日本で初めての腹腔鏡下手術は、1990年に山川らにより行われた腹腔鏡下胆嚢摘出術である。なお、1987年のMouretら (フランス) によるものが世界で最初の腹腔鏡下手術の報告である。腹腔鏡下手術は従来の開腹手術と異なり、二酸化炭素で気腹をし、腹腔鏡で腹腔内を観察、5〜12mmのポートを通した鉗子操作により行う手術である。腹腔鏡下手術の長所としては、手術創の傷跡が小さく、開腹手術と比べて術後疼痛が少ない、腸管蠕動の回復が早い、入院期間や社会復帰までの時間が短縮される、などが挙げられる。一方、手術器具の操作角度やモニター上の視野が限定されることから手術難易度は高く、腹腔鏡下手術の手技に習熟する必要がある。日本内視鏡外科学会では世界で唯一鏡視下手術の技術認定制度を設けている。
最初の腹腔鏡下幽門側胃切除術は、1991年に北野らによって行われた45)。胃癌治療ガイドラインでは、臨床研究としての治療法と記載されているが、近年の症例数は大幅に増加しており、日本内視鏡外科学会のアンケート調査によると、2011年には年間7,000例以上の腹腔鏡下胃切除術が行われている46)。
腹腔鏡下胃切除術の安全性を評価するために、JCOGにおいて臨床病期IA/IBの胃癌を対象とした第II相試験 (JCOG0703試験) が行われ、主要評価項目である縫合不全と膵液瘻の発生割合は、登録症例176例中3例 (1.7%) と極めて低率であった47)。この結果を受けて、臨床病期IA/IBで幽門側胃切除術 (または幽門保存胃切除術) により根治切除可能な胃癌を対象に、開腹手術に対する腹腔鏡下手術の非劣性を検証する第III相試験 (JCOG0912試験) が行われている48)。2013年11月に症例登録は終了し、現在追跡調査中である。
一方で、臨床病期II以上の胃癌に対する腹腔鏡下手術の安全性や有効性はまだ未確定である。腹腔鏡下胃切除研究会では、進行胃癌を対象とした幽門側胃切除術D2郭清について、開腹手術と腹腔鏡下手術を比較する第II/III相試験 (JLSSG0901試験) を実施している49)。
腹腔鏡下胃全摘術は、腹腔鏡下幽門側胃切除術と比較してその難易度は高く、まだ一般的に普及しているとは言えない。特に、食道空腸吻合に対する技術の確立がまだ不十分であり、開腹手術の様に自動吻合器を用いる方法や自動縫合器を組み合わせて用いる方法など、吻合方法が施設毎に異なるのが現状である。このため、依然として縫合不全の頻度が高率であり (和田らの報告では100例中6例50))、再建方法の標準化と前向きの臨床試験の実施が待たれる。
ロボット支援下手術は、アメリカのIntuitive Surgical社が開発したda Vinci Surgical Systemを用いた手術で、近年、日本の各施設で導入が進んでいる。3次元で視野を確保でき、鉗子の自由度が高いため、微細な解剖の認識や繊細な手術操作の実現が可能であるが、触覚の欠如と高額な費用が欠点となっている。
ロボット支援下胃切除術の最初の報告は、九州大学の橋爪らにより2003年になされた51)。その後、日本や韓国を中心に症例を重ねており、韓国では後ろ向きの検討によって、腹腔鏡下手術と同等の結果が報告されている。一方、静岡県立静岡がんセンターでは、臨床病期IA/IBの胃癌に対するロボット支援下幽門側胃切除術の安全性を評価する第II相試験を行っている52)。18例を対象とした早期第II相試験では、ロボット支援下に安全に幽門側胃切除術をすることが可能であり、現在は後期第II相試験が進行中である。
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