論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

切除不能食道癌に対する標準的食道ステントと放射性ヨウ素線源(125iodineシード)装着の食道ステントによる治療効果の比較 : 多施設共同第III相ランダム化比較試験

Zhu H-D., et al. Lancet Oncol., 2014; 15(6): 612-619

 切除不能進行食道癌の主な症状である嚥下困難を緩和するために、多くの場合、姑息的な治療が行われる。なかでも嚥下困難を早急に緩和する方法として、食道ステントの挿入は効果的である。小線源療法に関してもステント挿入と比較して治療効果が現れるまでに時間がかかるが、食道の長期の開存が期待されている。切除不能進行食道癌に対して、ステント挿入と小線源療法を併用することでより効果的に嚥下困難を緩和できると考えられる。これらの目的で近年、放射性ヨウ素線源(125Iシード)を装着した食道ステント(125Iシードステント)が開発された。先行する著者らの行った125Iシードステント挿入群と標準的なステント挿入群を比較する第II相無作為化比較試験では、嚥下困難はいずれの群でも改善を認めたが、ステント挿入後2ヵ月以降では125Iシードステント挿入群で有意に嚥下困難の改善を認めていた。今回、切除不能進行食道癌患者において、125Iシードステントの標準的なステントに対する有用性を示すために、多施設共同単盲検第III相無作為化比較試験を行った。
 中国の16施設の20歳以上の切除不能食道癌患者のうち、嚥下困難スコアが3または4であり、ECOG PSが0から3の患者を対象とした。患者は125Iシードステント挿入群(試験群)、または標準的なステント挿入群(対照群)に無作為に割り付けられ、どちらの群に割り付けられたかはステントを挿入する医師にのみ知らされた。125Iシードはカプセル内に密封され、ステント挿入直前にステントの外面に装着された。ステントの挿入は内視鏡下または透視下で行われた。主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は嚥下困難スコア、ステント挿入に関連する合併症と有害事象、ステント挿入の成功率とした。
 登録期間は2009年11月から2012年7月の32ヵ月間であり、全観察期間は36ヵ月間であった。平均観察期間は試験群で138日間、対照群で123日間であった。試験に参加した患者は160例であり、そのうち148例にステントが挿入された(試験群73例、対照群75例)。両群の患者背景は性別、腫瘍の部位以外はほぼ同様であった。ステント挿入の手技は148例全例で、問題なく施行された。117例(79%)は内視鏡下で、31例(21%)は透視下でステントが挿入された。追跡期間中に130例(試験群66例、対照群64例)は死亡し、患者の多くは病気の進行に伴う悪液質や多臓器不全による死亡であった(試験群41例[62%]、対照群43例[67%])。平均生存期間は試験群で177日であるのに対し、対照群では147日であった(p=0.0046)。単変量解析ではステント挿入前の化学放射線療法施行の有無とステントの種類が予後不良因子であったのに対し、多変量解析ではステントの種類のみが独立する予後不良因子であった(p=0.0060)。化学放射線療法をステント挿入前に施行した患者では化学放射線療法を施行していない患者と比較してOSは有意に短かった(化学放射線療法施行群141日間、非施行群186日間:p=0.043)。嚥下困難はいずれの群においてもステント挿入翌日から改善を認めた。ステント挿入後の1ヵ月以降では試験群では対照群と比較して有意に嚥下困難の改善を認めた。ステント挿入に伴う合併症に関しては両群で有意な差は認めなかった。
 125Iシードステントの挿入は嚥下障害の緩和と生存率の延長に寄与することが示された。小線源治療は腫瘍内部に直接作用するため、周囲の組織への影響は少ない。小線源療法は切除不能食道癌患者における姑息的な嚥下障害の緩和や放射線照射療法の追加治療として広く用いられているが、線量に関しての標準線量に関しての報告はない。本試験では小線源周囲の線量は40から50Gyと推定され、1年間の追跡期間ではその忍容性や安全性には問題なかった。
 本試験では平均生存期間は試験群で177日、対照群で147日であり、他の過去の報告とも同様であった。低栄養は治療に対する反応を低下させる影響が考えられるため、本試験ではECOGによるPSも適格条件に含めた。ほとんどすべての症例でステント挿入の翌日から嚥下障害の緩和を認めた。切除不能食道癌患者にとって125Iシードステントは標準型ステントに比べて優れた治療法であると考える。

監訳者コメント

切除不能進行食道癌患者において食道ステントと小線源療法の組み合わせは標準的な治療となるか?

 日本食道学会食道癌診断・治療ガイドラインによれば、食道ステントの適応は遠隔転移を有する、根治切除や化学放射線療法の適応から外れる高度狭窄例や、食道瘻形成例とされている。本邦でも1995年からSEM(self-expandable metallic stent)が保険適応となっている。
 食道癌における小線源療法では、192Irを用いた腔内照射が一般的で6~24Gyの照射が行われている。放射性ヨウ素線源(125Iシード)を用いた報告はないが、125Iシード装着の食道ステントにおける従来の小線源療法と比較したメリットとしては、ステント治療の両者を融合していること、装着が容易であること、腫瘍表面に密着すること、低線量で持続的に効果をもたらすことができることが挙げられている。
 本検討では、新しく開発された125Iシード装着の食道ステントにより、通過障害を長期間に渡って緩和できるだけでなく、生存期間に関しても延長する効果があることが示された。
 125Iシード装着の食道ステントは切除不能進行食道癌の患者において新たな治療選択肢となりうる可能性がある。しかし一方で、放射線療法や化学放射線療法施行前後のステント挿入は、出血・穿孔・縦隔炎を併発するリスクが高いことが指摘されており、本ステント挿入においても、有害事象の増加がないか十分注意する必要がある。

1. Homs MY, et al. Lancet 2004; 364: 1497-1504.

監訳・コメント:慶應大学医学部 一般・消化器外科
島田 理子(助教)/竹内 裕也(准教授)/北川 雄光(教授)

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