Point 2:肛門機能の温存について
大村:続いて、肛門機能の温存についてはいかがでしょうか。
消極派4:局所コントロールにおいて放射線療法が有用な理由として、術前化学放射線療法を行った群は、肛門温存率が有意に高いことが挙げられると思います。本来なら腹会陰式直腸切断術 (APR) が必要となる症例が低位前方切除術 (LAR) になることで、肛門が温存できる可能性があるというわけです。しかし現実では、APRが必要な症例に術前放射線療法を行って腫瘍が縮小しても、照射野に入っていることで肛門機能は障害されるため、やはり肛門機能の温存は難しいと思います。
放射線療法は局所再発しか制御できず、全身に広がってしまった微小転移を抑制することはできません。そして、現在の術前化学放射線療法では、化学療法の強度が足りないためOSの延長が得られないのだと思います (表2) 。したがって、放射線照射は施行せずに補助化学療法を十分量行うことが、QOLや長期予後の改善につながるのではないかと考えています。
大村:放射線照射をしても肛門機能温存にはあまり寄与しないので、それよりも補助化学療法で遠隔の微小転移を叩くほうがいいという意見ですね。
消極派4:はい。術前放射線療法で腫瘍が縮小しても、逆にどこを切除ラインにするか悩むことになります。
消極派3:物理的に肛門温存ができても、そのような症例のQOLが悪いことが最近報告されています。つまり、目で見える括約筋が残ることと、機能する括約筋が残るかどうかは別問題ということです。肛門に放射線照射をしなければならない症例は、肛門の機能を温存するのは難しいので、結局APRを行うという現実は今後も変わらないでしょう。
積極派1:ご指摘のとおり、最初からAPRが必要な症例は、術前化学放射線療法をしても肛門側の切離線は上がりません。APRがLARになるのは夢の話です。ただ、それよりも、APRにするかどうか悩む症例で、術前化学放射線療法による腫瘍縮小効果によって十分な剥離授動が可能となり、マージンを確保した肛門側の切離ができるようになるという意味はあると思います。
積極派2:腫瘍縮小によって手術のマージンが増える症例が出てきます。したがって、放射線照射単独ではなく術前補助化学療法併用、つまり術前化学放射線療法が有用なのです。放射線照射との相乗効果で化学療法の感受性が高まるので、放射線の照射方法と化学療法の種類が非常に重要になってきます。