論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

7月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

CetuximabおよびPanitumumab投与を受けている進行大腸癌患者におけるBRAF変異の予後予測的役割 : メタアナリシス

Pietrantonio F., et al. EJC, 2015 ; 51(5) : 587-594

 BRAF変異は大腸癌患者の8〜10%に認められ、その予後は野生型患者に比べてきわめて不良であるにもかかわらず、治療法は確立していない。BRAF変異は進行大腸癌においてCetuximab、Panitumumabに対する抵抗性を予測すると考えられているものの、そのエビデンスも得られていない。本稿では、KRAS野生型/BRAF変異大腸癌の標準療法またはBSC(best supportive care)へのCetuximabまたはPanitumumabの上乗せ効果を検討した無作為化比較試験について、系統的レビューおよびメタアナリシスを行った。
 Pubmed、EMBASE、Web of Science、SCOPUS、CENTRAL(Cochrane Central Register of Controlled Trials)から、2014年6月29日までに刊行された英語の文献を検索し、KRAS野生型大腸癌患者に対して①化学療法+Cetuximab(C)/Panitumumab(P) vs.化学療法±その他の分子標的薬、②化学療法+Bevacizumab+C/P vs. 化学療法+Bevacizumab、③C/P単独療法 vs. BSCのいずれかを行った無作為化比較試験を適格とし、抗EGFRモノクローナル抗体投与歴のある患者を含む試験は除外した。刊行されていない試験については、米国臨床腫瘍学会年次集会、ESMO World Gastrointestinal Cancer Conferencesのアブストラクトを検索した。BRAF変異群に関するCまたはPの治療効果のpooled estimateは逆分散法および変量効果モデルにてプールと重みづけを行い、試験とサブグループの異質性はχ2(Cochran Q検定)で評価した。
 主要評価項目はPFSとOS、副次評価項目は奏効率である。
 3807試験中、第III相試験9試験、第II相試験1試験の10試験、9文献(1文献はCRYSTALおよびOPUS試験のpooled analysis)が適格となった。6試験は1st-line治療、2試験は2nd-line治療、2試験は治療歴のある不応性の患者におけるCまたはP vs. BSCの比較であった。10試験で463例がRAS野生型/BRAF変異を有していた。
 OSのデータは7試験から得られた。全体として化学療法単独またはBSCに対するCやPの上乗せ効果は認められなかった(HR=0.91,95%CI:0.62-1.34,p=0.63)。1st-line治療ではCやPを投与したほうがOSが良好な傾向にあったものの有意差には至らなかった(HR=0.76,95%CI:0.54-1.08,p=0.13)。
 PFSのデータは9試験から得られた。OS同様、PFSでも全体的にCとPの上乗せ効果は認められず(HR=0.88,95%CI:0.67-1.14,p=0.33)、1st-line治療でも有意差はみられなかった(HR=0.86,95%CI:0.63-1.17,p=0.34)。 奏効率については6試験からデータが得られた。CやPによる奏効率の改善はみられず(RR=1.31,95%CI:0.83-2.08,p=0.25)、1st-line治療でも同様であった(p=0.31)。
 本メタアナリシスにより、RAS野生型でBRAF変異を有する進行大腸癌患者に対して標準療法に抗EGFR抗体を加えてもOS、PFS、奏効率とも上乗せ効果は認められないことが明らかになった。BRAF変異がみられる場合、とくに1st-line治療の選択が重要になるが、BRAF変異患者の割合が少ないことから、その約5分の1は文献や本メタアナリシスの結果に基づくbenefitが明らかにされないまま1st-line治療として2剤併用化学療法+抗EGFR抗体療法を受ける可能性がある。現時点ではBRAF変異患者に対する最良の治療オプションは化学療法±Bevacizumabであると考えられるが、それでも現在使用できる標準療法では患者の予後は満足できるものではない。BRAF変異はまた、抗EGFR抗体単独療法のネガティブなバイオマーカーである一方で、BRAFとEGFRの両方を阻害する他の分子標的薬についてはポジティブなバイオマーカーでもあり、今後この分野の研究は加速的に進むと思われる。進行大腸癌では初回精密検査の際にBRAFおよび全RAS変異の検定を全患者に行い、治療法決定に役立てるべきであろう。なお、本解析では出版バイアスの影響は受けていない。

監訳者コメント

BRAF変異大腸癌における抗EGFR抗体薬の効果に関して区切りとなる検討

 大腸癌患者におけるBRAF変異は1割弱に認められ、OS中央値が1年前後と非常に予後が悪い。また、BRAF変異は、ほぼKRAS野生型である(相反的な関係)。したがって、KRAS野生型における抗EGFR抗体薬を用いた様々な臨床試験で、BRAF変異に着目した後解析の報告が相次いだ。今回は、大多数から選出した報告に、さらに重みづけをおこなったうえでのメタアナリシスであり、高いエビデンスレベルの報告といえる。
 結果、抗EGFR抗体薬は、RAS野生型/BRAF変異型では、標準化学療法への上乗せ効果が認められないことが明らかとなった。BRAF V600(PCR法)検査が、この2015年2月に悪性黒色腫では保険収載されたが、大腸癌では未だである。BRAF変異をチェックしない一般の臨床現場では、RAS野生型治療に抵抗性を示す症例に対して、BRAF変異を予測して抗EGFR抗体薬に見切りをつけ、早めにより強力なFOLFOXIRI+BeV治療などへ切り替えるか、間延びすることなく残りのkey drugでの治療を進め、できる限りの予後の延長と、QOLとのバランスの維持に努める必要がある。
 現在すでに、BRAFを始めとして、RAS以外の抗EGFR抗体抵抗性にかかわる種々のバイオマーカーに対する研究が進み、これらの複数の阻害薬を組み合わせることで治療効果を狙う方向に向かっている。多数の臨床試験が行われており、良い結果もでてきているようなので、今後に期待したい。

監訳・コメント:岐阜県総合医療センター 外科 田中 千弘(大腸外科部長、外科主任医長)

論文紹介 2015年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場