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2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

既治療の切除不能進行・再発大腸癌アジア人患者に対するRegorafenib+best supportive care vs. プラセボ+best supportive care(CONCUR): 第III相プラセボ対照二重盲検無作為化試験

Li J., et al. Lncet Oncol. 2015 ; 16(6): 619-629

 標準療法後に病勢進行をみた切除不能進行・再発大腸癌患者に対するRegorafenib+best supportive care(BSC)は、プラセボ+BSC と比べて有効性に優れることがCORRECT試験で認められているが、新規薬剤では非アジア人とアジア人で有効性・安全性に差があるかどうかを見極めることも重要である。CORRECT試験の登録患者760例のうちアジア人は15%、さらにその90%を日本人が占めていた。そこで、アジア人患者を対象にRegorafenib+BSCの有用性を検討する第III相無作為化試験を実施した。なお、本試験のデザインはCORRECT試験と同様であるが、本試験開始当初は分子標的薬が普及していない国もあったため、対象にはその投与を受けていない患者も含めた。
 対象は18歳以上、アジア人、ECOG PS 0/1、余命3ヵ月以上、組織学的/細胞学的に結腸/直腸の腺癌と認められた患者で、フッ化ピリミジン系薬剤+L-OHP/CPT-11を含む2レジメン以上の治療歴を有し、最終標準療法後3ヵ月以内(あるいは術後補助L-OHP療法中止後6ヵ月以内)に病勢進行をみたか、忍容不能の有害事象により標準療法を中止した症例である。
 対象患者をRegorafenib+BSC(R群)またはプラセボ+BSC(P群)に2:1で無作為に割り付け、Regorafenibまたはプラセボ160mg/日をday 1-21に投与した。28日を1コースとして病勢進行または忍容不能の有害事象が生じるまで続けた。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、病勢コントロール率(CR+PR+SD)、三次評価項目は奏効期間、SDの期間、健康関連QOLである(p値は片側検定)。
 2012年4月〜2013年1月に204例をR群(136例)またはP群(68例)にランダム化した。OSのデータカットオフは2013年11月29日、追跡期間中央値は7.4ヵ月であった。
 R群とP群の主な患者背景は、年齢中央値57.5歳、55.5歳(<65歳は70%、85%)、男性63%、49%、KRAS野生型37%、43%、BRAF野生型21%、21%と、バランスが取れていた。全例の40%は分子標的薬投与を受けておらず、63%は3レジメン以上の治療歴があった。本試験の治療期間中央値はR群2.4ヵ月、P群1.6ヵ月でR群が長かった。
 データカットオフ時点で155例が死亡していた(R群95例70%、P群60例88%)。
 OS中央値はR群が8.8ヵ月、P群が 6.3ヵ月でR群が有意に延長した(HR=0.55,95%CI:0.40-0.77,p=0.00016)。PFSも中央値3.2ヵ月 vs. 1.7ヵ月で、R群が有意に延長した(HR=0.31,95%CI:0.22-0.44,p<0.0001)。この効果はほぼすべてのサブグループで同様に認められた。OSは分子標的薬投与歴の有無にかかわらずR群が優れていたが、投与歴がない患者で優位性は顕著であった(投与歴なしのHR=0.31、ありのHR=0.78)。
 奏効率はR群4%(すべてPR)に対し、P群ではCR/PRに達した患者はいなかった。病勢コントロール率は51% vs. 7%でR群が有意に高率であった(p<0.0001)。奏効期間中央値はR群のPRが4.8カ月、SDが3.0カ月、P群のSDは1.7カ月であった。
 試験期間中または治療中止後30日までに全例で有害事象が発生した。そのうちR群97%、P群46%は治療薬関連と考えられた。Grade 3以上のRegorafenib関連有害事象では、手足症候群(16%)、高血圧(11%)、高ビリルビン血症(7%)、低リン酸血症(7%)、ALT上昇(7%)、AST上昇(6%)、リパーゼ値上昇(4%)、斑点状丘疹(4%)が高頻度に認められた。
 重篤な有害事象はR群43例(32%)、P群18例(26%)にみられ、それぞれ12例(9%)、3例(4%)は治療薬関連と考えられた。R群では2例に治療関連死が認められた(最終投与後30日以内)。治療中止に至った有害事象の発生率はR群14%、P群6%と低かった。
 QOLは、治療前から治療終了までの期間で両群同程度に低下していた。
 以上のように、アジア人の切除不能進行・再発大腸癌患者に対するRegorafenib療法はプラセボ療法と比較してOS、PFS、奏効率、病勢コントロール率が優れ、有害事象も既知のものであり、臨床的に有意なbenefitをもたらした。この結果はCORRECT試験の結果と一致するものであるが、OSについては、CORRECT試験のHRが0.77、本試験のHRが0.55と本試験でbenefitが大きかった。その理由は明確ではないものの、CORRECT試験が全例に分子標的薬の投与歴があるのに対し、本試験ではその数が少なかったためかとも考えられる。したがって前治療がRegorafenibの効果に影響を与えることが示唆されるが、この問題については探索的解析であること、症例数が少ないことなどから、額面通りに受け取ることはできないであろう。本試験はCORRECT試験に次いでRegorafenib単独療法の有効性を認めたものである。

監訳者コメント

アジア人におけるRegorafenibの有用性の検討

 Regorafenibは、血管新生に関わるVEGFR1-3やTIE-2、間質系に関わるPDGFR-βやFGFR、腫瘍増殖にかかわるRAFなどの受容体チロシンキナーゼを標的とする経口マルチキナーゼ阻害剤であり、その有用性はCORRECT試験により示され、大腸癌治療ガイドラインにおいてもサルベージラインにおける標準治療の一つとして位置付けられている。
 CORRECT試験においてアジア人の登録は全体の15%であり、そのうちの90%を日本人が占めていた。CONCUR試験は中国を中心として、香港、台湾、韓国、ベトナムで行われ、アジア人におけるRegorafenibの有効性、安全性が検証された。
 CORRECT試験におけるOSのHRが0.77であったのに比し、CONCUR試験ではHR 0.55とより延長効果を示したが、アジアという民族的要因による相違か、前治療歴の違いによってもたらされた相違かは不明である。本試験からは前治療歴が少ない症例ではRegorafenibがOSをより延長するという仮説が立てられる。本邦においては多くの症例が分子標的薬の投与を受けていると考えられるため、CORRECT試験の患者背景の方がより臨床に近い可能性がある。いずれの試験からもRegorafenibの有効性は示された。安全性についても管理可能ではあるが、Grade 3以上の有害事象が多く発生することから注意が必要である。
 TAS-102と共に今後のサルベージラインを担う薬剤であるが、両薬剤の毒性の違いを十分に理解して安全に投与することが重要である。また今後の課題として挙げられる対費用効果を考える上でも、バイオマーカーの探索に期待したい。

監訳・コメント:自治医科大学付属病院 臨床腫瘍科 森 美鈴(助教)

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