S-1+Bevacizumab
*S-1の用量は体表面積(m2)により調整:<1.25m2=80mg;1.25m2≦−<1.50m2=100mg;1.50m2≦=120mg |
Yoshida M, et al.: Eur J Cancer. 51(8): 935-941, 2015 |
S-1はフッ化ピリミジン系の経口抗癌剤であり、5-FUのプロドラッグであるテガフールと5-FUの分解酵素であるジヒドロピリミジンデハイドロゲナーゼ(DPD)活性を阻害するギメラシル、5-FUによる消化管毒性を軽減するためのオテラシルを含んだ合剤である。切除不能進行・再発大腸癌における1st-lineとして、FOLFOX6+Bevacizumab(BV)に対するSOX+BVの有効性と安全性が検証され、生存期間や奏効割合には有意な差を認めなかった1)。そのため、SOX+BVは切除不能進行・再発大腸癌における1st-lineとして、大腸癌治療ガイドラインにも掲載された。S-1+BVレジメンはSOX+BVからOxaliplatinを抜いたレジメンであり、副作用が軽減される。そのため、大腸癌診療ガイドラインでは、高齢者や臓器機能障害を有し、強力な治療が適応とならない患者に対する1st-lineとして、推奨されている。
◆BASIC試験
本試験は、日本で行われた多施設共同の試験で、65歳以上の切除不能進行・再発大腸癌患者を対象として、1st-lineにおけるS-1+BVの有効性と安全性を検証した第II相試験である2)。適格症例56例で、年齢中央値は75歳であり、19.6%は80歳以上の患者であった。ただし、PSはすべての患者が0または1であり、高齢でも比較的元気な対象に試験が行われたと考えられる。
■有効性
主要評価項目であるPFS中央値は9.9ヵ月であり、副次評価項目であるOS中央値は25.0ヵ月、奏効割合は43%で良好であった。
過去に切除不能進行・再発大腸癌における1st-lineとしてS-1単独の治療をプロスペクティブに検討された報告はなく、レトロスペクティブな解析での治療成績3)と比較すると、S-1にBVを併用することによって生存期間の延長や腫瘍縮小効果が増強することが示唆される。また、S-1+BVレジメンは他のフッ化ピリミジン系薬剤単独とBVの併用レジメンと比較しても同程度の有効性であった。
S-1+BV (n=56) |
Retrospective analysis3) (n=9) |
Capecitabine+BV4) (n=140) |
UFT/LV+BV5) (n=55) |
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奏効割合 | 43% | 22% | 19% | 40% |
PFS中央値 | 9.9ヵ月 | 6.4ヵ月 | 9.1ヵ月 | 8.2ヵ月 |
OS中央値 | 25.0ヵ月 | 15.8ヵ月 | 20.7ヵ月 | 23.8ヵ月 |
■安全性
5%以上のCTCAE grade(以下grade)3以上の有害事象として、好中球減少(7%)、下痢(9%)、食欲不振(5%)、高血圧(11%)を認めた。SOX+BVレジメンのgrade 3以上の有害事象発生頻度と比較して軽微であった。また、他のフッ化ピリミジン系薬剤とBVを併用したレジメンと比較してもS-1+BVレジメンでのgrade 3以上の有害事象発生頻度は同程度であった。S-1+BVのrelative dose intensityは両薬剤とも80%であり、減量や治療延期が少なく、継続性の高いレジメンであると考える。これらのことから、S-1+BVレジメンはPS 0-1で75歳以上の切除不能進行・再発大腸癌患者に対して有効性・安全性の高いレジメンであるといえる。
ただし、S-1に含まれるギメラシルは腎排泄を受けるため、腎機能が低下している患者において、S-1の使用は注意すべきである。SOFT試験では、SOX+BV群においてクレアチニンクリアランスの70mL/minをcut-off値として、70mL/min未満であった患者とそれ以上であった患者でgrade 3/4下痢の出現に有意な差を認めたことが報告されている(21.1% vs. 5.7%, p=0.0012)。そのため、S-1+BVを選択する場合、腎機能に注意して使用すべきである。
レジメン解説執筆:聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座 伊澤 直樹 先生
References
- 1)Yamada Y, et al.: Lancet Oncol. 14(13): 1278-1286, 2013[PubMed]
- 2)Yoshida M, et al.: Eur J Cancer. 51(8): 935-941, 2015[PubMed]
- 3)Winther SB, et al.: Acta Oncol. 55(7): 881-885, 2016[PubMed]
- 4)Cunningham D, et al.: Lancet Oncol. 14(11): 1077-1085, 2013[PubMed]
- 5)Nishina T, et al.: Clin Colorectal Cancer. 15(3): 236-242, 2016[PubMed]
- 副作用対策講座「下痢」
GI cancer-net
消化器癌治療の広場