論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

切除不能進行・再発胃癌に対するDocetaxel+Oxaliplatin±5-FU/Capecitabine療法:第II相無作為化比較試験

Cutsem EV, et al. Ann Oncol, 2015; 26(1): 149-156

 進行胃癌治療に対するDocetaxel(DOC)+Cisplatin(CDDP)+5-FU(DCF療法)はCDDP+5-FU(CF療法)に比べPFS、OSを有意に改善し、QOLも改善することが報告されている。しかしDCF療法は標準治療とされている一方でCF療法と比べて毒性が強く、臨床の場で広く普及しているとはいえない。したがって、近年関心が寄せられている白金製剤+経口フッ化ピリミジン製剤+タキサン系薬剤の3剤併用療法について忍容性と治療指数を前向きに検討する強固な試験を行う重要性が増している。そこで、進行胃癌患者を対象にDOC+Oxaliplatin(L-OHP)±5-FU(TE療法群/TEF療法群)またはDOC+L-OHP+Capecitabine(TEX療法群)レジメンの前向きな多施設共同第II相無作為化比較試験を行い、各レジメンの比較とともに、DCF療法に優る治療指数を検討した。
 対象は組織学的に切除不能進行・再発胃腺癌(胃食道接合部癌を含む)と認められた18歳以上、Karnofsky のPS(KPS)>70の患者で、緩和的化学療法歴のある症例は除外した。術後/術前補助5-FU+CDDP+Epirubicin療法は、化学療法終了後12ヵ月を過ぎてから再発を認めた場合のみ可とした。
 本試験は2ステージから成っており、第1ステージは用量決定試験、第2ステージはTE群 vs. TEF群 vs. TEX群を比較する第II相無作為化比較試験である。
 第1ステージでは適格患者を各群に1:1:1で無作為に割り付け、至適用量を検討した。第2ステージでは第1ステージで決定した用量に従い、TE療法群はDOC 75mg/m2(day 1)+L-OHP 130mg/m2(day 1)を3週ごとに、TEF療法群はDOC 50mg/m2(day 1)+L-OHP 85mg/m2(day 1)+5-FU 2400mg/m2(46時間持続投与、葉酸 400mg/m2をday 1に投与)を2週ごとに、TEX療法群はDOC 50mg/m2(day 1)+L-OHP 100mg/m2(day 1)+Capecitabine 625mg/m2(1日2回)を3週ごとに投与した。
 第2ステージの主要評価項目はPFS、副次評価項目は奏効率(CR、PR)、OS、安全性である。治療指数(発熱性好中球減少症に関するPFS中央値)は各レジメンで割り出し、DCF療法とCF療法の治療指数と比較した。
 第1ステージは2006年9月〜12月に43例、第2ステージは2007年3月〜9月に211例、合計254例を登録した。第1ステージに登録された患者は、その結果によって決定された投与量により第2ステージに組み込まれた。
 第2ステージのITT集団は254例(TE療法群79例、TEF療法群89例、TEX療法群86例)が解析対象となった。男性は全体の69%、年齢中央値は59歳、胃原発癌は87%、登録前3ヵ月以内に5%以上の体重減少があったのは52%で、3群の背景因子に差はなかった。治療コース数(中央値)は、TE療法群5コース、TEF療法群8コース、TEX療法群6コースであった。
 再発率はTEF療法群が62.5%、TE療法群が82.1%、TEX療法群が70.7%とTEF療法群が低く、PFS中央値も、TEF療法群が7.66ヵ月、TE群療法が4.50ヵ月、TEX療法群が5.55ヵ月とTEF療法群で延長がみられた。1年無再発率もTEF療法群が33.0%、TE療法群が3.9%、TEX療法群が24.0%でTEF療法群は顕著に高率であった。
 OS中央値はTEF療法群が14.59ヵ月、TE療法群が8.97ヵ月、TEX療法群が11.30ヵ月、奏効率はTEF療法群が46.6%、TE療法群が23.1%、TEX療法群が25.6%で、いずれもTEF療法群が他の2群に比べ優れていた。
 以上の成績は、実際に治療を受けた248例(TE療法群78例、TEF療法群88例、TEX療法群82例)についても同様であった。
 治療中に1つ以上の有害事象を発症したのはTE療法群が97%、TEF療法群が100%、TEX療法群が96%で、発症率はほぼ同等であった。Grade 3/4の有害事象はTE療法群が77%、TEF療法群が61%、TEX療法群が67%でみられ、重篤な有害事象の発症率はTE療法群が45%、TEX療法群が44%だったのに対し、TEF療法群では27%と顕著に低かった。Grade 3/4の好中球減少はTE療法群が70%、TEF療法群が56%、TEX療法群が64%、白血球減少はTE療法群が52%、TEF療法群が30%、TEX療法群が39%に発症し、TE療法群が他の2群よりやや多く、発熱性好中球減少症はTEF療法群が2%とTE療法群の14%、TEX療法群の9%と比較して少なかった。非血液学的有害事象で3群を通じて頻度が高かったのは疲労感(21%)、感覚神経障害(14%)、下痢(13%)であった。有害事象による死亡はTE療法群5%、TEF療法群11%、TEX療法群13%で、全死亡の60%は病勢進行によるものであった。
 TEF療法の治療指数はTE療法、TEX療法、およびらの論文で報告されたDCF療法、CF療法1と比べて良好であった。
 以上のように、進行胃癌に対するTE療法、TEF療法、TEX療法の効果を比較したところ、奏効率、PFS、OSすべてにおいてTEF療法が優れていた。有害事象として好中球減少、白血球減少は3療法を通じて高頻度にみられたものの、安全性のプロフィルもTEF療法は全体に他の2療法に比べ良好であった。発熱性好中球減少症の頻度がTE療法に比べて低かったのは、DOC療法の投与スケジュールの違いによるものと考えられた。本試験では、TEX療法群のコンプライアンスがTEF療法群に比べ低かったが(57% vs. 100%)、両群の有効性の差の原因はよくわからず、Capecitabineが5-FUの代替薬剤になりうるかどうかは明らかにできなかった。しかし本試験は今後、第III相試験で進行胃癌に対するTEF療法を評価するうえでの根拠となり、また他の新たなターゲット療法のバックボーンとなるものと考える。

監訳者コメント

切除不能進行・再発胃癌に対する新たな3剤併用療法:Docetaxel+Oxaliplatin+5-FU療法への期待

 切除不能進行・再発胃癌に対するDCF療法の高い有効性はこれまでに示されていたものの高頻度の毒性発現と低い二次治療移行率が問題となっていた。本臨床試験はDocetaxel+L-OHPをbaseとして5-FUもしくはCapecitabine を上乗せして3群間で第I/II相ランダム化比較試験を行っている。その結果、Docetaxel+L-OHP+5-FU療法のPFSは7.66ヵ月、OSは14.59か月であり、CDDPの代替にL-OHPを使用した殺細胞性の3剤併用化学療法の高い有効性が示されている。さらに、重篤な有害事象発生率が他の2群に比べて顕著に低く、安全性の面からも良好な結果を示している。
 Capecitabine が5-FUの代替薬剤になり得るかどうかは今後の課題であるが、Docetaxel+L-OHP+5-FU療法は第III相比較試験における有力なtesting armの候補となるものと思われる。日本においてもL-OHP は切除不能進行・再発胃癌治療の保険適応の対象となり、今後、安全性、継続性を高めた3剤併用療法の新たな治療戦略の開発が期待される。

監訳・コメント:高知大学医学部附属病院消化器外科 並川 努(病院准教授)

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