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第2回 大腸癌化学療法の変遷(結腸癌に対する術後補助化学療法)1. 術後互助化学療法の確立-5-U/LVga標準治療となるまで 佐藤武郎先生北里大学医学部外科学

 

 結腸癌の術後補助化学療法には長い間5-FUが用いられてきたが2)、1988年に報告されたBuyseらのメタアナリシスでは、5-FU投与による5年生存率の上乗せ効果は2.3〜5.7%であり、統計学的有意差は認められなかった3)。その後、80年代から90年代にかけてさまざまな大規模臨床試験が行われ、生存に対する5-FUのベネフィットが証明されるに至った(表1)

表1 主な大規模臨床試験の結果―5-FU/LVが標準治療となるまで
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1.1 MOF

 結腸癌の術後補助化学療法として、生存に対する効果を示した初の大規模臨床試験5)とされるのが、1977年に開始されたNational Surgical Adjuvant Breast & Bowel Project (NSABP) によるNSABP C-01試験である。
 同試験では、治癒切除後のstage II / III結腸癌 1,166例が手術単独群、化学療法群 (MOF: methyl-CCNU + Vincristine + 5-FU) およびBCG群の3群に無作為に割り付けられた。その結果、手術単独群と比較して、MOF群のDFS (P=0.02)およびOS (P=0.05)の有意な延長が認められた 6)

1.2 5-FU/Levamisole

 Levamisole (LEV) は免疫調整剤の一種であり、結腸癌術後補助療法の初期には、5-FUとの併用で広く用いられた。

・NCCTG (Laurie JA, et al., 1989) 7)
 術後補助化学療法の進展の口火を切ったのが、1989年に報告されたNorth Central Cancer Treatment Group (NCCTG) による試験である。Stage II / III (Dukes’ B / C) 大腸癌410例を対象とし、手術単独群、LEV群、5-FU/LEV群の3群に無作為に割り付けられた。全体ではOSに有意差はみられなかったが、stage III (Dukes’ C) のサブセットにおいて、5-FU/LEVが手術単独に比べ、有意に効果があることが示された (P=0.03) 7)

・Intergroup (INT) 0035試験 (Moertel CG, et al. 1990) 8, 9)
 全米で行われたIntergroup 0035試験 (stage III [Dukes’ C] study) においても、OSおよび無再発生存期間 (recurrence-free survival: RFS) の双方について、5-FU/LEVが手術単独に比べて有意に優れた結果を示した (5-FU/LEV vs. 手術単独; 追跡期間中央値3.5年, RFS= 63% vs. 47%, P <0.0001; OS= 71% vs. 55%, P=0.0064) 8)

 これらの試験結果に基づき、米国国立癌研究所 (National Cancer Institiute: NCI) は1990年4月のコンセンサス会議において、5-FU/LEVをstage III結腸癌に対する術後補助化学療法の標準治療として推奨した1)

1.3 5-FU/Leucovorin
1.3.1 術後補助化学療法としての5-FU/LVの検討

 5-FU/LEVの有用性が確立された一方で、NSABPは切除不能大腸癌の治療に用いられていた5-FU/Leucovorin (LV) に着目した。彼らは、NSABP C-01試験において有意な効果が示されたMOF療法5)を対照群とし、5-FU/LV療法の有用性を検討するNSABP C-03試験を実施した。その結果、OSおよびDFSに関して5-FU/LVの有意な効果が示された (5-FU/LV vs. MOF; 追跡期間中央値 47.6ヵ月, 3年DFS=73% vs. 64%, P=0.004; 3年OS=84% vs. 77%, P=0.003)10)
 NSABP C-03試験に相次ぎ、5-FU/LVの試験結果が報告された。欧米3ヵ国の無作為化比較試験の統合解析であるIMPACT研究11)、Franciniらによるイタリア・シエナでの試験12)、Mayo Clinicを中心としたNCCTGによる試験13) のいずれにおいても、5-FU/LVの有意の効果が認められた。こうして5-FU/LVは5-FU/LEVと並び、結腸癌術後補助化学療法の標準治療の1つとして公認された。

1.3.2 5-FU/LV vs. 5-FU/LEV

 NSABP C-03試験に引き続いて行われたのが、5-FU/LEVと5-FU/LVを直接比較するNSABP C-04試験である。その結果、DFSは5-FU/LVのほうが有意に優れており (5-FU/LV vs. 5-FU/LEV = 65% vs. 60%, P=0.04) 、また生存についても良好な傾向にあり (P=0.07)、5-FU/LVの優位性が示された 14)
また、5-FU/LVと5-FU/LEVを含む4群を比較・検討したIntergroup (INT) 0089試験においても、ほぼ同様の成績が得られた15)(注:2005年に報告された10年追跡結果では、各群に差は認められなかった16) )。さらにドイツで行われたadjCCA-01試験においても、OSおよびDFSの双方について有意差が報告されたことから 17, 18)、5-FU/LVが5-FU/LEVに代わり、stage III結腸癌に対する標準治療と考えられるようになった。

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