Point 2:2nd-lineのレジメンとリスク・ベネフィット
●BBP後に3rd-lineとして抗EGFR抗体を投与するか、BBPをせずに抗EGFR抗体を投与するか
大村:次に、実際の治療についてうかがいます。KRAS 野生型で、1st-lineとしてL-OHPベースの化学療法にBevacizumabを併用して不応であった症例に対し、2nd-lineではどのようなレジメンが勧められるでしょうか。BBP肯定派の先生方はいかがですか。
吉田:FOLFIRI + Bevacizumabを勧めたいと思います。KRAS 野生型ですので、抗EGFR抗体という選択肢も当然あると思いますが、そうすると3rd-lineの選択肢がなくなってしまいます。化学療法をできるだけ長く継続することでOSが延長されるという考え方に基づけば、2nd-lineで有効な薬剤を使いきらずに、抗EGFR抗体は3rd-lineに残しておくことも考えられます。2nd-lineで細胞毒性抗癌剤と分子標的治療薬を組み合わせた治療をしようとするならば、Bevacizumabを2nd-lineで継続して使用するという考え方も成り立つのではないでしょうか。
佐藤:私も同じ考えです。2nd-lineでは細胞毒性抗癌剤のL-OHPとCPT-11を入れ替え、Bevacizumabを継続して使用します。これによって細胞毒性抗癌剤の変更による治療効果が期待できます。FOLFIRI + Bevacizumabを可能なところまで継続して、その後CPT-11に抗EGFR抗体を併用し上乗せ効果を期待するという治療戦略をとることにより、全体の化学療法をより長く継続できる可能性があると考えます。
大村:BBP否定派の先生方はいかがですか。
松本:やはりエビデンスに基づいて考えるべきだと思います。私は1st-lineでBevacizumabを使用した症例に対し、Bevacizumabは継続使用しません。20050181試験9) やBOND試験10) などの海外のエビデンスに基づくと、1st-lineがFOLFOX + Bevacizumabの場合の 2nd-lineはFOLFIRIまたはCPT-11に切り替え、抗EGFR抗体を併用するのが、現時点では最も正しい治療選択であると思います。
大村:FOLFIRI + 抗EGFR抗体でなく、CPT-11 + 抗EGFR抗体でもよいということですか。
松本:それは5-FUの投与期間によります。L-OHPベースで5-FUを長期間投与した症例に対しては、私は抗EGFR抗体をCPT-11単剤と併用するケースが多いです。
大村:瀧井先生はいかがですか。
瀧井:一般には、2nd-lineにはFOLFIRIを行うことが多いと思います。FOLFIRIに抗EGFR抗体を併用するか否かについてですが、現時点では、抗EGFR抗体は3rd-lineでの効果が最も多く証明されていることから10-12)、私は3rd-lineでの使用を勧めています。ただし、1st-lineの治療がほとんど無効でPDになった場合など、2nd-lineで早めに抗EGFR抗体を使用したい症例もありますので、それはそのときの病状の進行度によって判断したいと思います。
大村:BBP否定派のご意見としては、現在のエビデンスに基づき、2nd-lineではBevacizumabの投与を中止する。ただし抗EGFR抗体については、「2nd-lineではKRAS 野生型であれば、基本的に全例に投与する」松本先生と、「3rd-lineを基本とし、症例によっては2nd-lineで用いる」瀧井先生とで、若干意見が異なるようですね。
●薬理学的な面からみたBBPの意義と費用対効果
大村:BBPについては、Prof. Grothey自身が講演などで肯定・否定の両面から論じており、血管新生の機序やBevacizumabの薬理学的検討など、基礎的なデータを論拠として引用しています。先生方はどう思われますか。
吉田:分子標的治療薬はこれまでのデータから、細胞毒性抗癌剤とは異なる性質を有していることが明らかになっています。例えば癌種は違いますが、HER2陽性乳癌では、TrastuzumabをPD後も継続投与することが国内外のガイドラインにより推奨されています13, 14)。あくまで推測ですが、BevacizumabにもTrastuzumabと似たような性質があるのではないかと考えています。
佐藤:Bevacizumabの作用については、従来から、血管新生阻害作用よりも間質圧の低下によるdrug deliveryの改善のほうが重要ではないかと指摘されてきました。それを考えると、細胞毒性抗癌剤を替えたときにdrug deliveryを継続するためにも、BBPを行うほうがよいのではないかと思います。
Bevacizumabが抑制すべき因子は、おそらく2nd-lineや3rd-lineの段階になると増加していますので、血管新生阻害作用だけでは抑えきれないと思います。しかし、ARIESのデータでは、2nd-lineにおけるBevacizumabの効果は、Bevacizumab既投与群と未投与群で差はありません3)。したがってBevacizumabには、間質圧の低下による治療効果の継続が期待できるのではないかと考えています。
大村:なるほど。松本先生はどう思われますか。
松本:関連する文献をいくつか読みましたが、どれも結論は得られていないように思います。現時点で明らかになっているデータをもとにベネフィットとリスクを考えれば、BBPを肯定することはできません。リスクに関しては、長期間使用してもBevacizumabに関連する有害事象は増加しないと報告されており、これは確かだろうと思いますが、コストの面でいえばBevacizumabは高額な薬剤であり、効果の明らかでないBBPとしての使用は勧められません。
ただし、BBPが有効な症例が存在する可能性はあります。したがって、本当にベネフィットが得られる患者さんを特定するpredictive factorの探索が必要だと思います。Bevacizumabの耐性メカニズムの解明、circulation endothelial cell (CEC) やcirculating endothelial progenitor (CEP) を用いたBevacizumabの効果予測など、こうした基礎的なデータが出てくるのを期待しています。
大村:Prof. Grotheyは、BBPを否定する側の理由のひとつとして、“Bevacizumab is not non-toxic”と述べています。Bevacizumabは副作用のマネジメントがしやすいともいわれますが、決してnon-toxicというわけではない。その意味でも、predictive markerの検索は非常に重要な課題といえますね。