監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
S-1ベースの1st-line治療に不応な進行胃癌に対する2nd-line化学療法としてのIrinotecan単独療法とS-1+Irinotecan療法を比較した第U/V相試験(JACCRO GC-05)
Tanabe K., et al. Ann Oncol, 2015; 26(9): 1916-1922
日本では進行胃癌の1st-line治療にはS-1+Cisplatin(CDDP)が用いられており、S-1含有レジメン治療で奏効しない場合は2nd-line治療として通常Irinotecan(CPT-11)またはタキサン系薬剤の単独投与が行われる。一方で、S-1+CPT-11の併用投与はCPT-11単独投与に比べ奏効率が高いという報告もあり、この併用投与による2nd-line治療も行われている。しかし、1st-line治療で不応となったS-1を2nd-line治療でも引き続き投与することに有用性があるかを検討した無作為化比較試験はこれまでない。そこで、S-1を含む化学療法が無効となった進行胃癌患者の2nd-line治療としてS-1+CPT-11は有効であるかどうかを検証する多施設共同第II/III相オープンラベル無作為化比較試験を行った。
対象はS-1単独またはS-1+CDDPまたはS-1+Docetaxelによる1st-line治療で病勢進行が画像で確認された、20歳以上、ECOG PS 0/1、余命3ヵ月以上の胃癌および胃食道接合部癌患者である。術後補助化学療法としてS-1含有レジメンを受けていた患者は不適格とした。
適格患者はS-1+CPT-11併用療法(併用群)またはCPT-11単独療法(単独群)に無作為に割り付けられた。併用群は21日を1コースとして、S-1は体表面積<1.25m2なら40mg、1.25〜<1.5m2なら50mg、1.5m2以上なら60mgを1日2回、day 1〜14に、CPT-11は150mg/m2をday 1に投与した。単独群は14日を1コースとしてCPT-11同量をday 1に投与した。
主要評価項目は第II相試験では2nd-line治療開始から6週後の病勢進行率、第III相試験ではOSで、副次評価項目は奏効率、PFS、安全性、3rd-line治療を受けた患者の割合である。
2008年2月〜2011年5月に日本国内68施設から304例が登録され、153例が併用群、151例が単独群に割り付けられた。有効性の解析は評価可能症例293例(併用群145例、単独群148例)について行われた。併用群と単独群の主な患者背景は、年齢中央値67歳、66歳、男性68%、74%、1st-line治療がS-1単独療法26%、26%、1st-line治療の奏効率(CR+PR)は41%、43%と両群間に偏りは見られなかった。
第II相試験では30例を併用群、32例を単独群に割り付けた。6週時病勢進行率は併用群43.3%、単独群37.5%であり、閾値としていた60%以下であったため、第V相試験に移行した。
第III相試験の観察期間中央値は9.07ヵ月で、293例中281例が死亡、11例が生存していた。
併用群 vs. 単独群の治療状況をみると、実施コース数中央値が4コース vs. 6コース、CPT-11の相対用量強度が78.3% vs. 80.1%、S-1は76.4%、CPT-11の総投与量は併用群744mg、単独群1,185mgであった。
OS中央値は併用群 vs. 単独群で8.8ヵ月 vs. 9.5ヵ月(HR=0.99,95%CI:0.78-1.25,p=0.92)で、有意差は見られなかった。PFS中央値も3.8ヵ月vs. 3.4ヵ月(HR=0.85,95%CI:0.67-1.07,p=0.16)と同等であった。測定可能病変を有する併用群118例、単独群122例について奏効率を評価した。CRはなくPRが9例vs. 9例で、奏効率は7.6%vs. 7.4%と両群間に差はなかった。
安全性の解析は併用群145例、単独群149例でについて行われた。Grade 3以上の有害事象は、併用群 vs 単独群で、白血球減少症(24.1% vs. 8.1%,p<0.01)、発熱性好中球減少症(8.3% vs. 0.7%,p<0.01)と、併用群で有意に多くみられた。単独群では2例の治療関連死が認められた。
3rd-line治療移行率は併用群57.9%、単独群61.5%で、両群間に差は見られなかった。治療内容は、Paclitaxelの週1回投与が最も多く(併用群51.2%、単独群51.6%)、続いてDocetaxel単独療法(15.5%、11.0%)、S-1+Docetaxel(8.3%、15.4%)であった。
さまざまな研究結果を受け、S-1を含む1st-line治療に不応な進行胃癌の2nd-line治療ではS-1+CPT-11に延命効果があるという仮説を検証するために本試験を行ったが、S-1+CPT-11併用療法はCPT-11単独療法に比べ臨床効果が優れるという結論は得られなかった。また、CPT-11の総投与量は併用群のほうが少なかったにもかかわらず、Grade 3以上の白血球減少症および発熱性好中球減少症の発生頻度が有意に高かったことを考えると、S-1不応の進行胃癌患者に対する2nd-line治療においてS-1+CPT-11を用いることは推奨されない。
S-1継続投与の有効性は証明されなかった
進行胃癌において、1st-line治療不応となり、2nd-line治療に移行する症例は70%以上であり、OS延長に対する2nd-line治療の役割は極めて重要である。
様々な臨床試験(German AIO trial, Korean phaseVtrial, Couger trial, WJOG4007)の結果より、2nd-line治療として、タキサン系薬剤(Paclitaxel、Docetaxel)、およびCPT-11単剤治療が、胃癌治療ガイドライン(第4版)で推奨されている(推奨度1)。
一方、2nd-line治療において、key drugであるS-1を継続しながら他剤を併用する治療(S-1 継続治療)の有効性を期待し、実践している治療医も存在している。今回の試験は「S-1継続投与に臨床的有用性があるのか?」というClinical Questionに対する結論を得るために行われた試験である。
結果としてCPT-11単剤治療に対して、S-1+CPT-11併用療法は、有効性に差がなく、Grade 3以上の有害事象は明らかに劣る結果であった。これにより1st-line治療でS-1含有レジメン不応患者に対する2nd-line治療として、S-1+CPT-11は投与すべきでないと結論づけられた。
現在胃癌の2nd-line治療は、Paclitaxel単剤治療に対するRamucirumab+Paclitaxel併用療法の優越性が証明され(RAINBOW試験)、同レジメンも本年6月より使用可能となっている。今後は分子標的治療薬との併用による治療が中心となるため、もはやS-1継続投与自体、治療の選択肢となりえないと考えるべきである。
監訳・コメント:兵庫県立がんセンター 消化器内科 津田 政広(部長)
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