佐藤:今回の論点は3つです。まず、FOLFIRIによる治療を開始して4日目に泥状便が13回あり、肛門周囲痛のために緊急入院されました。この時点での副作用対策から、ご意見をお願いします。
瀧内:これは極めて危険な状況であり、実臨床でのCPT-11の副作用発現の典型的な例だと思います。幸い、この時点ではまだ白血球数が4,000を越えていますが、恐らく脱水によると考えられるクレアチニンの上昇がみられており、極めて危ない状況ですので、十分な輸液が必要です。この後に必ず白血球数が減少すると予想されますので、私としては、この時点でG-CSFを投与したいぐらいですが、保険適用外ですので、毎日必ず血液検査を行い、保険適用になった時点ですぐに投与を始めます。この状態は、一歩間違えば死に至る危険性がある副作用の前駆症状として典型的なパターンであることを周知徹底させ、担当医に十分な注意を払うよう厳しく指導します。
坂本:下痢に関していえば、CPT-11の消化管毒性には2つの相があります。1つは、コリンエステラーゼの阻害によって起こる急性毒性で、これにはアトロピンのような抗コリン薬を投与します。もう1つは、トポIによって腸管上皮が傷害されて起こる慢性毒性で、それに対しては異なる対処が必要です。最近、よく使われるのはロペラミドですが、その他にもTNF-α阻害薬であるサリドマイドを使うケースが報告されるようになっています。しかし、この時点では、私も瀧内先生と同様に血液毒性の発現状況とそれに対する対策に重点をおきます。
大村:消化管毒性がシビアですし、すでに血液毒性も発現しています。しかし、好中球数は減少が激しいとはいえ、まだ2,100以上を保っていますから、この時点の副作用対策としては下痢に対する輸液が第一です。輸液は、ナトリウム補充のために細胞外液補充液を投与すべきです。下痢でも嘔吐でも、その組成は細胞外液に近いものですから、維持液のみを用いるとナトリウム欠乏性の脱水に傾きます。その結果、循環血漿量が減少して、腎機能障害をきたすことになります。クレアチニン値が1.4mg/dLから2.0mg/dLに上昇しており、すでに循環血漿量の減少から腎機能障害が発生していることが示唆されます。この場合、5%アルブミン製剤の投与を考慮してもよいと思います。そのようにして十分量の循環血漿量の確保に努めることが重要です。
好中球減少に対するG-CSFの投与については、日本癌治療学会やASCOから適正使用のガイドラインが出されています。いずれを照らし合わせても、この時点ではまだ好中球減少に対する適応がありません。毎日必ず血液検査を行い、慎重に経過を観察します。しかし4日目では、まずは循環動態の安定と腎庇護に注力すべきだと思います。
久保田:消化器毒性、血液毒性ともに重篤であることは、先生方のご指摘のごとくです。おそらくはUGT1A1の遺伝子多型によるものであろうと推定されます。輸液を中心とした補助療法が重要であることも、その通りです。G-CSFの適応条件からは逸脱しますが、消化器・血液と両方の危機が迫っている状態では、実地臨床上G-CSFの開始も視野に入れて治療すべきと思います。
佐藤:この時点で重症化する危険性を予測し、注意観察できる施設は問題ないと思います。一般状態が良好であることで安心して下痢発症を軽視してしまうことがあれば、それは問題です。
瀧内:これは、経験がすべてだと思います。過去に似た症例を経験して、いわゆる“痛い目”に遭っているかいないかで、対応は全く異なるでしょう。
坂本:この後の急激な血液毒性の発生は、過去に経験をしていないと予測は難しいと思います。FOLFIRIはいつまで継続投与されているのですか。
佐藤:副作用のために、2日間で中止した設定ですが、FOLFIRIレジメですので最初のサイクルが終了しています。