一般病院でいきなりFOLFOX 4治療は可能か

瀧内:日本の一般病院ではde Gramont regimenでさえも症例経験があまりないという状況ですが、L-OHP併用で、いきなりFOLFOX 4を開始することは可能でしょうか。

荒井:FOLFOX 4は外来投与が可能なregimenですが、安全性重視の点では、藤井先生がおっしゃったように、最初は入院で治療するのが適切だと思います。ただ外来化学療法で行う場合には、1日だけの通院で可能なmFOLFOX 6で実施するのか2日連続の通院が必要なFOLFOX 4で実施するのかにより、煩雑さが大きく異なってきます。反面、投与開始初期の有害事象についてはL-OHPはirinotecan(CPT-11)よりも比較的安全に使いこなせると思いますし、infusional 5-FUもportと携帯ポンプを使えば難しいものではありません。ですから、FOLFOX 4自体は、日本の一般病院でも実施可能な治療法だと思います。

瀧内:ということは、大腸癌治療が専門の外科医なら、CPT-11以上に導入しやすい薬剤と考えていいわけですね。

荒井:現時点ではそういう理解でいいと思います。逆にいえば、L-OHPもinfusional 5-FUも、化学療法として実施しにくい類のものではないと思います。

瀧内:なるほど、そうなると実施の煩雑さだけですか。

荒井:そうです、実施の煩雑さだけです。治療としての実施の難易度が高いわけではなく、あくまで実施が煩雑なだけですから、熱意のある医師が注意深く管理すれば、一般病院でも十分実施可能なregimenだと思います。

瀧内:朴先生はどう思われますか。

朴:2日間連続投与というのは結構難しいですが、一般病院にも肝動注に習熟した医師がたくさんいらっしゃいますので、中心静脈のportも管理できるはずです。ただ、状態の悪い患者さんにどれだけこの薬が使えるか、安全性は確保できるかというと、心配な面もあります。CPT-11よりも安全と言われていますが、臨床試験ではグレード3、4の好中球減少が50%前後発現したと記憶していますので、状態の悪い患者さんにはもっと重篤な有害事象が起こる可能性があることを十分配慮する必要があると思います。

瀧内:実施は可能ですが、安全性に十分配慮する必要があるということですね。

治療する上で注意すべき点

瀧内:ということはPSの悪い患者さん、あるいはheavily treated、いわゆるthird line、forth line、fifth lineといった患者さんには十分注意が必要だということですね。

朴:やるなとは言えませんが、やっても大丈夫とはなかなか言えないと思います。

瀧内:一番重要なポイントはやはりPSですか。

朴:PS、それと肝機能だと思います。

瀧内:大津先生、FOLFOX 4との注意点として、他に何かございますか。

大津:現在使われているinfusional 5-FU/LVベースの併用療法の中では、FOLFOX 4は安全性が一番高く、扱いやすいregimenだといえますし、現時点では恐らくエビデンスが一番蓄積されているregimenだと思います。しかし、日本での臨床データが確立していないので、最初のうちはfollow-upの間隔を短くして、注意深く観察することが重要です。最初の4週間ぐらいは毎週受診していただいて、それで問題なければ以後は2週に1回という形で考えています。

瀧内:藤井先生は、最初は入院していただく方がいいけれど、将来的には外来治療に移そうというご意見ですね。

藤井:将来は外来でやらなければいけないと思っていますが、安全性のためには、最初はできるだけ入院していただいた方がよいだろうというのが我々の意見です。それからport挿入については、advisory board meetingで、port挿入に対応できるような施設はある程度体制が整っているのではないかという意見があって含めたものであって、絶対に入れなさいという制約ではありません。

瀧内:現時点ではportは末梢静脈に挿入されているのですか。

藤井:もちろん末梢静脈です。我々外科医はport挿入に慣れていますが、2泊3日の入院は管理もしやすいし、外来化学療法の安全性を確保するためにもお勧めしたいと思います。いったんportを挿入するとFOLFOX 4よりもFOLFOX 6を実施したくなるかもしれませんが、FOLFOX 6ではL-OHPの投与量が100mg/m2となり、承認用量の85mg/m2を超えてしまいます。「1,200例の集積が終わるまではFOLFOX 4の85mg/m2を守ってください」というのがadvisory boardの意見ですので、FOLFOX 4で実施するほうがよいでしょう。

瀧内:大津先生は現在、FOLFOX 4は外来化学療法を実施していらっしゃいますか。

大津:外来化学療法として、2日間通院していただいています。少し煩雑さはありますが、L-OHPの承認の条件はFOLFOX 4ですので、我々もFOLFOX 4を基本に考えています。Portは鎖骨下に設置しています。

Portについて

瀧内:今後はできるだけ簡便なinfusional 5-FUが望まれる状況になっていくと予想されますが、将来的には内科でもport挿入して管理するという方向に進むのでしょうか。

荒井:日本では肝動注が広く用いられていましたので、portの扱いには十分慣れている施設が多いと思われます。むしろ、肝動注を否定してきた本チャンのmedical oncologistだけがportの扱いに不慣れなのかもしれません。このためか、portを使用しての外来ベースのinfusional 5-FUはこれまでごく限られた施設でしか実施されていませんでした。今回、この多くの施設がすでに十分使いこなせるportを使えばエビデンスに基づいた投与方法を実施できるようになったわけですから、これを活用しない手はないと思います。もともと内科でも肝動注はたくさん行われていたわけで、何ら問題はないと思います。

朴:1つportのことで付け加えたいのは、最近アメリカでは、末梢からL-OHPを何回も投与していると末梢神経障害や血管痛が出やすいと考えられているようで、XELOX regimen (capecitabine + L-OHP) を実施する際にもportを挿入してL-OHPを投与する医師が多いそうです。

大津:アメリカでは、化学療法を受ける患者さんにはほとんどportを挿入しているようですね。

朴:はい。そういうこともあって、portを勧めておいたほうがよいかと思っています。

瀧内:今後は我々内科医も、荒井先生のような専門家に指導していただいて、port挿入ができるようになったほうがよいのでしょうか。

藤井:内科医がportを挿入することには全く問題ないと思いますが、合併症が出たときの対処を考えると、可能であれば外科医にお任せするほうがよいと思います。手技は簡単ですが、合併症がでると本当に大変ですから。

荒井:鎖骨下静脈から中心静脈カテーテルを挿入する際に気胸などの合併症が問題となりますが、普通の中心静脈カテ−テルとは異なり、恐らくベッドサイドではなくX線透視のあるような検査室で挿入することが多いと思います。この場合には透視が使えるわけですから、何もブラインドで穿刺する必要はなく、肘静脈から造影しながら刺したほうがはるかに確実です。それともう一点、挿入したportは後で全く問題なく容易に取ることができます。この点は一般に誤解されているようですので、この機会に一言追加させていただきます。

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