論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

消化管間質腫瘍におけるOSとPFSの相関に関するメタアナリシス

Ozer-Stillman I., et al. Clin Cancer Res, 2015 ; 21(2) : 295-302

 消化管間質腫瘍(GIST)は比較的まれな腫瘍で、進行期にはTKIによる分子標的薬治療が行われる。多くの癌種と同様に、転移性または切除不能GISTにおいてOSは治療効果を評価するうえでのゴールドスタンダードであるが、OSの評価は長期の追跡を必要とし、また、クロスオーバーや後続の治療ラインの影響を受けやすいことから、OSに代わり、短期間の追跡で治療効果を評価できるようなエンドポイントの確立と検証が求められている。本研究は、PFSがOSの代替エンドポイントとなりうるかどうかをメタアナリシスの手法により検討した。
 メタアナリシスに含める文献は、「GIST」「advanced/metastatic」「unresectable/stage IV」をキーワードに、PubMedおよびCochrane guidelinesから臨床試験や観察研究の原著論文を検索した。OSとPFSの関係は重み付き線形回帰により評価し、ピアソンの相関係数(r)と決定係数(R2)を算出した。回帰分析に影響を及ぼすinfluential data pointsの同定には回帰診断統計量であるDFBETAを用いた。
 文献検索の結果1995年1月〜2013年1月に論文として報告された19試験(ランダム化試験14、観察研究5)から得られた29治療アーム、計2,189例を解析対象とした。1アームあたりの症例数は15例〜349例で、分子標的薬としてImatinib、Sunitinib、Regorafenib、Nilotinibなどが用いられていた。29アームのOS中央値の平均値は18.7ヵ月・中央値は11.8ヵ月、PFS中央値の平均値は7.9ヵ月・中央値は4.1ヵ月であった。
 試験全体では、OSとPFSに強い相関が見られた(r=0.91,R2=0.84; 回帰分析の傾き=2.08,p<0.0001)。回帰分析に影響を与えるinfluential data pointsとして、Imatinibの高用量と低用量を比較した1試験における2アーム、OS中央値とPFS中央値の評価が他の試験よりも良好(2年以上)であった2試験における2アーム、の計4アームが同定された。これら4アームを除外した感度解析を行ったところ、相関係数は小さくなったものの、依然としてPFSとOSの相関は観察された(r=0.72,R2=0.52;傾き=1.33,p<0.0001)。
 次に治療ライン別のサブグループ解析を行った。1st-lineにおいて4アーム、2nd/2.5-lineにおいて8アーム(2nd-line以降の症例が登録されているが、多くは2nd-lineであると考えられるものを2.5-lineと定義)、3rd-line以降において17アームが検討された。
 PFSとOSの相関は2nd/2.5-lineで最も強く(r=0.80,R2=0.66;傾き=0.98,p=0.015)、次いで3rd-line以降(r=0.70,R2=0.39;傾き=1.27,p=0.0074)、1st-lineの順であった(r=0.52,R2=0.08;傾き=0.25,p=0.71)。1st-lineでの相関性が中程度に留まったのは、1st-line以降の治療オプションが増えて、増悪後の生存期間(survival post progression;SPP)が伸びているためだと考えられた。先と同様の感度解析では、2nd-line、3rd-line以降における相関係数の値はやはり小さくなったが、中程度の相関は維持された(2nd-lineのR2=0.51,r=0.66;傾き=1.32,p=0.0072 ; 3rd-line以降のR2=0.44,r=0.63;傾き=1.77,p=0.0093)。1st-lineでは相関が認められなかった(R2=0.98,r=-1;傾き=-1.57,p=0.082)。
 薬剤別の解析では、Imatinib単独療法8アーム、Imatinib併用療法5アーム、Sunitinib 3アーム、sorafenib 5アーム、その他のTKI治療7アームについて検討した。PFSとOSの相関はImatinib単独療法(r=0.91,R2=0.72)、その他のTKI治療(r=0.69,R2=0.39)、Sunitinib(r=0.65,R2=0.44)の順で強くみられたが、Sorafenibにはほとんど(r=0.29,R2=0.03)、Imatinib併用療法(r=‐0.26,R2=0.16)にはまったく相関が認められなかった。
 また、試験の質を評価した得点(quality score)別のサブグループ解析を行ったところ、試験の質がPFSとOSの関係に影響を及ぼしていることは確認されなかった。
 本解析の結果から、PFSはOSの代替エンドポイントとなりうることが示唆された。今後は患者レベルの個別データの解析を行い、さらなる検証をする必要があるだろう。

監訳者コメント

進行性GISTにおけるPFSとOSの相関に関する初の検討

 本研究は、臨床試験と観察研究のデータを用いて、進行性GISTにおけるPFSとOSの相関について体系的に考察した初めての論文として評価される。1st-lineよりも後続の治療ラインで相関が見られたという結果であったが、後続の治療ラインほどSPPは短くなるため、PFS中央値とOS中央値は近くなり、したがって、2つの中央値の相関係数は1st-lineに比べて必然的に高くなる傾向にある点は注意した方がよい。PFSのHRとOSのHRを用いた検討ができればよかったが、希少疾患であるためにランダム化試験が少なく、この点はやむを得ないだろう。2nd-line以降の治療においてOSの代替エンドポイントとしてPFSを利用できる可能性が示されたので、今後さらなる解析の実施が望まれる。

監訳・コメント:横浜市立大学医学部臨床統計学講座 山中 竹春(教授)

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