論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

S-1単独療法不応の進行胃癌患者に対する2nd-line治療としてのCPT-11+CDDP vs. CPT-11単独療法の第III相ランダム化比較試験 : TRICS試験

Nishikawa K., et al. EJC, 2015; 51(7) : 808-816

 日本では胃癌の1st-lineの標準療法としてS-1/CDDP併用療法の適応でない症例に対してS-1単独療法が普及している。S-1療法が無効となった進行胃癌患者に対する2nd-line治療に関して、本試験をデザインした当時は確立されていなかったが、アジアでは2nd-line治療としてCPT-11単独療法またはCPT-11+CDDP療法が広く行われていた。しかしS-1単独療法歴のある進行胃癌患者の2nd-line治療におけるプラチナ製剤ベースの治療効果を検討した試験はなく、CPT-11+CDDP併用療法とCPT-11単独療法の延命効果について評価する多施設共同第III相オープンラベル無作為化試験を実施した。
 対象は少なくとも1コースの一次治療S-1単独療法施行後に病勢進行を認めたもしくはS-1による術後補助療法終了後6ヵ月以内に再発した進行胃癌患者(20歳以上、ECOG PS 0/1)である。有害事象のためS-1療法を中止した症例は不適格とした。
 適格患者をCPT-11+CDDP療法(併用群)またはCPT-11療法(単独群)に無作為に割り付け、併用群にはCPT-11 60mg/m2+CDDP 30mg/m2を、単独群にはCPT-11 150mg/m2を、それぞれ2週ごとに静注投与した。
 主要評価項目はOSで、ITT解析にて評価した。コントロール群であるCPT-11単独療法のOSを5ヵ月、試験群であるCPT-11+CDDP併用療法のOSを8ヵ月と想定し、検出力80%、両側α=0.05より必要症例数は片群80例(両群合わせて160例)となった。
 2007年7月〜2011年12月に国内30施設より168例が登録された。併用群(84例)および単独群(84例)の主な患者背景はそれぞれ年齢中央値67歳vs. 68歳、男性81% vs. 75%、腸型(intestinal type)55% vs. 45%、びまん型(diffuse type)45% vs. 55%であった。
 投与コース数の中央値は併用群5コース、単独群6コースで、治療遅延は併用群のほうでより高頻度にみられた(併用群61% vs. 単独群44%、p=0.035)。遅延の主な理由は、病勢進行(59% vs. 74%)、有害事象(28% vs. 11%)であったが有意差はなかった。
 追跡期間中央値59.0ヵ月で、主要評価項目であるOS中央値は併用群13.9ヵ月(95%CI:10.8-17.6)vs 単独群12.7カ月(95%CI:10.3-17.2)であり、有意差を認めなかった(HR=0.834,95%CI:0.596-1.167,p= 0.288)。
 同様にPFS中央値4.6ヵ月 vs. 4.1ヵ月(HR=0.860,95%CI:0.610-1.203,p=0.956)、TTF(time to treatment failure)中央値3.3ヵ月 vs. 3.5ヵ月(HR=1.009,95%CI:0.740-1.375,p=0.956)であり、いずれも有意差を認めなかった。
 OSについてのサブグループ解析で、腸型患者(intestinal type)において中央値15.8ヵ月 vs. 14.0ヵ月と、併用群が単独群に比べ有意に延命効果がみられた(HR=0.569,95%CI:0.352-0.918,p=0.019)。その他の因子に関してはOS改善に関係するものはなかった。
 奏効率は測定可能病変を有する130例(各群65例ずつ)で評価した。CRは併用群3例(5%)、単独群1例(2%)であり、PRはそれぞれ12%、14%、SDは52%、49%、PDは22%、29%で、奏効率(ORR)は16.9% vs. 15.4%(p=0.812)、病勢コントロール率(DCR)は69.2% vs. 64.6%(p=0.576)と有意差はなかった。
 安全性は治療が施行された163例(併用群82例、単独群81例)で評価された。全Gradeで単独群に比べ併用群で有意に高頻度だった有害事象は白血球減少症(85% vs. 64%,p=0.002)、血小板減少症(43% vs. 20%,p=0.002)、血清クレアチニン上昇(28% vs. 12%,p=0.013)で、逆に下痢(26% vs. 46%,p=0.007)、便秘(6% vs. 16%,p=0.043)、粘膜炎(2% vs. 12%,p=0.015)は単独群で高頻度に発生した。Grade 3/4の有害事象に関して貧血(16% vs. 4%,P=0.009)、LDH上昇(5% vs. 0%,p=0.044)が併用群で高頻度にみられた。
 以上のように、S-1単独療法後に病勢進行をみたプラチナ製剤投与歴のない進行胃癌患者に対するCPT-11+CDDP併用療法のCPT-11単独療法に対する優位性は認められなかった。

監訳者コメント

胃癌2nd-line治療の新たな時代

 本試験は胃癌2nd-line治療におけるCPT-11単剤療法に対するCPT-11+CDDP併用療法の生存延長を検証する試験であったが、残念ながら優越性は示せなかった。本試験と同様の結果がTCOG GI-0801試験1)から報告されている。S-1併用療法failureの胃癌患者に対して、2nd-line治療として本試験と同様のレジメンでCPT-11単独療法に対するCPT-11+CDDP併用療法の優位性を検討し、主要評価項目であるPFSにおいては併用群3.8ヵ月 vs. 単独群2.8ヵ月(HR=0.68, p=0.0398)と有意に良好な結果であったが、OSではそれぞれ10.7ヵ月 vs. 10.1ヵ月(HR=1.000,p=0.9823)と生存延長は認めなかった。これら2試験の結果を踏まえるとS-1併用療法に不応な胃癌患者に対するCPT-11=CDDP療法は否定的である。
 本試験の開始された胃癌治療ガイドライン第3版(2010年発行)出版時には、胃癌患者に対する2nd-line治療の明確なエビデンスは存在していなかったが、best supportive careに対するCPT-11単剤あるいはタキサン系薬剤の生存延長効果が報告され2)3)、また本邦で施行されたCPT-11のPaclitaxel(週1回投与)に対する優越性を検証したWJOG4007試験において、いずれの治療群も生存期間中央値が9ヵ月前後と良好な成績が証明されており、胃癌治療ガイドライン第4版(2014年発行)では2nd-line治療としてCTP-11、Paclitaxel、Docetaxelが推奨されている(いずれも推奨度1)。
 また、胃癌の2nd-line治療は新たな局面を迎えている。今回、Trastuzumab以降有効性が証明されていなかった胃癌に対する分子標的治療薬開発において、血管内皮増殖因子受容体2(VEFGR-2)に対する抗体薬であるRamucirumabの2nd-line治療における有効性が証明された。詳細は別項にゆずるがRamucirumab=Paclitaxel併用療法のプラセボ=Paclitaxel療法に対するOS延長およびRamucirumab単剤療法のプラセボに対するOS延長がいずれも有意差をもって証明され4)5)、今後、胃癌2nd-line治療においては分子標的薬併用による新たな時代に突入すると思われる。
 しかしながら、今回の結果をもって2nd-line治療におけるCPT-11=CDDP併用療法を完全に否定するのは早計かもしれない。腸型(intestinal type)症例に対してはサブグループ解析ではあるがCPT-11=CDDP併用療法が優れた生存期間延長を示している点、および有意差はないがCPT-11=CDDP併用療法の方が全体的に生存延長を示唆している点も踏まえると、今後precision therapyの流れに乗ってCPT-11=CDDP療法の有用な患者集団が判明される事も期待される。

監訳・コメント:神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科 佐竹 悠良(副医長)

1) Higuchi K., et al. Eur J Cancer 2014; 50: 1437-1445.
2) Thuss-Patience PC., et al. Eur J Cancer 2011; 47:2306-2314.
3) Kang JH., et al. J Clin Oncol 2012; 30:1513-1518.
4) Fuchs CS., et al. Lancet 2014; 383:31-39.
5) Wilke H., et al. Lancet Oncol 2014; 15:1224-1235.

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