論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

進行胃癌に対するTrastuzumab+Capecitabine+Oxaliplatin併用療法の多施設共同第II相試験

Ryu M-H, et al. EJC, 2015 ; 51(4) : 482-488

 HER2陽性進行胃癌治療では、Trastuzumabの上乗せ効果がToGA試験で報告されているが、Trastuzumabに併用する最適な化学療法レジメンは未だ確認されていない。これまでの試験でOxaliplatin(L-OHP)を含むレジメンがCisplatinを含むレジメンに比べ毒性が少なく、良好な結果を示していることから、切除不能/進行再発胃癌の標準的な1st-line治療としてCapecitabine+L-OHP(XELOX)療法が広く普及するようになっている。しかしTrastuzumab+XELOX療法について検討した試験はない。そこで、その有効性と安全性を評価するため韓国において多施設共同第II相試験が行われた。
 対象は、20歳以上、HER2陽性(IHC2+/FISH+あるいはIHC3+)、手術不能局所進行または転移を有する胃/胃食道接合部腺癌で、化学療法による前治療歴がなく、RECIST v1.1に基づく1つ以上の測定可能病変を有し、余命3ヵ月以上の症例とした(PS 0-2)。術後補助化学療法施行例については白金製剤を含まず、治療完了から試験登録までの期間が6ヵ月を超えている症例を適格とした。
 適格患者にはTrastuzumab(1コース目は8mg/m2、2コース目以降は6mg/m2、day 1に静注)、Capecitabine(1000mg/m2、1日2回経口投与、day 1-14)、L-OHP(130mg/m2、3週ごと静注、day 1)を、病勢進行または忍容不能な有害事象が認められるまで投与した。
 主要評価項目は担当医による奏効率、副次評価項目はPFS、OS、安全性である。必要症例数は55例に設定された。追跡期間の中央値は13.8ヵ月であった。
 2011年8月から2013年2月に64例が登録された。適格症例は55例であった。年齢中央値は57歳、男性66%、初発時転移82%、治癒切除後再発14%、局所進行手術不能4%であった。転移巣はリンパ節(76%)、肝臓(49%)、腹膜(27%)に高頻度にみられた。HER発現状況はIHC2+/FISH+が11%、IHC3+が89%であった。データカットオフの2013年9月時点で16例が病勢進行をみることなく治療を継続していた。薬剤の投与コース数中央値と相対用量強度(RDI)はそれぞれ、Capecitabineが10コース、74%、L-OHPが8コース、76%、Trastuzumabが10コース、90%で、治療中止の主な理由は病勢進行/死亡であった。病勢進行をみた29例のうち22例が2nd-line化学療法を、6例がTrastuzumab続行、1例がmTOR阻害薬投与を受けた。
 CR 4%、PR 64%、SD 21% 、PD 5%で、奏効率は68%(95%CI:54-80%)、病勢コントロール率は89%であった。CRとPRの各1例は遠隔転移が完全に消失し、原発巣切除術が施行され、原発巣のpCRが確認された。PFS中央値は9.8ヵ月(95%CI:7.0-12.6ヵ月)、6ヵ月PFS率は69%、またOS中央値は21.0ヵ月(95%CI:6.4-35.7ヵ月)、1年OS率は63%であった。
 中央判定による奏効率は69%、PFS中央値は8.6ヵ月であり、担当医による判定と同様の結果であった。
 10%以上の患者に発生したGrade 3/4の有害事象は、好中球減少(18%)、貧血(11%)、末梢神経障害(11%)が認められた。平均左室駆出率は治療前が67.7±5.2%、3ヵ月後が67.1±4.8%、6ヵ月後が65.9±4.4%、9ヵ月後が66.2±4.5%、12ヵ月後が66.6±5.0%で、経時的な有意差はみられなかった。また心不全を発症した患者はいなかった。重篤な下痢と敗血症を併発したことにより1例の治療関連死を認めた。
以上の解析結果から、HER2陽性進行胃癌患者の1st-line治療としてXELOX+Trastuzumab療法は忍容性に優れ、有効性も高いと考えられた。有害事象はXELOX療法単独の場合と同等であり、有効性についてもToGA試験のXP+Trastuzumab療法の結果と比べて有望であったことから、XELOXはTrastuzumabと組み合わせるのに合理的なオプションであるといえる。本試験はランダム化比較試験ではないが、今後1st-line治療においてXELOX+Trastuzumab療法を検証するうえで重要なDataとなりうるものと考えられる。

監訳者コメント

HER2陽性進行再発胃癌に対する化学療法の新たな選択肢への期待

 HER2陽性進行再発胃癌治療は、ToGA試験により、XP+Trastuzumabが標準治療として位置づけられた。本試験は,XELOX+Trastuzumab療法の有効性と安全性を評価した韓国内の多施設共同第II相試験である。ToGA試験の結果と比較すると、主要評価項目の奏効率,副次評価項目のPFS,OS はそれぞれ68%、9.8ヵ月、21ヵ月と大きく上回っており、Grade 3/4の有害事象も末梢神経障害以外は軽減しているのは注目に値する。ただし、限定された施設での試験、HER2発現状況においてはIHC3+が高率であったことなどの点も考慮する必要があり、第III 相試験での、XELOX+TrastuzumabとXP+Trastuzumab の比較検証が望まれる。
 XP+Trastuzumabが標準治療であることは変わらないものの、XELOX+Trastuzumab療法は、腎障害、嘔気、入院治療などが避けることができ、HER2陽性進行再発胃癌治療において有望なオプションとなりうると考えられる.

監訳・コメント:東海中央病院 渡邉 卓哉(第二外科部長・臨床研究部長)

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