坂本 では、ここからは胃癌に関する話題に移ります。
野澤 #4512は局所進行・転移胃癌に対する一次治療としてのdocetaxel+cisplatin(CDDP)〔DC〕群と5-FU/LV+CDDP〔FLC〕群を比較した第III相試験のプレリミナリーな報告でしたが、TTP中央値はDC群 5.8ヵ月、FLC群 6.6ヵ月、OSはそれぞれ8.2ヵ月、9.6ヵ月で、両レジメンの治療効果に差は認めないという結論でした。また、DC群の毒性プロファイルは予想範囲内であったということです。
大村 この試験の背景には、2003年の米国臨床腫瘍学会年次集会で発表されたdocetaxel+CDDP+5-FU併用療法(DCF)の有害事象が相当強かったことがあり(#999,
2003)、DCFから5-FU を除いたらどうなるのかを検証する目的で行われました。しかし、M.D. Anderson Cancer CenterのAjani先生から、「それならばFLCではなく、DCFとDCを比較すべきではないのか」という指摘がなされました。確かにその通りで、DCFから5-FUを除いたことによる効果の減弱が検証されていないのです。
また、#4512の成績は、TS-1+CDDPに比べてはるかに劣ります(#4514,
2007)。Discussantは、「今回の結果からは、用量を低減したDCF、DC、FLCのどれを選べばよいのか、まったくわからない」とコメントしていました。
大津 これでは、DC群とFLC群のどちらが対照群かもよくわかりませんね。症例数も少ないですし、統計学的な基準にも問題があるのではないかと思います。
坂本 日本発のエビデンス(#4514, 2007)であるTS-1+CDDPの位置づけは、どのように考えればよいでしょうか。
寺島 やはりFLAGS試験の結果待ちでしょうか。結果がポジティブで、白人に対してTS-1がfeasibleであれば、TS-1+CDDPが世界標準の1つになるかもしれませんが、feasibilityが担保できないなら、capecitabine+CDDPの効果が高いこともあり、逆に日本でcapecitabineの試験を行わないといけない状況になるかもしれません。
坂本 日本からは、JCOG 9912試験について施設間格差の話が発表されています(#6638)。
大津 JCOG 9912試験に参加した22施設658例を対象として、患者背景や生存期間、有害事象などのデータを解析したところ、各施設で同じ背景因子の患者を治療した場合に期待できる生存期間に有意差はないものの、ばらつきがみられたということです。
大村 高度な有害事象の出現頻度が、CPT-11+CDDP群では腫瘍医の経験年数と、TS-1群では腫瘍医の人数と逆相関するということでしたね。これは、経験を積んだ腫瘍医が大勢いる施設ほど、安全かつ有効な化学療法が施行できることの間接的な証拠になっているのではないかと思いました。
瀧内 ただ、逆のような結果が出ている部分もあって少し解釈が難しいのですが、確実に言えるのは、背景因子を揃えて解析した場合、TS-1群とCPT-11+CDDP群の臨床効果にあまり施設間の差は認めなかったけれど、5-FU群では施設間で少し差がみられたということです。
坂本 引き続き、日本からの発表を取り上げたいと思います。胃癌に対するゴールドスタンダードである、docetaxel+CDDP+TS-1(DCS)の第II相試験(#4537)について、瀧内先生にお願いします。
瀧内 87.1%という高い奏効率が示され、非常に期待されるデータではありますが、この3剤併用レジメンを今後どういう方向性で使っていくかは議論のあるところではないかと思います。
3剤併用レジメンは毒性が増強することから、治療の継続性等を考えると、緩和的化学療法のレジメンとしては疑問があります。術前補助化学療法レジメンとしての期待感はあると思いますが、JCOGの術前補助化学療法の試験をみると、R0の切除率は行き着くところまで来ており、この3剤併用レジメンがどこまで組織学的に効果があるのかが問題になってきます。
我々腫瘍内科医は、このような toxic agentの3剤併用にはあまり期待感はなく、むしろ2剤併用+分子標的薬が緩和的化学療法の目指すべき方向性ではないかと考えています。
高石 癌種は違いますが、大腸癌のFOLFOXIRIと同じような3剤の使い方という気がします。FOLFOXIRIも世界的にはあまり認められてはおらず、肝切除にもっていきたいときの切札のような印象がありますが、このレジメンも同様にdown stagingにより手術可能となる割合が高ければ、有用性はあるのかもしれません。
大村 タキサン系薬剤は二次治療以降の選択肢の1つですが、実地臨床で一番困っているのは 二次治療、三次治療ですから、TS-1+CDDP failureの症例に対する二次治療のエビデンスを蓄積していただくほうが有難いです。
瀧内 そうですね。胃癌では、そもそも二次治療を行う意義があるかどうかのエビデンスがありませんから。ただ、SPIRITS試験ではTS-1+CDDP failure後の多くの患者にタキサン系薬剤が使われ、OS中央値で13ヵ月というデータが得られていることが、実臨床のスタンダードかもしれないと私は思います。
エビデンスに関しては、JCOG 0407試験でbest available 5-FUとpaclitaxelの比較第II相試験を行っているので、その結果に期待したいと思います。
坂本 では、前治療のある進行再発胃癌に対するRAD001の第II相試験(#4541)についてお願いします。こちらの試験には大津先生も参加されています。
大津 RAD001(everolimus)は代謝や増殖などの細胞発達において重要な役割を担うPI3K/AKT経路の下流に存在するmTORの阻害薬です。今、sunitinibやsorafenibが腎癌の一次治療として確立されつつありますが、RAD001はそれらが無効になった症例に対する有効性が証明されています。
以前、我々の施設で第I相試験を行ったときに、胃癌の肝転移例で非常に奏効した経験があり、それが契機になって胃癌に対する第II相試験を行うことになりました。今回の報告はその中間成績ですが、奏効率は低いもののPFS中央値が84日と長く、まれに口内炎の強い症例が認められた以外は特に問題となる副作用もないので、この後どのような形で第III相試験を行うかを検討している段階です。
坂本 mTOR阻害薬にはtemsirolimusもありますが、2剤とも認可されているのですか。
大津 temsirolimusは海外では腎癌で認可されており、日本でも承認申請が出されています。
RAD001はこれからですが、実はすでに日本でも、心移植時の拒絶反応を抑える免疫抑制剤(サーティカン®)として承認されています。
坂本 #4543は私の演題で、胃癌における術後補助化学療法のメタ解析です。これまで発表された胃癌のメタ解析は表形式のデータをもとにしていたのですが、今回は欧米諸国と共同で、患者データを持ち寄って調べることになったのです。その結果、術後補助化学療法 vs. 手術単独療法の比較では、明らかに術後補助化学療法群が優れていることがわかりました。今度はsurrogacyも調べてみようと思っています。ひょっとしたら胃癌でも大腸癌のように、DFSとOSの関係に何か示唆が与えられるのではないかと期待しています。
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