Point 1:局所再発率と生存率の改善
大村:ここからは術前化学放射線療法の積極派と消極派に分かれて議論していただきます。まずは、術前放射線療法による局所再発率および生存率の改善について、積極派からご意見をお願いします。
積極派1:日本の結腸癌患者と直腸癌患者の5年OSを比較すると、直腸癌stage II (76.4%) と結腸癌stage IIIa (76.1%) が同等、直腸癌stage IIIa (64.7%) と結腸癌stage IIIb (62.1%) が同等な成績であり、直腸癌は結腸癌に比べてstageひとつずつ悪い傾向があります (表2) 。また、局所再発と吻合部再発を合わせた再発率は、結腸癌2.1%に対して、直腸癌では9.6%と報告されています2)。進行直腸癌に対する標準治療は、日本では補助化学療法を行うこともありますが、側方郭清 + TMEが主流であるのに対し、欧米では術前化学放射線療法 + TMEが主流です。直腸癌の手術はTMEまたはTSME (tumor specific mesorectal excision) が原則ですが、どこまで肛門温存するのか、側方郭清はすべての患者に必要か、腹腔鏡手術の有効性・安全性などの問題にコンセンサスは得られていません。
また、直腸癌に対する補助化学療法に限定すると、OSで有意差を示したデータは、stage III症例を対象としたNSAS-CC01試験だけです。この試験では、UFTによる術後補助化学療法群において、手術単独群に比べて有意に再発が抑制され、OSも延長することが示されました8)。しかし、結腸癌の術後補助化学療法で有効性が示されているL-OHPも直腸癌におけるエビデンスはなく、適応外のため使用することはできません。
これまでOSで有意差が示された直腸癌の術前放射線療法の試験はSwedish trialだけですが、これまではすべての患者に施行していたため、放射線療法の効果予測による患者の選別ができれば、OSの改善につながると思います。また、日本の手術成績がよいと言っても局所再発率は8%以上ですから、Dutch trialのように2%台に抑えられるのであれば、術前放射線療法を考慮するべきです。約1ヵ月間の術前補助療法で局所再発を抑えられれば、局所再発後の手術、術後放射線療法といった長期にわたる治療の必要がなくなるbenefitは大きいと考えます。
消極派3:術前放射線療法で局所再発が抑制されるのは確かですが、日本における標準治療であるTMEまたはTSMEにより局所再発は抑えられるため、側方リンパ節転移をいかに制御するかが重要だと思います。放射線療法は直腸間膜に対する効果は高いものの、側方リンパ節転移に対する効果はそれほど高くないことが報告されているため、術前放射線療法よりも積極的に側方郭清を行うことが外科医の使命だと考えます。放射線療法による晩期合併症を考慮し、側方郭清で側方転移をコントロールするほうがよいと思います。
大村:術前放射線療法を行っても、現時点では側方郭清を省略できないので、放射線療法を行うメリットが少ないということですね。それに対して、積極派はどうでしょうか。
積極派2:適応の問題もあると思います。腫瘍の位置によっては、放射線療法を上手に加えることでメリットが出てくる症例があります。確かにエビデンスはまだありませんが、私自身は側方郭清をしても局所再発は抑えられないと考えているので、それを抑えることができる術前放射線療法は有用だと思います。
積極派1:既に側方リンパ節転移がある場合は、放射線療法をしてもOSは手術単独と変わらないと思いますが、側方リンパ節転移がない場合は、Dutch trialやSwedish trialで示されたように、術前放射線療法によって局所再発が抑制できると考えられるため、意義はあると思います。今後、直腸癌に対するTMEとTME + 側方郭清とを比較したJCOG0212試験の結果が明らかになると、考えやすくなるのではないでしょうか。なお、JCOG0212試験はCTやMRIにより側方リンパ節転移陰性と認められた症例が対象でしたが、側方郭清をすると病理学的に7%に側方リンパ節転移を認めたことが短期成績で報告されました9)。放射線療法は側方の微小転移には有効だと考えられるため、このような症例に対して術前放射線療法を施行すると、本邦での標準的治療での局所再発率8%よりも低くなると推察されます。