監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
進行・転移胃癌患者におけるRilotumumab曝露臨床効果の関係
Doshi S., et al. Clin Cancer Res, 2015 ; 21(11) : 2453-2461
胃癌では腫瘍のMET発現が腫瘍の侵潤能・転移・病期に関連している。Rilotumumabは肝細胞増殖因子(HGF)を標的とする完全ヒト型のIgG2モノクローナル抗体で、Rilotumumab+ECX(Epirubicin+Cisplatin+Capecitabine)療法とECX+プラセボ療法を評価した第U相無作為化比較試験では、胃/胃食道接合部癌に対するECX療法に7.5または15mg/kgを併用してPFS/OSの改善傾向を示した。この上乗せ効果は、とくにMET陽性患者で顕著であった。本試験ではMET陽性胃癌/胃食道接合部癌患者を対象に、Rilotumumabの用量とOSの関係を予測、また第III相試験(RILOMET-1) におけるOSの予測を行った。そのアプローチとして、腫瘍成長(TG)とOSの関係を表す長期のRilotumumab曝露と臨床効果の関係(exposure-response:E-R関係)を定量的に解析するモデルを作成した。
解析対象としたのは第II相試験(Lancet,2014;15:1007-1018)に登録された局所進行または転移を有する胃癌/胃食道接合部癌患者で、Rilotumumabの血清濃度、腫瘍径、OSのデータを収集し、後ろ向きに解析した。患者はECX+Rilotumumab 7.5mg/kgまたは15mg/kgまたはプラセボ3週ごと投与群に1 : 1 : 1でランダム化した。
Rilotumumabの薬物動態モデルには88例から得た濃度データ390件を用いた。線形クリアランスの個体間変動(IIV)基準値は0.216L/日/70kg(37.5%)、中央コンパートメント分布容積(Vc)は3.74L(20.7%)で、RilotumumabはMET発現の有無に影響されることなく時間依存的に直線的薬物動態を示した。
TGモデルは120例について504回の腫瘍径測定結果を用いて作成した。未治療のままだと腫瘍は指数関数的に増大し、約16ヵ月で2倍の大きさになると考えられた。プラセボ投与群のデータから、ECXの効果がみられる半減期は331時間と推定され、ECXの3週ごと投与により2ヵ月間で平均50%の腫瘍縮小をみた。
Rilotumumabの50%阻害濃度(EC50)基準値は6.71μg/mLと推定された。定常状態におけるRilotumumabの平均(SD)トラフ濃度(Cminss)は7.5mg/kgで72.7(34.7)μg/mL、15mg/kgで171(80)μg/mLであった。この濃度における腫瘍成長一次速度の阻害は7.5mg/kgが平均90.1%(3.8%)、15mg/kg が95.5%(1.9%)で、Rilotumumabの阻害効果は20.5ヵ月ごとに50%低下していくものと考えられた。したがって、TGモデルに基づけば、治療後12週(プラセボ群のPFS中央値に対応)で50%の患者がベースラインから少なくとも29.4%(プラセボ群)、41.8%(7.5mg/kg群)、44.7%(15mg/kg群)の腫瘍縮小を得られることになる。
OSの追跡期間は最長765日で、MET陽性患者の中には18ヵ月以上の生存を維持している症例もあった。OSはワイブルモデルが最もよく表していた。MET陽性はOSの予後不良因子であった。また6ヵ月時点での腫瘍径が25%縮小するとハザード比(HR)は平均18%低下しており、6ヵ月時点での腫瘍径はこれより早い時期/遅い時期に比べて有意にOSを予測した(p=0.009)。さらにEC50をもたらすCminssはMET陽性では71.5μg/mL、陰性では202μg/mLと、RilotumumabのCminssがOSに対して直接的影響を与えることが示された(p=0.002)。
第II相試験の結果に対応させて第V相試験のデザインをシミュレーションしたところ、MET陽性患者でRilotumumabの上乗せ効果が認められた。OSの推定値はプラセボ群7.6ヵ月、7.5mg/kg群11.9ヵ月、10mg/kg群13.9ヵ月、15mg/kg群15.7ヵ月、20mg/kg群16.3ヵ月となり、用量依存的にOSが延長したように、HR推定値もそれぞれ0.54、0.45、0.38、0.36であった。
以上のように、RilotumumabはMET発現状況にかかわらず時間依存的な線形性の薬物動態を示すことがわかった。胃癌/胃食道接合部癌患者のECX療法においては、腫瘍径縮小、OS延長にRilotumumabの濃度依存的な上乗せ効果が認められた。OSに対するRilotumumabの効果はMET発現状況と関連しており、MET陽性でRilotumumabに十分曝露された患者でOSが延長していた。第III相試験のシミュレーションでは、RILOMET-I試験で用いられた15mg/kgの3週ごと投与が支持され、今後の試験でもMET陽性胃癌/胃食道接合部癌に対してはこの投与量が妥当であろうと考えられる。
Rilotumumabの投与量の最適化を目的とした臨床試験シミュレーション
Rilotumumab(開発コード:AMG102)はMET受容体のリガンドである肝細胞増殖因子(HGF)と結合する完全ヒト型モノクローナル抗体であり、MET受容体の下流シグナル伝達経路を阻害することで癌の増殖を抑える働きがある。胃癌患者の40-60%にMETの発現が認められることから、MET阻害薬は新規治療薬として有望視されていた。
ECX療法に対して、Rilotumumab 7.5mg/kgおよび15mg/kgを上乗せするプラセボ対照無作為化二重盲検比較第II相試験において上乗せ効果が示され、MET高発現症例においては更なる予後改善効果が認められた。その後、MET陽性胃癌患者を対象に第III相試験が企画され、欧米ではECXへの上乗せの検証(RILOMET-1)、日本を含むアジア諸国においてはCapecitabin+Cisplatin (XP)への上乗せの検証(RILOMET-2)が開始された。前述の第II相試験のRilotumumab 7.5mg/kg群と15mg/kg群の生存曲線を比較すると7.5mg/kg群がやや上をいっており良好な傾向にあったが、結果的にいずれの第III相試験においても試験群の用量設定は15mg/kgであり、RILOMET-1試験の中間解析が発表された2015年米国臨床腫瘍学会年次集会でも議論された。
今回の報告は、その用量設定を裏付ける研究結果でありPK-PD解析をもとに臨床アウトカムモデルによる用量最適化を検証したものである。OS延長にRilotumumabの濃度依存的上乗せ効果が示され15mg/kgの設定は妥当であるという結果であった。残念ながらRILOMET-1試験の中間解析でRilotumumab併用群に死亡症例が多く、RILOMET-1、RILOMET-2ともに試験中止となり、治療開発は頓挫してしまった。しかし、治験薬の承認可能性の向上、開発コストの削減のため、このような薬剤・疾患モデルによる臨床試験シミュレーションは今後も汎用されていくものと予想される。
監訳・コメント:大阪市立総合医療センター 腫瘍内科 秋吉 宏平(医長)
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