監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
CROSS 試験における手術単独療法 vs 術前化学療法+手術療法後の再発パターン
Oppedijk Y, et al. J Clin Oncol, 2014;32:385-391
食道癌の予後は不良で、唯一の治癒的療法であった手術を行っても、不完全切除率25%、局所限局再発率30〜40%で、5年生存率が25%を超えることはほとんどなかった。手術単独療法と術前化学放射線療法を比較したランダム化比較試験の大半は術前化学放射線療法の延命効果を示すことができなかったが、最近のメタアナリシスで有意な効果を認めている。また、食道癌患者に対する手術+化学放射線療法(CRT)の効果を手術単独療法と比較したCROSS第III相試験では、CRT群の 5年生存率は13%高く、忍容性にも優れていたことを示した。しかし再発パターンについて放射線化学療法と手術療法を比べた報告は少ない。そこで、CROSS試験の患者について再発パターンを解析した。同様の手術+CRTを検討した第II相試験についても解析対象とした。
対象は18〜75歳、WHO基準のPS≦2、UICC 2002に基づくcT1N1M0またはcT2-3N0-1M0の切除不能食道扁平上皮癌/腺癌で、体重減少が≦10%の患者である。非メラノーマ皮膚癌、治癒的治療を受けた子宮頸部上皮内癌、登録から5年前以上に治療を受けて再発していない癌を除く悪性疾患罹患歴/罹患中は不適格とした。また、放射線療法/化学療法歴のある者は不可とした。
適格患者は術前CRT+手術療法(CRT+S群)または手術単独療法(S群)にランダムに割り付けた。化学療法は、paclitaxel(50mg/m2)+CBDCA(AUC 2)のday 1、8、15、22、29投与を5コース行った。放射線療法は3次元原体外照射で総線量41.4Gy(1.8 Gy×23分割)とし、化学療法初日から開始した。手術は、S群ではランダム化後可及的速やかに、CRT+S群ではCRT完了後6週時点に、2領域リンパ節郭清を行う経胸的アプローチまたは、経裂孔的アプローチで実施した。
再発は局所限局または遠隔転移に分け、局所限局再発は原発巣/局所リンパ節、腹腔動脈リンパ節または鎖骨上リンパ節における再発とした(以下、局所再発)。遠隔転移は非領域リンパ節、全身転移、悪性胸水浸潤、腹膜転移とした。
適格症例418例中、切除術を受けた374例をCRT+S群213例(第II相試験52例+第III相試験161例)、S群161例(第III相試験)に割り付けた。診断時の年齢中央値はともに60歳、男性はS群80% vs CRT+S群81%、T3は76% vs 85%、N1は66% vs 61%、腺癌は76% vs 75%など、患者背景に有意差はなかった。追跡期間は24ヵ月以上、生存例の追跡期間中央値は45ヵ月であった。
手術を受けた患者のうちS群57.1%、CRT+S群34.7%で再発をみた(CRT+S群におけるDFSのHRは0.47、95%CI 0.35-0.64)。局所再発のみだったのはS群の9.3%に対しCRT+S群は3.3%で(無局所再発生存のHR 0.37、95%CI 0.23-0.59)、遠隔転移は23.6% vs 20.7%(無遠隔転移生存のHR 0.52、95%CI 0.38-0.73)、局所再発+遠隔転移を有していたのは24.2% vs 10.8%であった。局所再発の大半は追跡期間2年以内に生じており、CRT+S群では30ヵ月以降の局所再発はみられなかった。
CRT後病理学的CR(pCR)に達した59例では7%で局所再発±遠隔転移をみたが、局所のみに再発が生じたのは1例(1.7%)に過ぎなかった。これに対し、pCRに達しなかった154例の局所再発±遠隔転移率は17%で、局所にのみ再発を生じたのは4%であった。
再発部位は、吻合部がS群8.7% vs CRT+S群2.8%(p=0.008)、縦隔が20.5% vs 7.0%(p<0.001)、腹膜が13.7% vs 4.2%(p<0.001)、血行性転移が35.4% vs 28.6%(p=0.025)と、いずれもS群が有意に高頻度であったが、鎖骨上リンパ節または腹腔動脈での再発は両群同等であった。
CRT+S群において放射線照射野と再発の関連を調べたところ、局所再発±遠隔転移は照射野内5.2%、辺縁部2.3%、照射野外6.1%にみられ、局所再発のみはどの照射野においても0.9%に過ぎなかった。鎖骨上リンパ節と腹腔動脈は放射線照射野外であった。
局所再発の予測因子についてみると、単変量解析では手術単独療法、pN1、R1切除が、多変量解析では手術単独療法、pN1、扁平上皮癌が独立した危険因子として認められた。扁平上皮癌はS群では腺癌に比べて局所再発率が高かったが(47% vs 30%)、CRT+S群では有意差はなかった(15%vs 14%)。
以上の解析が示すように、食道癌患者において術前放射線化学療法は局所再発率も遠隔転移率も低下させた。特に放射線化学療法後pCRを得た患者では再発のリスクが低かったが、これは放射線化学療法によって微小残存病変が減少したことによると思われる。なお、扁平上皮癌は放射線化学療法によく反応するため、手術単独療法では局所再発のリスクが高いと考えられた。
日本における食道癌標準治療確立に期待
CROSS Study Groupは「食道または食道胃接合部癌」患者に対するCRT+S群の第II相試験の良好な結果に基づき、S群と比較し生存が改善することを示す第III相試験の結果をASCO 20101、2012年のN Engl J Med2で発表した。腺癌が75%を占め、手術は2領域リンパ節郭清を伴う経胸的または経裂孔的アプローチを実施した。今回は両者の再発形式を比較した結果がJ Clin Oncolに掲載された。
欧米では第III相試験の結果が相反しエビデンスがないまま、術前CRT(一部ではNAC)が見なし標準となっている。一方、本邦ではJCOG 9907試験(扁平上皮癌のみを対象)により根治切除可能なStage II / IIIの標準治療は5-FU+CDDPによるNAC+Sである。定型手術は局所制御の高いD3郭清であり、術前に放射線療法を加えることのメリットは欧米と比較すると小さいと考えられる。しかし、JCOG 9907試験の解析においてNAC+S群の「局所」再発割合は24%であり、局所コントロールをさらに強化することで生存期間が延長する可能性を示唆している。
すでにJCOG食道がんグループでは術前のCF療法、DCF療法、CRT療法の3群比較第III相試験(JCOG 1109、NExT試験)が進行中であり、本邦の標準治療における術前CRTの意義に関して結果が待たれる。
新潟県立がんセンター新潟病院消化器外科 藪崎 裕(消化器外科部長)
1.Gaast AV et al. ASCO 2010 Abstr #4004.
2. van Hagen P et al, N Engl J Med. 2012 May 31;366(22):2074-84.
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