佐藤:最後に、CPT-11投与前にUGT1A1遺伝子多型を検査する臨床的意義と実際についてご意見を伺いたいのですが。
坂本:現在、われわれは、UGT1A1の遺伝子型検査を前提としたphase II試験を行っていますが、7/7ホモ変異型は1例程度で、あとは6/7ヘテロ変異型でした。ヘテロ変異型の場合、ホモ変異型ほどは激しい症状を示しませんが、毒性の発現に関して何らかのトラブルが起こりやすいことは同じです。事前に遺伝子多型を検索しておけば、医師も反応を予測することができますから、対処にあわてることもありません。FOLFIRIをfirst lineとする症例も50数例集まっていますので、なるべく早く結果報告ができることを期待しています。
瀧内:日本では6/7ヘテロ変異型が主で、7/7ホモ変異型の頻度が非常に低く、欧米が10%前後であるのに比べ、2%程度にとどまっていますね。海外でもいくつかの報告がありますが、FDAが承認したUGT1A1診断キットは米国の実臨床で普及しているのでしょうか。
坂本:FDAは承認しましたが、現実的にはなかなか保険の適用にされていないということで、普及はしていないようです。米国では、患者さんが加入している保険のタイプによって適用が異なりますが、遺伝子検査は高額であるため、一般的な保険では適用にならないことが多いようです。
大村:コストの面もありますが、UGT1A1はギルバート症候群の原因遺伝子でもあります。いわゆる生殖細胞系列の遺伝子型を調べることになりますから、その検査には膨大な同意書の取得が義務付けられます。つまり、コストだけでなく時間も要するということです。さらに最近では、UGT1A1はこれまでいわれているほどCPT-11の毒性とは関連がないという論文も出されています。今後の臨床試験で、UGT1A1遺伝子多型の検査にどの程度の意義があるのかを検証していく必要があります。
坂本:そのための試験が現在、進行中です。前向きに試験した結果でないと、強いエビデンスとしては認められないのではないかと思っています。
大村:コストは今後下がってくるでしょうから、このような重篤な病態をあらかじめ予測できるのであれば、それは価値のあることです。本当のところをぜひ知りたいですね。
佐藤:現在、UGT1A1遺伝子多型に対するCPT-11単剤の至適投与量決定の試験が進行中ですので、その結果を待ちたいと思います。ただ、今のお話に出ましたように、UGT1A1がすべてではありません。変異がないから大丈夫だとは、まだ言いきれないと思います。とはいえ、コスト面の問題さえなければ、誰もが事前に検査を行い、知っておきたい情報であるのも確かです。
坂本:日本の医療は、基本的には費用がかかってでも長期予後をよくする方向を目指しているのですから、そこに性急に、米国的な医療経済の概念を導入し過ぎるのはいかがなものかと感じています。
佐藤:保険診療適用範囲内であれば問題はありませんが、適用外だと患者さんの負担になりますので、検査を行うかどうかはやはり大きな問題ではないかと思います。
本日はFOLFIRI治療による毒性についてお話しいただきました。先生方、貴重なご意見をありがとうございました。