論文紹介 | 毎月、世界的に権威あるジャーナルから、消化器癌のトピックスとなる文献を選択し、その要約とご監訳いただいたドクターのコメントを掲載しています。

8月
2015年

監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)

不応性の切除不能進行・再発大腸癌に対するTAS-102の無作為化比較試験

Mayer R J., et al. NEJM, 2015; 372(20): 1909-1919

 TAS-102はtrifluridineとthymidine phosphorylaseを配合した経口抗癌剤である。日本での第II相二重盲検プラセボ対照無作為化比較試験で、5-FU、CPT-11、L-OHPに不応な切除不能進行・再発大腸癌患者に対するTAS-102はプラセボ療法と比較して全生存期間のハザード比(HR)が0.56(p=0.001)と有望な延命効果を示した。そこで日本、米国、欧州、オーストラリア共同でTAS-102の有効性と安全性を評価する第III相試験を実施した。
 対象は18歳以上、ECOG基準のPS 0/1、生検により結腸/直腸の腺癌が認められ、2レジメン以上の化学療法歴(フッ化ピリミジン製剤、CPT-11、L-OHP、Bevacizumab ; KRAS野生型の場合はCetuximabまたはPanitumumab)がある患者とした。
 適格患者はTAS-102療法(T群)またはプラセボ療法(P群)に2:1で無作為に割り付けた。最初の2週間はTAS-102またはプラセボ35mg/m2を1日2回、週5日投与、2日休薬、次の2週間は休薬し、4週を1コースとして繰り返した。全例にbest supportive careを実施した。
 主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、奏効率、病勢コントロール率(無作為化から少なくとも6週後のCR/PR/SD)、安全性とした。
 2012年6月〜2013年10月に800例をT群534例、P群266例に無作為化した(両群33%ずつの日本人を含む)。T群とP群の主な患者背景は、年齢中央値63歳、63歳、男性は61%、62%、KRAS野生型49%、49%で、全例がフッ化ピリミジン製剤、L-OHP、CPT-11を含むレジメンによる治療を受けていた。またP群の1例を除く全例にBevacizumab投与歴、T群17%、P群20%にRegorafenib投与歴があった。KRAS野生型では各群1例を除く全例がCetuximabまたはPanitumumab投与を受けていた。患者の90%以上はフッ化ピリミジン製剤に不応で、50%以上は同剤を含む直近の治療に不応であった。TAS-102の投与期間は中央値6.7週、プラセボは5.7週であった。
 奏効率はT群502例、P群258例で評価した。T群8例がPR、P群1例がCRに達し、奏効率は1.6% vs. 0.4%と有意差はみられなかった(p=0.29)。病勢コントロール率は44% vs. 16%でT群が有意に優れていた(p<0.001)。
 OSとPFSについてはITT解析を行った。T群とP群のOS中央値は7.1ヵ月 vs. 5.3ヵ月で、T群のP群に対する死亡のHRは0.68(95%CI:0.58-0.81)とT群で有意な延命効果が認められた(p<0.001)。1年OSは27% vs. 18%であった。T群の延命効果はすべてのサブグループでみられた。
 OSのpredictiveな因子は多変量解析では特定できなかったが、prognosticな因子は初回転移後の期間、ECOG PS、転移部位数であった。これらの3因子で補正後もTAS-102の延命効果は変わらなかった(HR=0.69)。とくに5-FUとRegorafenib不応患者で大きな効果が認められた。
 PFS中央値は2.0ヵ月 vs. 1.7ヵ月、HRは0.48(95%CI:0.41-0.57)で、T群が有意に優れていた(p<0.001)。PFSについてもすべてのサブグループでT群が延長した。
 PSが治療前の0/1から2以上に悪化するまでの期間中央値は5.7ヵ月 vs 4.0ヵ月で、T群で有意に延長していた(HR=0. 66、95%CI:0.56-0.78、p<0.001)。
 安全性はT群533例、P群265例で評価した。Grade 3以上の有害事象はT群69%、P群52%とT群で高頻度に発現した。Grade 3以上の有害事象は、T群では38%が好中球減少、4%が発熱性好中球減少症を発症し、9%がG-CSFの投与を受けた。貧血(18% vs. 3%)、および血小板減少(5% vs. <1%)はT群で高頻度であった。非血液毒性では悪心(2% vs. 1%)、嘔吐(2% vs. <1%)、下痢(3% vs. <1%)などがみられたが、重篤な肝および腎障害、食欲不振、口内炎、手足症候群、心イベントには臨床的に意味のある差はみられなかった。なお、T群で敗血症性ショックによる治療関連死が1例に認められた。
 多種類の治療歴を有する日本人および西欧人の切除不能進行・再発大腸癌患者に対して、TAS-102はOS、PFSの延長をもたらし、臨床効果を示した。その効果はすべてのサブグループでも認められ、KRASの変異状況による差はなかった。本試験では対象患者の大半がフッ化ピリミジン製剤に不応であったことから、TAS-102の作用機序はフッ化ピリミジン製剤とは異なるという前臨床試験のデータを臨床的に支持するものである。有害事象として好中球減少が高頻度にみられたが、重篤な有害事象は少なかった。

監訳者コメント

進行・再発大腸癌、3rd-line治療以降の生存延長をめざして

 フッ化ピリミジン製剤、CPT-11、L-OHP、Bevacizumab、KRAS遺伝子の野生型群に対するCetuximab、Panitumumabなどの標準治療が無効となった症例に対して、現在はTAS-102やRegorafenibが使用可能である。本論文ではTAS-102をこれらの症例に対して投与し、生存の延長が得られたことを報告している。奏効率はプラセボ群と差がなかったものの、病勢コントロール率、OS、PFSのすべてにおいてTAS-102投与症例では有意な改善および延長が認められた。有害事象は高頻度に認められ、そのほとんどが骨髄抑制に関するものであるため、投与と検査のスケジュールが重要である。このような患者はPSが良好であればまだ治療継続が可能であり、日常臨床で振り返ってみるとかなり多くの患者が当てはまることに気づく。本論文では、これらの症例に対して同様に投与されることが多いRegorafenibに対して不応な患者に対しても特に有効であったことが報告され、臨床上の意味深い結果と考えられた。

監訳・コメント:埼玉医科大学国際医療センター 包括がんセンター 消化器腫瘍科 柴田 昌彦(教授)

論文紹介 2015年のトップへ
このページのトップへ
MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc
Copyright © MEDICAL SCIENCE PUBLICATIONS, Inc. All Rights Reserved

GI cancer-net
消化器癌治療の広場