大村:日本内視鏡外科学会ならびに日本産科婦人科内視鏡学会、日本泌尿器内視鏡学会の会員を対象に行なった内視鏡外科手術に関するアンケート調査によると、大腸癌における腹腔鏡下手術の割合は年々増加しており、2011年には46.8%に達しています (図1) 。今後は横行結腸と下部直腸も含めて、腹腔鏡下手術がますます増えるでしょう。まず永田先生と瀧井先生から、腹腔鏡下手術に関する臨床試験について紹介していただきます。

永田:大腸癌の腹腔鏡下手術と開腹手術の無作為化比較試験として、Barcelona試験 、COST試験、COLOR試験、MRC CLASICC試験が発表されています (表1) 。
Barcelona 試験は1993〜1998年に、横行結腸癌を除く結腸癌患者219例を対象に行われた単施設の試験です1)。OS (overall survival) に有意な群間差はありませんでしたが、主要評価項目のcancer‐related survivalは腹腔鏡下手術群のほうが有意に良好でした (p=0.02) 。また、stage III 症例では腹腔鏡下手術群で無再発期間 (p=0.04) 、OS (p=0.02) 、cancer related survival (p=0.006) のいずれも有意に延長することが示されました。
一方、COST試験は1994〜2001年に横行結腸癌および直腸S状部癌を除く結腸癌患者863例を対象に行われた北米48施設の共同試験です2)。3年時点の再発率は腹腔鏡下手術群16%、開腹手術群18%であり (HR=0.86, p=0.32) 、OSはそれぞれ86%、85% (HR=0.91, p=0.51) と、いずれも有意差はみられませんでした。
COLOR試験は1997〜2003年に孤立性結腸腺癌患者1,248例を対象に行われた欧州29施設の共同試験で、主要評価項目の3年DFS (disease-free survival) は腹腔鏡下手術群が74.2%、開腹手術群が76.2%で非劣性を示せませんでしたが3)、手術の施設間差が指摘されています。また、進行癌において開腹手術への移行率が非常に高かったこともあり、そのような例を除くと腹腔鏡下手術の非劣性が証明されたと解析されています。
MRC CLASICC試験は1996〜2002年に、横行結腸癌を除く結腸・直腸癌794例を対象に行われた英国27施設の共同試験です4)。主要評価項目 (3年OS、3年DFS、3年局所再発率) 、および副次評価項目 (3年遠隔再発率、3年切開創/ポート部再発率、QOL) のいずれも有意な群間差はみられませんでした。ただし、D0/D1が75%、D2が25%と、日本と違いD3郭清の症例が含まれておらず、リンパ節の検索個数も少ないという面もありました。
これらの4試験では、腹腔鏡下手術のほうが出血量は少なく、手術時間は長い点が共通していました。また、長期予後はいずれの試験においても開腹手術と腹腔鏡下手術で有意差はみられず、Barcelona試験におけるstage IIIの症例ではむしろ腹腔鏡下手術群のほうが優っています。このような結果からも、日本において腹腔鏡下手術が普及したと思われます。

瀧井:私は現在進行中の4つの試験についてレビューします。まずJCOG0404試験は直腸癌と横行結腸癌を除く大腸癌患者1,057例を対象とした国内臨床試験です (図2) 5)。欧米の試験と異なり、全結腸間膜切除 (complete mesocolic excision: CME) を行った症例での比較です。ASCO 2012で短期成績が発表され、これまでの報告と同様、腹腔鏡下手術群では創の長さ、排ガス時間、入院期間などが有意に短く、出血量、創部関連合併症が有意に少ないこと、逆に手術時間は有意に長いことが示されました (表2、3) 。開腹手術への移行率は5.4%と低く、日本の技術の高さを示す結果だったと思います。今後、主要評価項目であるOSの非劣性が証明されれば、腹腔鏡下手術が標準治療になり得るだろうとの結論でした。
他の3試験 (COLOR II試験、COREAN試験、ACOSOG-Z6051試験) は、直腸癌に対する腹腔鏡下手術と開腹手術を比較したものです (表4) 6-8)。COLOR II 試験は副次評価項目にQOLや入院中および退院後のコストが含まれていることが特徴的です6)。症例集積が終わり、結果は2013年に報告される予定です。また、韓国で行われたCOREAN試験は、全例に術前補助化学療法が行われていることが特徴です7)。主要評価項目は3年DFSで、副次評価項目にはQOLが含まれています。短期成績では出血量や排ガス時間等の一般的な評価項目において腹腔鏡下手術群の優位性が示され、QOLもいくつかの項目で腹腔鏡下手術群のほうが良好でした。ACOSOG-Z6051試験は米国で進行中の試験で、この試験は主要評価項目としてcircumferential margin >1mm、distal resected margin陰性、全直腸間膜切除 (total mesorectal excision: TME) の完全性 など、手術の質に関する項目を設定し、OSやDFSは副次評価項目としていることが特徴です8)。この試験の結果はまだ報告されていません。
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大規模臨床試験では、横行結腸は適応外となり、下部直腸は分けて行われることが多い。そのため、横行結腸と下部直腸は別に考える必要がある。 |
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Feasibilityと安全性に関しては、腹腔鏡下手術のほうが出血は少なく手術時間は長い。 |
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特に盲腸、上行結腸、下行結腸、S状結腸に関しては、一貫して腹腔鏡下手術による安全性が報告されている。 |
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海外の臨床試験では生存期間における腹腔鏡下手術の非劣性が示されているが、日本とは手術の質に差があるため、JCOG0404試験の結果を待つべきである。 |
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下部直腸に関する臨床試験は遅れているが、COLOR II 試験、COREAN試験などが現在進行中で、短期成績では腹腔鏡下手術の良好な成績が報告されている。 |