虎の巻 編集会議 
第1回 術後化学療法の巻
1.術後補助化学療法の対象症例、注射薬と経口薬の選択

久保田先生久保田 それでは、大腸癌の術後補助化学療法についてディスカッションを行っていきたいと思います。  本邦では、2005年に大腸癌治療ガイドラインが発売されましたが、術後補助化学療法に関しては、stageIII結腸癌に対する標準療法として、5-FU/l-LVが推奨されています(表1。一方、欧米の大規模臨床試験であるMOSAIC試験1)では、stageII〜III大腸癌の術後補助化学療法としてFOLFOX4とLV5FU2を比較した結果、5年DFS(Disease Free Survival)は、全例およびstageIIIのFOLFOX 4施行群において有意な改善が認められ、stageIIのハイリスク群では改善傾向が認められました。また、本試験の最終解析結果2)が2007年のASCOにて発表されましたが、stageIIIのFOLFOX 4群において、6年OS(Overall Survival)の有意な改善が認められています。
 本邦では、FOLFOXは術後補助化学療法として承認されていないため、現在はおそらく経口薬のUFT/LV錠、あるいは注射薬の5-FU/l-LVが使われていることと思います。そこに最近、経口薬のカペシタビンに結腸癌に対する術後補助化学療法の効能が追加されたわけです。こうした状況のなかで、先生方はどのように対応されているかをお聞きしたいと思います。加藤先生はいかがですか。

加藤 実臨床では、5-FU/l-LVとUFT/LV錠を標準治療と位置付け、内服と点滴の特徴をそれぞれ説明したうえで、患者さんに選択してもらっています。以前、UFT/LV錠と5-FU/l-LV を比較したJCOG 0205試験に参加した際、患者さんに「5-FU/l-LVが標準治療です」と説明したうえで試験への参加を募ったのですが、5-FU/l-LVを選択された患者さんの多くは「標準治療」という言葉に弱かったようです。現在は両方とも標準治療という位置付けですが、どちらかと言うとUFT/LV錠を選択される方のほうが多くなっていますね。 

久保田 stage に関してはどうですか。

加藤 stageIIIが対象です。ハイリスクのstageIIでは判断が少し難しいので、現時点では、基本的に臨床試験への参加を勧めています。stageIIIb に関してはケースバイケースですが、適応外であることを説明してご了承いただけた方には、オキサリプラチン(L-OHP)を加えたレジメンで投与することもあります。

西村 私も加藤先生とほぼ同様で、UFT/LV錠か5-FU/l-LVのいずれかを施行していたのですが、外来化学療法室ができてからは注射薬の5-FU/l-LVが多くなりました。しかし、最近は外来化学療法室が満床になってきたため、また経口薬に戻っているという状況です。ただ、経口薬の場合は食間に服用することを嫌がる患者さんもいますし、メンテナンスが難しい面もあるので、患者さんに聞いて自分自身でコントロールできないようであれば、注射薬で治療するようにしています。今回、カペシタビンが承認されて、UFT/LV錠とは服用方法も違ってくるので、もう1つの選択肢として期待しています。

久保田 すでに術後補助化学療法にカペシタビンを導入されている施設はありますか。また、UFT/LV錠、5-FU/l-LVなどの選択はどのようにされていますか。

吉野先生吉野 国立がんセンター東病院では、stageIIIaに対しては、基本的に5-FU/l-LV、UFT/LV錠、カペシタビンの3つから、患者さんに選んでもらっています。注射か経口かに関しては、西村先生と同様に、自己管理できるかどうかがポイントです。UFT/LV錠なら食間に1日3回、カペシタビンなら1日2回。その自己管理ができないという患者さんには、注射薬を選択しています。

久保田 stageIIのハイリスク群については、いかがでしょう。

吉野 stageIIのハイリスク全例に、「stageIIは術後補助化学療法の意義が証明されていないし、ハイリスク群に対しても、MOSAIC試験で(生存期間延長)効果は証明されていない」ということを説明します。ただ、DFSに関してはある程度の効果があるのも事実なので、特に20〜30歳代前半の若い人たちには、stageIIでも「practice にやりますか」というお話はしています。レジメンは、5-FU単独療法をお勧めします。

表1 大腸癌治療ガイドラインによる術後補助化学療法の定義

   
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