効果予測因子としてのEGFRの有用性
瀧内:Cetuximabの効果予測因子として、当初はEGFR statusも注目されましたが、実際のところはどうなのでしょうか。
永田:EGFR陽性癌患者において治療成績の改善が認められましたが、EGFRが過剰発現した患者のなかにまったく奏効しない症例もあることが明らかにされました。また、EGFR陽性の強さを4段階に分けて比較したデータがありますが、奏効率には差が認められませんでした10)。しかし現時点では強陽性であろうが弱陽性であろうが、EGFRが組織的に反応を示した場合はcetuximabを使用しますが、それ以上の意味合いはないように思います。
瀧内:EGFR陽性の強度は奏効率と相関しないということですから、EGFR statusは治療効果のよいバイオマーカーではないということですね。
KRAS statusによる治療方針
瀧内:一方、KRAS statusについては、CRYSTAL試験のサブグループ解析がASCO 2008で発表されました11)。
渡邊:確かに、2008年のASCOではKRAS が大きな注目を集めていましたね。CRYSTAL試験はFOLFIRI±cetuximabの試験ですが、KRAS 野生型に比べて、変異型ではcetuximabの効果が低いという結果が出ています11)。さらに、FOLFOX±cetuximabを比較したOPUS試験では、KRAS変異型ではむしろcetuximabを投与したほうが悪いという傾向もみられました12)。また、NCIC CTG CO.17試験においても、KRAS statusがcetuximabの効果予測因子になるという結果でした13)。
こうした状況を受けて、2009年のNCCNガイドラインの改訂では、KRAS 野生型の症例は1st-lineにcetuximabのオプションが加わりましたし、欧州でもKRAS statusに基づいた治療を推奨しています。
瀧内:すでにpanitumumabにおいてもKRAS 変異のない患者での治療効果が高いことは報告されていますが、今年のASCO-GIシンポジウムでは、panitumumabのわが国における第I/II相試験の後解析が発表されました14)。
渡邊:KRAS 評価が行われた24例中、変異型が10例(42%)、野生型が14例(58%)と欧米とほぼ同様の割合でした。disease control rate は野生型の71.4%に対し、変異型は10%で、PFSにも差が認められ、欧米と同様の傾向が示されています(表2)。
そこで、日本臨床腫瘍学会では「KRAS 遺伝子変異検討小委員会」を立ち上げ、そこで作成した「大腸癌患者におけるKRAS 遺伝子変異の測定に関するガイダンス」をホームページ上で公開し、一般の意見を募っている状況です。
そのガイダンスの中では、「KRAS statusに基づいてcetuximabの治療を考えるべき」と記載されていますが、問題はKRAS 遺伝子検査が保険未承認だということです。また、測定方法によって変異の頻度が異なるという報告もあります。さらに、転移巣と原発巣のKRAS statusが同じかどうかという問題も指摘されています15-18)。
瀧内:やはりわが国においても欧米各国と同様、大腸癌患者の4割程度にKRAS 変異が認められ、このような患者に対しては、抗EGFR抗体による治療効果は期待できないということですね。KRAS statusは抗EGFR抗体治療の重要なマーカーでありますが、検査法など、今後議論していかなければいけない問題も残されています。