論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2014年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

アジア人のHER2遺伝子増幅進行胃癌患者に対する2nd-line治療としてのLapatinib+Paclitaxel 併用療法 vs Paclitaxel単独療法 : 無作為化第III相試験TyTAN

Satoh T., et al. J Clin Oncol., 2014; 32(19): 2039-2041

 胃癌患者ではIHC法で8.2〜29.5%にHER2蛋白発現が、FISH法で3.8〜27.1%にHER2遺伝子増幅がみられる。アジアでのHER2陽性進行胃癌に対する標準的な1st-line治療はTrastuzumab+化学療法で、2nd-line治療はPaclitaxel(PTX)の週1回投与であるが、2nd-line治療のHER2阻害薬の役割は明確になっていない。LapatinibはErbB1およびHER2に結合し、その自己リン酸化、下流へのシグナル伝達を阻害する。そこで、HER2陽性進行胃癌に対する2nd-line治療として、Lapatinib+PTX療法の有効性と安全性をPTX単独療法と比較検討した。
 TyTAN試験は、至適用量設定のオープンラベル非無作為化試験(パイロット試験)と、Lapatinibの上乗せ効果を検討する無作為化比較試験の2段階から成っている。パイロット試験には日本の9施設が、無作為化比較試験には日本、中国、韓国、台湾の48施設が参加した。対象は20歳以上、ECOG PS 0〜1の胃癌患者で、前治療後病勢進行をみた症例(前治療からは2〜6週間経過していること)である。抗EGFR薬およびTaxan系薬剤投与歴は不可とした。
 無作為化比較試験の主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、TTP、奏効率、奏効期間、安全性である。
 パイロット試験では2007年6月〜2009年1月に胃切除術歴なし6例と胃切除術(幽門側切除)歴あり6例の計12例を登録した。患者には28日を1コースとして、Lapatinib 1500mg/日(p.o.)+PTX 80mg/m2(1時間でi.v. day 1、8、15)を投与した。用量減を要する毒性は認められなかったため、安全及び効果検討委員会(SERC)は、胃切除歴の有無、切除術の種類にかかわらず、このレジメンを至適と認めた。
 無作為化比較試験では、2008年3月〜2012年1月にFISH法によりHER2陽性と確認された胃癌患者261例(ITT集団)を登録し、Lapatinib+PTX療法(併用群:132例)またはPTX単独療法(単独群:129例)に無作為化した。年齢中央値は併用群60.8歳 vs. 単独群60.4歳、男性は77% vs. 82%、IHC法0/1+が36% vs. 35%、2+が12% vs. 12%、3+が52% vs. 53%、胃切除歴なしは42% vs. 43%、幽門切除例は50% vs. 49%、幽門温存胃切除例は8% vs. 9%など、両群の背景因子に差はなかった。
 中央ラボにおける検査で併用群124例、単独群121例をFISH陽性と確認し、これをmITT集団とした。
 ITT集団の奏効率は27% vs. 9%で併用群が有意に優れていた(OR=3.85, 95%CI:1.80-8.87, p<0.001)。奏効期間の中央値は7.4ヵ月 vs. 5.1ヵ月で有意差はなかった。mITT集団でも奏効率は併用群が有意に優れていた(27% vs. 8%、OR=4.17, 95%CI:1.89-10.00, p<0.001)。
 ITT集団のOS中央値は併用群11.0ヵ月 vs. 単独群8.9ヵ月で有意差はなかった(HR=0.84, 95%CI:0.64-1.11, p=0.1044)。mITT集団でも中央値11.0ヵ月 vs. 8.9ヵ月(HR=0.88, 95%CI:0.66-1.17, p=0.1772)と同様の結果であった。
 PFSおよびTTPはITT集団もmITT集団も、中央値5.5ヵ月 vs. 4.4ヵ月で有意差はみられなかった(ITT集団のPFSのHR=0.85, 95%CI:0.63-1.13, p=0.2441、TTPのHR=0.84, 95%CI:0.63-1.12, p=0.2163)。
 サブグループ解析を行ったところ、胃切除歴のない患者では単独群に比べて併用群で病勢進行・死亡のリスクが低下していた(HR=0.63, 95%CI:0.40-0.99, p=0.0360)。IHC法3+の患者でも併用群で死亡(HR=0.59, 95%CI:0.37-0.93, p=0.0176)および病勢進行(PFS中央値 5.6ヵ月vs. 4.2ヵ月、 HR=0.54, 95%CI:0.33-0.90, p=0.0101)のリスク低下がみられた。一方、IHC法0/1+、2+の患者ではOSにもPFSにも治療群間の有意差は認められなかった。また中国人患者では、OS中央値が9.7ヵ月vs. 7.6ヵ月(p=0.0351)、PFS中央値が7.2ヵ月vs. 4.7ヵ月(p=0.0077)と併用群で有意な改善がみられたが、日本人患者ではOS 中央値12.0ヵ月vs. 14.6ヵ月(p=0.6198)、PFS中央値 3.7ヵ月vs. 4.0ヵ月(p=0.6778)と有意差はなかった。
 安全性については、パイロット試験では全例で治療薬関連の有害事象が1つ以上発生したものの、前述したように用量減を要するDLTは認められなかった。一方、無作為化比較試験では、治療中止に至る有害事象の発生頻度は併用群16%、単独群9%と併用群において高かった。下痢、食欲不振が併用群で、感覚神経障害が単独群で高頻度であった。
 無作為化比較試験では併用群評価可能131例全例(100%)が、単独群129例中127例(98%)がgradeにかかわらず何らかの有害事象を発症した。Grade 3の有害事象は併用群46% vs. 単独群45%、grade 4は38% vs. 9%であった。致死的有害事象は併用群6例で発生し、うち4例は治療関連と考えられたが、単独群で発生した3例はいずれも治療関連とは考えられなかった。
 HER2陽性進行胃癌の2nd-line治療においてPaclitaxel+Lapatinib併用療法は、paclitaxel単独療法に比べてOSについてもPFSについても有意差を示さなかった。一方で小規模ながらサブグループ解析ではFISH法陽性かつIHC法3+の患者、中国人患者で有意な改善がみられたことから、これらの患者に対しては本併用療法が考慮されてもよいと考える。日本人患者に関しては、前治療におけるOS中央値が予想より延長しており、これがOS、PFSに有意差が出なかった一因かと思われる。安全性のプロフィルは予想されたものであり、新たな有害事象は認められなかった。

監訳者コメント

HER2陽性胃癌患者に対する2nd-line治療のおける、PTX療法へのLapatinibの上乗せ効果をみる無作為化試験の結果

 Lapatinibは、癌細胞の増殖を促進するHER2(ErbB2)に対して強力な阻害作用を示し、癌細胞の増殖をおさえる分子標的治療薬であり、その効果は、乳癌ですでに証明されている。HER2陽性胃癌患者に対しても同様の作用機序でTrastuzumabに続く分子標的薬として治療効果が期待される。
 TyTAN試験は、こういった背景をもとにHER2陽性胃癌に対する2nd-line治療として初めての無作為化第III相比較試験として胃癌の多いアジアを中心に企画された試験で、HER2陽性胃癌患者に対する2nd-line治療における、PTX療法へのLapatinibの上乗せ効果をみる無作為化試験として非常に期待された試験であった。
 本試験でのポイントとしてまずは、パイロット試験では至適用量が確立された点があげられる。
 次は治療効果に関してであるが、奏効率で有意差がみられたものの主要評価項目であるOSに関しては、有意差を認めず結果としては、negativeとなった。しかしながら、サブグループ解析では、FISH陽性かつIHC3+のHER2強陽性の患者に対しては有意な改善がみられていることは注目すべき点である。FISH陽性を適格基準としており、結果として登録患者のうち約35%にFISH陽性、IHC法0/1+の症例が含まれ、このことが大きく結果にかかわったと考えられる。HER2強陽性のみを適格症例として試験を行っていればpositiveとなっていた可能性がある試験だけに悔やまれるところである。
 この結果をふまえ、HER2強陽性に症例を限定して新たな臨床試験を計画するなど今後の展開に期待する。

監訳・コメント:神戸市立医療センター中央市民病院 三木 明(外科医長)

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