0.603-0.998、p=0.047)。6ヵ月OSは41.8% vs 31.6%、12ヵ月OSは17.6% vs 11.8%であった。
Cox比例ハザードモデルにて有意な予後不良因子であることが認められたPS (≧1、ECOG基準)、原発部位(胃食道接合部癌)、腹膜転移の有無で補正してもOSに関するR群の優位性は変わらなかった。また多変量解析でも、R群はP群に比べ有意に優れていた(HR 0.767、95%CI 0.598-0.984、p=0.037)。
PFS中央値は2.1ヵ月 vs 1.3ヵ月、概算での12週PFSは40.1% vs 15.8%で、やはりR群で有意に優れていた(HR 0.483、95%CI 0.376-0.620、p<0.0001)。またすべてのサブグループにおいてR群の優位性が認められた。
データカットオフ時にR群222例(93%)、P群114例(97%)が治療を中止していた。その主な理由は、病勢進行と副作用であった。治療期間の中央値はR群8週、P群6週で、相対的dose intensityは99.6% vs 100%と、どちらも高かった。
副作用は全GradeがR群223例(94%)、P群101例(88%)でGrade 3以上はR群57%、P群58%で認められた。R群ではP群に比べて全Grade(16% vs 8%)およびGrade 3の高血圧(8% vs 3%)が高頻度にみられたがGrade 4の高血圧はなかった。そのほか、Grade3 以上の動脈血栓塞栓症がR群でやや高頻度にみられた以外、副作用は両群ほぼ同様であった。治療関連死はR群5例(2%)、P群2例(2%)で認められた。
抗ramucirumab抗体検出血清サンプルはR群88%、P群92%から得られ、それぞれ3%、1%以下で抗体が検出されたが、静注関連の反応はみられず、ramucirumabに対する中和抗体も認められなかった。
QOLのデータは治療前にR群97%、P群94%から得られたものの、最初の6週間ではそれぞれ48%、25%に減少した。その主な理由は治療中止であった。6週間のデータを解析すると、全般的QOLが不変もしくは改善と報告している症例はP群に比べてR群で多かったが、有意差には至らなかった(p=0.23)。
First-line治療後に進行をみた胃癌/胃食道接合部癌において、ramucirumab単独療法はBSCに比べ有意にOS、PFSを改善した。ramucirumabによる生存成績の改善はすべてのサブグループ解析においても認められ、また予後因子での補正後も維持された。副作用は高血圧が多かったものの、Grade 3の高血圧は少なく、ramucirumabは忍容性にも優れていた。本試験はVEGFR-2をターゲットとする治療法の役割に関するエビデンスを提供し、進行胃癌における新たな重要な治療オプションを示したものと考える。
胃癌second-line治療の可能性が示される
近年の分子標的治療薬の進歩は著しく、消化器癌領域、特に大腸癌領域においては日本においてもBevacizumab、Cetuximab、Panitumumabなどが実臨床において用いられている。しかし胃癌領域においては、Trastuzumab以外はnegativeな結果に終わっている。ToGA試験においてはHer2陽性胃癌に対するTrastuzumabの延命効果が示され、現在胃癌治療ガイドライン上もHer2陽性胃癌に対するfirst-lineとして示されている。Second-lineにおいてはガイドラインでも推奨される治療法は存在しないが、今回のREGARD試験で胃癌のsecond-line治療の可能性が示された事になる。しかし日本においては、second-line治療としてイリノテカンやタキサン系抗癌剤が用いられている現状を考えると、ramucirumab単独で用いる事は難しく、イリノテカンやタキサン系抗癌剤との併用が行われていくと推測される。本年のASCO-GIで、パクリタキセル+ramucirumabを検討したRAINBOW試験でポジティブな結果が報告された。
監訳・コメント:埼玉医科大学総合医療センター 消化管一般外科 持木 彫人(教授)
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