瀧内:それでは、ディスカッションに移りたいと思います。まずは1st-lineから考えていきましょう。
NO16966試験の結果と、CRYSTAL、PRIME両試験におけるKRAS野生型患者の結果を比べてみると、これら3試験のPFSに大きな差はありません。一方、奏効率には大きな差が認められます。NO16966試験では、FOLFOX/XELOX+Bevacizumab群の奏効率が38%であるのに対し9)、CRYSTAL試験のFOLFIRI+Cetuximab群は57%5)、PRIME試験のFOLFOX+Panitumumab群は55%でした(図6)8)。また、CRYSTAL試験とPRIME試験では、OSにおいても大きな群間差がありました。これらを踏まえて、先生方は、実臨床では1st-lineとしてどの生物学的製剤を使用されますか。
●L-OHPベース+Bevacizumabか、抗EGFR抗体か
吉野:私はFOLFOX/XELOX+Bevacizumabを使用します。
Peeters:その理由は何でしょう。
吉野:これらの生物学的製剤を直接比較した試験はまだ報告されていないので、有効性の面では断定的なことは言えませんが、Bevacizumabを選ぶ一番の理由は、抗EGFR抗体に比べて重篤な副作用の発現率が低いことです。
Peeters:先生のおっしゃる“重篤な副作用”とは、抗EGFR抗体の皮膚毒性のことでしょうか。日本の患者さんにとっては、やはり皮膚毒性は重大な問題ですか。
吉野:そうですね。痛みを訴える患者さんもいますし、軽視はできません。ただ、2nd-lineにはFOLFIRI+Panitumumabを選びます。当院も20050181試験に参加しましたが、非常に厳格な試験で、信用性の高いエビデンスだと思います。
Peeters:治療法の選択には、保険適応が大きくかかわってきます。もし生物学的製剤が3剤とも使用できる状況であれば、有効性の面からは抗EGFR抗体がやや優れています。副作用についても、患者さんに十分な説明をすれば問題はありませんし、抗EGFR抗体の副作用の多くは、予防的治療を行うことで上手く管理できます。
私の場合、日常診療では、KRAS野生型患者に対しては、Bevacizumabよりも抗EGFR抗体をよく用いますが、実際にこれらの生物学的製剤の間に有効性の違いがあるというエビデンスはないので、感覚的なものです。ただ、1st-lineであれば10〜12ヵ月ほど継続することになり、皮膚毒性の問題に直面することになるので、吉野先生が指摘された点も理解できます。
●Cetuximabとの違いはinfusion reactionと投与間隔
瀧内:CetuximabとPanitumumabには何か違いはあるのでしょうか。
Peeters:有効性や副作用に関しては、大きな差があるとは思いませんが、違いはinfusion reactionと利便性です。Cetuximabは週1回投与ですが、Panitumumabは2週間に1回です。PanitumumabとFOLFOXまたはFOLFIRIの併用であれば、2週間に1回の受診で済みます。
馬場:私は1st-lineではFOLFOX+Bevacizumabを選択します。KRAS変異や他の遺伝子変異を確認する必要がないためです。しかし、切除可能となる見込みのある肝転移を有する場合には、奏効率の高さから、FOLFOX+Panitumumabを選びます。PRIME試験におけるFOLFOX+Panitumumabの奏効率は55%8)、CRYSTAL試験におけるFOLFIRI+Cetuximabは57%5)と、Bevacizumabに比べてかなり高いので、切除にもっていける可能性は非常に高いと思います。
●転移が肝に限局している症例ではKRAS statusが生物学的製剤選択の基準に
瀧内:転移が肝臓に限局している場合、吉野先生はBevacizumabとPanitumumabのどちらを併用されますか。
吉野:KRAS検査を行って、KRAS野生型であれば抗EGFR抗体を選ぶと思います。奏効率が高く、また肝切除が唯一の治癒のチャンスだからです。ただし、CetuximabとPanitumumabのどちらを選ぶべきかはまだわかりません。
Peeters:日本ではKRAS検査を行ってから結果が出るまでにどれくらいかかりますか。
吉野:検査会社に外注した場合は約10日間です。
瀧内:Peeters先生は、肝転移のみでKRAS変異型の場合はBevacizumabを併用されますか。
Peeters:そうですね。KRAS変異型症例で高い奏効を得たい場合には、化学療法とBevacizumabの併用か、FOLFOXIRIのような3剤併用療法の二択になると思います。ただ、3剤併用は毒性が強いため、私は化学療法とBevacizumabの併用を行うことが多いです。
馬場:私もKRAS変異型の場合は、FOLFOX+Bevacizumabを選びます。FOLFOXはしばしば肝毒性を引き起こしますが、Bevacizumabには肝毒性を改善する20)と報告されており、併用するメリットがあります。当院でも肝転移を有する症例に対しFOLFOX+Bevacizumabを投与していますが、これまでのところ、病理学的にも肝の改善を認めています。
Peeters:先生方はFOLFOX+Bevacizumabというご意見が多いようですが、1st-lineでFOLFIRI+Bevacizumabという選択肢はないのでしょうか。
馬場:FOLFIRIはFOLFOXに比べて、肝切除後90日間の死亡率が10倍高いことが報告されていますが21)、これはCPT-11の毒性である脂肪肝によるものです。ですから、私は1st-lineではFOLFIRIを使いません。
Peeters:私は1st-lineでFOLFIRIと生物学的製剤の併用を行うことが多いのですが、手術の際に大きな問題になったことはありません。それには術前の治療期間も影響してくると思います。例えば、CELIM試験22)のように術前の化学療法のサイクル数を制限すれば、毒性を比較的低く保てます。化学療法+Bevacizumabを投与してから手術に進む場合、最後の1サイクルはBevacizumabを併用せずに行います。
馬場:FOLFOXには、FOLFIRIに比べて二次手術で転移巣を切除できる可能性が少し高くなるというデータもあります3)。その点もFOLFOXを最初に選ぶ理由の1つです。
吉野:私も馬場先生と同意見です。通常、当院ではL-OHPベースの化学療法+生物学的製剤の併用を選びます。複数の試験で奏効率が高い傾向が認められており、またR0切除率も有意差はないとはいえ、L-OHPベースの方が優れていますので22)。
Peeters:そうですね。私もその点は同意します。
各治療ラインにおけるPanitumumabの位置づけ:2nd-line
瀧内:2nd-lineに話題を移したいと思います。E3200試験ではFOLFOX単独に比べ、Bevacizumab併用により奏効率、PFS、OSが改善されていますし23)、20050181試験でもFOLFIRI+Panitumumabで35%という高い奏効率と、OSにおいても良好な傾向が認められています(図7)10)。
2nd-lineにおける最初の論点は、「もし1st-lineでFOLFOX+Bevacizumabを使用した場合、KRAS野生型患者に対してどのようなレジメンを選択するか」です。
●KRAS野生型患者に対する2nd-lineはFOLFIRI+Panitumumab
吉野:当院では、20050181試験の結果に基づいてFOLFIRI+Panitumumabを選択します。
瀧内:FOLFIRI単独は使いませんか。
吉野:PFSとOSの2ヵ月の差10)は大きいですから。
馬場:私も同じです。奏効率が非常に高く、またPanitumumabはCetuximabと比べて治療スケジュールとinfusion reactionの面でメリットがありますので。
Peeters:私も2nd-lineではFOLFIRI+Panitumumabを用いるでしょうね。
瀧内:それでは、Bevacizumab beyond progression(BBP)24)についてはどう思われますか。
Peeters:理論上はPD後も治療ラインを越えてBevacizumabを続ける根拠はありますが、きちんとした臨床試験でのエビデンスはまだありません。現在、ドイツやベルギーでBBPの有用性を確認する試験が進められています。
馬場:確かに十分なエビデンスはありませんが、日常診療ではPD後もBevacizumabを続けるケースはあります。
吉野:当院では、Bevacizumabを含むレジメンでPDとなった後は使用しません。ところでPeeters先生におうかがいしたいのですが、日本では新薬が承認されると健康保険が適用され、すべての薬剤が同じように利用できます。ベルギーではどのようになっていますか。
Peeters:ベルギーでは、つい数ヵ月前まで、生物学的製剤の保険適応がかなり制限されていました。Bevacizumabは1st-lineのみ、Cetuximabと化学療法の併用は2ndおよび3rd-lineのみに限定されていたため、大抵はBevacizumabで治療を開始し、2nd-lineで抗EGFR抗体を使用しています。医師は皆、純粋な臨床データに基づいて治療を選べるわけではなく、保険制度によって偏った立場におかれているのです。
保険適応は国によって異なります。例えば英国では、Cetuximabの使用が推奨されるのは肝転移の切除が見込まれる場合だけですし、Bevacizumabに関しても大きな問題があります。治療戦略は国によって異なりますが、これは臨床データとは全く別の問題です。ベルギーでは、ようやくCetuximabが1st〜3rd-lineで使用できるようになりましたが、Panitumumabは保険で認められておらず、一日も早く利用できるようになることを待望しています。