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2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

化学療法実施歴のない進行胃癌患者に対するS-1+OxaliplatinとS-1+Cisplatinを比較する第III相試験

Yamada Y., et al. Ann Oncol., 2015; 26(1): 141-148

 フッ化ピリミジン系製剤+Cisplatin(CDDP)±Epirubicin療法は進行胃癌の1st-line治療法として広く用いられているが、日本ではS-1+CDDP(CS)療法が標準療法とされている。第III相FLAGS試験ではCS療法は進行胃癌の1st-line化学療法として5-FU+CDDPに代わりうるものだとし、また第II相試験ではS-1+Oxaliplatin(L-OHP)(SOX)療法はPFS中央値6.5ヵ月、OS中央値16.5ヵ月という有望な成績を報告した。そこで、これらの試験結果を確認するべく、進行胃癌の1st-line化学療法としてのSOX療法とCS療法を比較する多施設共同第III相オープンラベル無作為化比較試験を実施した。
 対象は20歳以上、ECOG PS 0-2、化学療法歴・放射線療法歴のない治癒的切除可能な進行・再発胃癌患者とした。
 CS群には5週を1サイクルとしてS-1を1日2回、3週間経口投与、CDDPは60mg/m2をday 8に静注投与した。S-1の用量は体表面積1.25m2未満の患者には80mg/日、1.25 m2以上1.5m2未満の患者には100mg日、1.5m2以上の患者には120mg/日とした。SOX群では3週を1サイクルとしてS-1はCSと同量で2週間、L-OHPは100mg/m2をday1に投与した。
 主要評価項目はCS群に対するSOX群のPFSの非劣性と両群のOSの相対効果である。追跡期間中央値はPFSが6.9ヵ月、OSが25.9ヵ月であった。非劣性解析はper-protocol集団で行い、非劣性マージンはPFSを1.30、OSを1.15に設定した。
 2010年1月〜2011年10月に685例を登録し、SOX群343例、CS群342例に無作為に割り付けられた。Per protocol集団はSOX群318例、CS群324例で、それぞれ男性75.5%、73.1%、年齢中央値65歳、65歳で、その他の患者背景にも差はなかった。
 治療サイクル数中央値はSOX群が7.0サイクル、CS群が5.0コースで、相対的dose intensityはSOX群のS-1が79.0%、L-OHPが78.9%、CS群のCS群ではS-1が79.8%、CDDPが80.7%であった。治療中止に至った患者のうちSOX群84.7%、CS群84.3%が2nd-line治療を受けた。
 奏効率はSOX群が55.7%、疾患コントロール率は85.2%(CR2例、PR175例、SD94例)で、CS群はそれぞれ52.2%、81.8%(4例、165例、96例)であった。
 Per protocol集団におけるPFS中央値はSOX群が5.5ヵ月、CS群が5.4ヵ月とSOX群のCS群に対する非劣性が認められた(HR=1.004,95%CI:0.840-1.199,非劣性のP=0.0044)。
 OS中央値は14.1ヵ月 vs 13.1ヵ月(HR=0.958,95%CI:0.803-1.142)であった。実際に治療を受けたITT集団(SOX群339例、CS群337例)の解析ではPFSのHRは0.979(95%CI:0.821-1.167)、OSのHRは 0.934(0.786-1.108)であった。OSのサブグループ解析(多変量解析)を行ったところ、ECOG PS1/2、切除不能病変、びまん性疾患、腫瘍径中央値以上がOS不良の因子と考えられた。
 有害事象は下痢、口内炎、悪心、食欲不振、腎障害がCS群で多くみられた。Grade 3以上の白血球減少(4.1% vs. 19.4%)、好中球減少(19.5% vs. 41.8%)、貧血(15.1% vs. 32.5%)、発熱性好中球減少症(0.9% vs. 6.9%)、低ナトリウム血症(4.4% vs. 13.4%)はSOX群に比べてCS群で有意に高頻度に発症し、感覚神経障害(4.7% vs. 0%)はSOX群の発生頻度が高かった。重篤な副作用はSOX群37.9% vs. 29.3%(p=0.017)とCS群で高頻度であり、治療関連死はSOX群4例、CS群8例にみられた。
 以上のように、進行胃癌の1st-line治療としてSOX療法はCS療法と同等の効果を示した。本試験ではHER2発現に関する評価は行わなかったため、その影響はわからないが、2nd-line治療としてTrastuzumab投与を受けたのは両群とも10%未満であり、OSの比較でTrastuzumabが影響を与えたとは考えにくい。SOX療法は全般的に安全性の面でCS療法より優れ、臨床的に投与が簡便であるため、進行胃癌の1st-line治療においてCS療法にかわりうると考える。

監訳者コメント

進行胃癌の1st-line治療の新たな選択肢

 胃癌治療ガイドライン第4版では、HER2陰性切除不能進行・再発胃癌に対する1st-line化学療法が、S-1+CDDP療法(CS療法)が推奨されるレジメンである。しかし、CDDPを用いたレジメンは腎毒性予防を目的としたハイドレーションのため入院治療や外来時間の延長が必須になることや、Grade3以上の有害事象の発現が高い傾向にある。
 今回報告された、G-SOX第III相試験は、ハイドレーションを必要としないL-OHPを用いたS-1+L-OHP療法(SOX療法)がCS療法と同等の効果を示し、安全性の面では、全般的にSOX療法がCS療法より優れていることを示した。SOX療法は臨床的に投与が簡便であるため、切除不能進行・再発胃癌に対する1st-ine化学療法治療の新たな選択肢になると考えられる。
 今後、L-OHPを用いた術前化学療法や、切除不能進行・再発胃癌に対するCapecitabine+L-OHP併用療法、また、腹膜播種を伴う胃癌に対するSOX+Paclitaxel腹腔内投与療法等の臨床試験の結果が興味深く待たれるところである。

監訳・コメント:大阪府立急性期・総合医療センター消化器外科 川田 純司(医長)

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