監修:東海中央病院 坂本純一(病院長)
Bevacizumab+Oxaliplatinベースの1st-line治療を受けた切除不能進行・再発大腸癌患者に対する2nd-line治療としてのFOLFIRI+Bevacizumab療法 : 第III相無作為化比較EAGLE試験
Iwamoto S., et al. Ann Oncol, 2015 ; 26(7) : 1427-1433
切除不能進行・再発大腸癌の標準療法はFOLFOXまたはFOLFIRI+抗VEGF薬/抗EGFR薬であり、切除不能進行・再発大腸癌ではBevacizumabを用いた1st-line治療が確立している。また、その継続投与について、2nd-line治療でもOS中央値の延長効果がML18147試験で認められているものの、至適用量は未だわかっていない。用量に関しては、E3200試験で化学療法による1st-line治療後に増悪した患者に対して化学療法+Bevacizumab 10mg/kgを2週に1回投与したところ、化学療法単独またはBevacizumab療法単独に比べOSが優れていたことが示されている。一方で、1st-line治療では5mg/kgの2週に1回投与でも延命効果を認めている。またBevacizumabの効果は用量依存性である可能性を示すいくつかのエビデンスがある。
そこで、日本の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象に、FOLFIRIにBevacizumab 5mg/kgを追加した場合と10mg/kgを追加した場合の有効性と安全性を検討する多施設共同第III相オープンラベル無作為化比較試験を行った。
対象は、Oxaliplatin(L-OHP)ベースのレジメン+Bevacizumabによる1st-line治療4コース以上を受けた後に病勢進行または有害事象がみられた切除不能進行・再発大腸癌患者で、20歳以上、ECOG基準のPS 0/1、余命3ヵ月以上とした。また、CPT-11投与歴のある患者は不可とした。
対象患者はFOLFIRI+Bevacizumab 5mg/kg(5mg群)または10mg/kg(10mg群)に無作為に割り付けた。BevacizumabはFOLFIRIと同時に30分で静注し、治療は2週ごとに病勢進行が認められるまで継続した。
主要評価項目はPFS、副次評価項目はOS、2nd PFS(1st-line治療開始以降のPFS)、奏効率、治療成功期間(TTF)、安全性とした。
2009年9月〜2012年1月に登録された387例中369例を5mg群(181例)または10mg群(188例)に無作為化した。最終追跡は2013年9月28日、追跡期間の中央値は394日であった。
5mg群と10mg群の主な患者背景は、年齢中央値66歳、65歳、男性56%、57%、腺癌93%、95%で、転移部位数、補助療法から再発までの期間、1st-line治療のレジメン(mFOLFOX6は58%、59%、XELOXは15%、19%)など、バランスが取れていた。
奏効率は5mg群がPR 11%、10mg群がPR 11%と同等であった。
PFSについては5mg群に174、10mg群に176のイベントが発生した。PFS中央値は5mg群6.1ヵ月 vs. 10mg群6.4ヵ月と有意差はみられなかった(HR=0.95,log-rank p=0.676)。2nd PFS中央値も17.4ヵ月 vs. 17.6ヵ月で有意差はなかった(HR=1.00,p=0.976)。PFSについてサブグループ解析を行ったところ、原発巣の部位が直腸、CEA値≧20ng/mL、標的腫瘍径>50mmの患者群で10mg/kgの治療効果が5mg/kgに比べて良好な傾向がみられた。
5mg群で126例、10mg群で133例が死亡しており、OS中央値は16.3ヵ月 vs. 17.0ヵ月と有意差は認められなかった(HR=1.08,p=0.667)。
TTFのイベントは179 vs. 188、中央値は5.2ヵ月 vs. 5.2ヵ月と有意差は認められなかった(HR=1.01,p=0.967)。
安全性は365例(5mg群180例、10mg群185例)で評価した。血液毒性・非血液毒性とも全Gradeでの発生頻度は両群同等であった。Grade 3以上のBevacizumab関連有害事象は、消化管出血0.6% vs. 0.0%、鼻出血0.0% vs 0.5%、高血圧1.1% vs. 1.6%と両群に差はみられなかった。治療関連死は各群2例ずつに認められた(5mg群は嚥下性肺炎と急性心筋梗塞、10mg群は間質性肺炎と原因不明)。
本試験は、L-OHPベースのレジメン+Bevacizumabによる1st-line治療後に切除不能進行・再発となった大腸癌に対してFOLFIRIを用いた2nd-line治療においてBevacizumab 10mg/kgの有効性が5mg/kgより優れることを評価するデザインで実施した。しかし奏効率、PFS、OS、TTFともに有意差はなく、10mg/kgの優越性は認められなかった。また安全性も同等であったことから、少なくとも日本人患者で1st-line治療後にBevacizumab投与を継続する場合は5mg/kgが2nd-line治療の用量として適切であると考えられる。
BBPにおけるBevacizumab投与量は5mg/kgに決着
このEAGLE試験は、ML18147試験のBBPの結果が発表される前から日本で計画され実施されてきた試験で、その結果は世界的にも非常に注目されてきた。
この試験は、1st-lineとしてL-OHPを中心とする化学療法とBevacizumab投与後に増悪した進行大腸がん患者の2nd-line治療として、FOLFIRI療法にBevacizumab5mg/kgを2週に1回投与する群に比較して,10mg/kgを2週に1回投与する群が良好な効果を示すかどうかを検討する無作為化比較第III相試験である。Bevacizumab 5mg/kg と10mg/gの効果を直接比較する試験は、世界中でもこの試験のみである。ML18147試験で証明されたBBPは、現在では標準治療としてみとめられているが、これは1st-line、2nd-line治療ともにBevacizumab5mg/kgで施行された試験である。一方、2nd-line治療におけるBevacizumabの有効性はE3200試験で証明されたが、この試験でのBevacizumabの投与量は10mg/kgであった。このため、5mg/kg と10mg/kgの効果を直接比較したこの試験は2nd-line治療におけるBevacizumabの用量を5mg/kgに決定したことになる。大腸癌化学療法の2nd-line治療におけるBevacizumabの使用において、この論文は世界でも重要性の高い報告である。
監訳・コメント:関西労災病院下部消化器外科 賀川 義規
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