Point 1:手術手技による違い
大村:それでは、ここから開腹手術派(OC派)と腹腔鏡下手術派(LAC派)に分かれて討論していただきます。まず、横行結腸と下部直腸を除く結腸癌について、手術手技の面からお願いします。
LAC-1:腹腔鏡下手術の利点は内側アプローチできることで、それが手術成績の向上に寄与していると思います。実際、Barcelona 試験ではstage III 症例において開腹手術を上回る成績を示しました1)。一方、再発例には腹腔鏡下手術を施行できないことも多く、開腹手術が必要となる症例もみられます。ただ、習熟すると高度な手技もできるようになるので、今後、初回手術の多くが腹腔鏡下手術になっていくと考えています。
OC-3:初回手術では開腹手術が不利かもしれませんが、再手術のときに開腹手術が有効なのは、開腹手術の経験が豊富な医師がいるためです。腹腔鏡下手術から開始した若い先生方に、開腹手術の手技をどのように教えていくかが、今後の課題になります。カメラで見る血管と直視下の血管の太さはだいぶ違うため、すべて腹腔鏡下で行うのは危険だと思います。
LAC-2:確かに、その危険性はあります。しかし実際、腹腔鏡下手術から手術手技を学んだ医師が開腹手術を行ったケースをみると、解剖は理解していますし、初めてでも縫合などは上手にできます。「本当に初めての開腹手術なのか」と疑うくらいに上手に手が動くのです。
また、再手術や開腹歴のある患者さんに対しても、小孔から観察することは有益なので、手術歴があるから腹腔鏡下手術の適応にならないというわけではありません。経験を積むことにより、再手術でも、癒着があっても、対応できる技術が身につくと思います。危険性が高いのは巨大腫瘤のある症例や、奇形のある場合ですが、それは事前の画像診断で判断することができます。
大村:セプラフィルム® の貼付により術後癒着は低下しました。また、腹腔鏡下手術は詳細な解剖知識が必要となるので、開腹手術の技術が上がるかもしれません。
OC-4:腹腔鏡下手術が広がり始めてから、開腹手術の質は明らかに向上しました。出血量が減り、創感染率も低下しているので、入院期間も腹腔鏡下手術とほとんど変わりません。開腹手術のレベルが上がったことで、開腹手術が見直されてもいいと思っています。
腹腔鏡下手術は環境が整っている施設ならいいのですが、1日2件、3件と手術をこなさなければいけない場合は、腹腔鏡下手術の機械を準備するより、開腹手術を実施するほうが簡単です。患者さんが傷の大きさを気にしない場合は、腹腔鏡下手術の順番を何週間も待つより、早く開腹手術を行うほうがいいかもしれません。腹腔鏡下手術の大きなメリットは、整容性のみになっていると思います。