Point 2:腹腔鏡下手術の安全性
●腹腔鏡下手術の録画について
大村:次に、安全性について、腹腔鏡下手術派の先生からお願いします。
LAC-1:腹腔鏡下手術における安全性のメリットは多くありますが、全て録画できるということも大きいです。皆で録画を見ながらディスカッションすることもできます。開腹手術の場合は全てを録画するわけにはいきませんし、術者の視野は術者自身にしかわかりません。確かに腹腔鏡下手術は慣れていないと危険な面はありますが、録画を見て訓練できるので早く上達する可能性があります。また、日本内視鏡外科学会技術認定医の制度があり、審査員が手術ビデオの合否を判定するという緊張感も質の向上につながっていきます。
OC-4:10年前と比べれば、現在の腹腔鏡下手術は安全性をほとんど問題にしなくてもいいレベルに達していると思います。しかし、過去に危険な部分があったことを次の世代に伝えていくことも大切です。その面でビデオがあることは有用だと思いますが、開腹手術のほうが古くから行われていたので、危険性は伝えやすいと考えています。危険性をしっかり伝えていけば、両群の安全性に差はないと考えています。
大村:ビデオに関しては、開腹手術のビデオを見てその通りに行うより、腹腔鏡下手術のビデオを見て行うほうがやりやすいですね。家族の希望でお見せすることもできます。
OC-3:ただ、ビデオを手軽に見られるがために、見ただけでできるような気になってしまうのは腹腔鏡下手術で危険な点です。
●腹腔鏡下手術からの開腹移行
大村:JCOG0404試験では海外試験に比べて開腹移行率が低いということでしたが、それでも5.4%ありました5)。開腹移行になった症例に関してはどうでしょうか。
LAC-2:JCOG0404試験の開腹移行例には、腹膜転移や肝転移があった症例が含まれていたことが影響していると思います。適応をしっかり選べば開腹移行率が下がる可能性があります。技術は常に向上していますし、新しいデバイスも次々と開発されているので、腹腔鏡下手術はますます施行しやすくなると思います。
OC-4:ただ、JCOG0404試験をはじめとした臨床試験は、腹腔鏡下手術に熟達した施設で行われていることを念頭におく必要があるでしょう。エビデンスがあるから、誰でも安全に腹腔鏡下手術を実施できると安易に考えては危険です。しっかりとした技術を持つ指導医に習い、技術認定を取得するという道筋に沿わなければいけないので、その分、ハードルは高くなると思います。
大村:消化管の手術がすべて腹腔鏡下手術になると、手縫いで行うときの微妙な感覚を学ぶ場がなくなるという恐れもありますが、いかがでしょうか。
LAC-2:デバイスを使用する方向へとシフトしていくと思いますが、確かに感覚、触覚の問題が残ります。ロボティック内視鏡手術が進化すれば細かな操作ができるようになりますが、機械が進化しても開腹手術が基本ではあるのでしょう。
OC-3:標準手術では、腹腔鏡下手術は開腹手術と同等の質が保てるようになってきましたが、開腹手術を行う局所再発のようなプラスαの部分をどのように教えていくかが課題です。それは、標準手術も開腹手術を行わなければ教えられないと思います。
大村:確かに再手術の場合は解剖が変わっているので難しいですね。
OC-3:再手術の中でも、胃の手術後に行う結腸の手術など他臓器についてはそれほど難しくないのですが、同じ臓器をもう一度手術する場合は、開腹手術の経験がない医師には難しいと思います。
OC-4:大腸癌は、再発しても再手術をすれば治癒の可能性がある疾患なので、再手術の比重は他臓器の癌より大きくなります。再発の手術だけ開腹で行おうとしても無理なので、標準手術でもある程度は開腹で行って経験を積んでおかなければなりません。開腹手術と腹腔鏡下手術をいかにバランスよく経験できるかが重要であると思います。