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2015年

監修:東海中央病院 坂本 純一(病院長)

Capecitabine+Oxaliplatinによる、D2郭清を伴う胃癌切除術後補助化学療法(CLASSIC試験):オープンラベル無作為化比較第III相試験の5年間追跡結果

Noh SH., et al. Lancet Oncol., 2014 ; 15(12) : 1389-1396

 D2郭清を伴う胃切除術は東アジアにおける胃癌の標準的手術術式であり、欧米のガイドライン上でも推奨されている。しかし、胃癌根治切除術後2年以内の再発率は約40%と高く、長期予後の改善を目的として様々な術後補助療法が検討されてきた。胃癌術後補助化学療法については、D2郭清を伴う胃切除術単独群と補助化学療法群を比較する2つの大規模ランダム化第III相試験(ACTS-GC試験、CLASSIC試験)がアジアで行われた。ACTS-GC 試験では、S-1による術後補助化学療法群の5年後のOSのハザード比が0.67であり、S-1による予後改善効果が示された。一方、手術単独群とCapecitabine+Oxaliplatin(L-OHP)による術後補助化学療法群を比較したCLASSIC試験では、追跡期間中央値34ヵ月時点での中間解析において、主要評価項目である無病生存期間(DFS)の術後補助化学療法群のハザード比は0.56であり、術後補助化学療法の優位性が示された(p<0.0001)ものの、OSのデータは追跡期間不足により不完全なものと考えられた(HR=0.72,p=0.049)。そこで本論文では、CLASSIC試験の追跡期間が5年間に達した時点での新たなデータを報告する。
 患者適格基準は登録時18歳以上、stage II/III、KarnofskyのPS 70以上で、ランダム化の6週間前までにD2郭清を伴う胃切除術を受けた胃癌症例である。化学療法歴・免疫療法歴・放射線療法歴のある患者は除外した。術後補助療法としてCapecitabine+L-OHP投与を受ける群(A群)または術後経過観察のみの群(O群)のいずれかにランダムに割り付け、A群にはCapecitabine 1,000mg/m2(1日2回、day1〜14、p.o.)+L-OHP 130mg/m2(day 1、i.v.)を3週ごとに8コース投与した。L-OHP関連の神経障害がみられた場合のCapecitabineの単独投与は容認したが、L-OHPの単独投与は不可とした。主要評価項目は3年DFS、副次評価項目はOSと安全性であった。
 2006年6月〜2009年6月に1,035例を登録し、520例がA群、515例がO群に割り付けられた。有効性の解析はITT集団(1035例)に基づくが、CapecitabineまたはL-OHP投与を1度も受けていない症例、ランダム化後にプロトコル違反が発見された症例を除いたper-protocol解析も実施した。ITT解析集団の追跡期間中央値は62.4ヵ月(A群62.4ヵ月、O群62.6ヵ月)であった。
 症例追跡終了日までにA群の139例(27%)、O群の203例(39%)でDFSに対するイベント(再発、残胃癌発生または死亡)が発生していた(HR=0.58,95%CI:0.47-0.72,p<0.0001)。再発または残胃癌発症患者(A群118例、O群188例)のうちA群62%、O群72%にプロトコル治療以外の再発後治療を受けていた。5年DFSはA群68%、O群53%でA群が有意に優れており、per-protocol解析でも同様の結果が得られた(HR=0.56,p<0.0001)。追跡終了日までの死亡イベント数はA群103例(20%)、B群141例(27%)であった。死因は胃癌再発による現病死が最も多かった。追跡中止(打ち切り)となった患者を各群52例ずつ認めた。最終病期と国で層別化したOSのITT解析においては、A群がO群に比べて有意に優れており(HR=0.66,95%CI:0.51-0.85,p=0.0015)、per-protocol解析でも同様にA群が有意に優れていた(HR=0.64,p=0.0006)。1,035例の全体の死亡率は244例(23%)にとどまっており、両群ともOS中央値の算出はされず、5年OSはA群78%、O群69%であった。
 サブグループ解析では、原発腫瘍のT分類にOSとの関連性(T1-T2 のHR=0.49 vs. T3-4のHR=0.87,p=0.03)がみられた以外には、有意な相関性を認めなかった。再発はA群117例(23%)、O群186例(36%)でみられた。
 多変量解析でもA群の全生存期間における優越性は変わらなかった。またA群について薬剤減量、投与遅延、投与中断などが治療成績に与える影響を調べたが、DFSにもOSにも有意な影響は認められなかった。一方で、dose intensityが低い(Capecitabine、L-OHPとも6コース未満)患者群は、dose intensityの高い(2剤のどちらかが6コース以上)患者群に比べて有意に予後が不良であった。
 安全性の解析では、初回解析で報告した以上の有害事象は認められなかった。
 以上のように、CLASSIC試験の5年間追跡後の解析結果では、D2郭清を伴う胃切除術後のstage II/III胃癌患者に対するCapecitabine+L-OHPによる術後補助化学療法は手術単独療法に比べて有意な予後延長効果をもたらした。DFSについても初回解析と同様に有意な延長効果が認められた。手術単独群の5年OSが他の主要な臨床試験と同等以上であることから、補助化学療法群での予後延長効果が手術単独群の成績不良によるものではないことは明らかである。また5年DFSとOSはper-protocol解析によっても同様に再現され、本試験の結果の頑健性が示された。
 本試験の薬剤用量は欧米で直腸癌に適用されているのと同量であり、国際的なランダム化比較試験も検討されているが、現時点では本試験がアジアの単一地域で実施されたため、その結果が欧米などの他地域にも適合するかどうかは不明である。またリンパ節郭清がD2未満の胃切除術においても同様に術後Capecitabine+L-OHP療法が有効かどうかについても明らかではない。D2郭清を伴う胃切除術後のstage II/III胃癌患者の術後補助化学療法としてCapecitabine+L-OHP療法は考慮されてよい治療オプションである。

監訳者コメント

胃癌術後補助化学療法の選択肢を広げる重要な臨床試験結果

 このCLASSIC試験は、胃癌診療に大きなインパクトを与えたACTS-GC試験と同様の症例群を対象としており、その結果に注目が集まっていた。S-1単剤投与に比してCapecitabine+L-OHP療法は投与法が比較的煩雑であり、またOxaliplatin関連の神経障害などの有害事象はみられるものの、有意な予後延長効果が示された。特筆すべきは5年OSに対するハザード比がstage IIIA症例で0.75、stage IIIB症例で0.67と生存期間延長への寄与を示したことである。また、S-1が欧米においては下痢の頻度及び重症度が普及を妨げているのに対し、Capecitabine+L-OHP療法は大腸癌を対象に欧米ですでに使用されているレジメンであり、アジア圏以外でも使用しやすいことも重要である。本邦においては、ACTS-GC試験で示された予後延長効果とその忍容性からS-1の地位が即座に揺らぐものではないが、S-1が有害事象で継続できない症例やstage III症例において検討する価値のあるレジメンと考えられる。

監訳・コメント:名古屋大学大学院消化器外科学講座 神田 光郎(助教)

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