ドイツにおけるstage II、stage IIIへの補助化学療法
瀧内:次に大腸癌の補助化学療法の話題に移りたいと思います。大津先生、現在進行中の臨床試験を含め、わが国の術後補助化学療法の現状を紹介してください。
大津:議論が分かれるところですね。日本の『大腸癌治療ガイドライン 医師用2005年版』では、stage III結腸癌に対する標準的治療としてLV/5-FUを推奨しています。しかし、海外ではLV/5-FUに比べFOLFOX療法が優ることを示すデータが多数あります。恐らく、腫瘍内科医はFOLFOX療法をstage III結腸癌の標準的治療とすべきだと考えていると思いますが、術後補助化学療法としてのL-OHPの使用は日本では保険適応になっていません。これからその安全性試験を行う予定ですので、近い将来FOLFOX療法は術後補助化学療法でも保険適用になると思います。
室:Stage IIIには通常、LV/5-FUまたはLV/UFTが用いられ、先進的な医療機関でのみ、stage IIIBに対してFOLFOX療法が行われているのではないでしょうか。
Köhne:ドイツでは、stage III症例の多くは術後にFOLFOX療法を受けています。ただ、神経毒性のために推奨投与期間である12サイクルを完遂できない症例があり、一部の患者は2〜3年経っても神経障害が消失しませんでした。将来は、stage IIIでも再発のリスクが高い患者は最も効果の高い併用レジメ、低リスク患者は経口5-FU剤またはLV/5-FUと、リスク別に治療を選択するようなるかもしれません。
瀧内:Stage IIについてはいかがですか。
Köhne:まだ多くの不確定要素がありますね。我々は治癒切除後のステージII結腸癌に対する持続静注5-FU+CPT-11±LV群と手術単独群を比較するPETACC-4試験を開始しましたが、忍容性が低く、完遂できませんでした。それはCPT-11のせいではなく、手術単独群を設定したためだと思います。ですから、エビデンスが少ないにもかかわらず、多くの医師がstage II、特に高リスクのstage II患者に術後補助化学療法を行っていると推察されます。日本ではどうですか。
室:Stage IIには通常、術後補助化学療法を行うことはしていません。
肝転移切除術後の補助化学療法
瀧内:肝切除後の補助療法もcontroversialだと思われますが、Köhne 先生は、肝切除術の後に補助化学療法を行いますか。
Köhne:これも難問ですね。一部の患者、主に若い患者では行いますが、高齢患者は補助化学療法を嫌がります。肝切除術後の補助化学療法を強く支持するデータはありませんが、若年者への使用に異論はないと思います。
大津:当院では通常、stage IIIB患者と同様に6ヵ月間のFOLFOX療法を行います。FOLFOX療法が肝切除術後の標準的治療であるべきと考えています。
室:私自身は大津先生に賛成ですが、医師や医療機関によって意見は異なると思います。多くの腫瘍内科医はFOLFOX療法を施行したほうがよいと考えていると思いますが、逆に多くの外科医は肝切除術単独、あるいは補助化学療法にLV/5-FUを施行するという意見が支配的ではないでしょうか。
瀧内:肝切除後の補助療法についてはFOLFOX療法が行われるようになりつつあるようですね。一方、ドイツでは術前補助化学療法の臨床試験は行われていますか。
Köhne: 術前補助化学療法では多剤併用化学療法が行われています。FOLFIRI療法とFOLFOX療法の有効性は同等だと思います。臨床試験では有効性や奏効率を高めるためFOLFIRI療法あるいはFOLFOX療法にcetuximabを追加したり、第2の切除を目指してFOLFOX療法にCPT-11 を加えた4剤併用も行っています。ただ、手術前合併症が起こる可能性があるため、臨床試験以外ではbevacizumabの使用は避けています。