坂本 では、膵癌の話題に入りたいと思います。まず、#LBA4504を紹介してください。
野澤 これは膵癌の治癒切除術後にgemcitabine(GEM)を用いた補助化学療法と手術単独群を比較した前向きの無作為化第III相試験(CONKO-001試験)です。DFSはGEM群13.4ヵ月、経過観察群6.9ヵ月、OSはそれぞれ22.8ヵ月、20.2ヵ月といずれも有意差が認められました。また、5年DFSは16.0% vs. 6.5%、5年OS 21.0% vs. 9.0%でした。
大村 膵癌の治癒切除術後の補助化学療法については、いくつかの臨床試験が行われていますが、これまでは「手術単独よりもよい」という結果や「5-FUよりGEMのほうが優っている」という結果で、広く認められているstandard arm がないのが現状です。症例数が集まらないことが理由の1つです。そうしたなかで368例を集め、5年OS に10%の差が出たことは膵癌患者にとっては大きな福音であり、これをもってGEMが術後補助化学療法の standard arm になると思われます。
坂本 続いて、膵癌の術後補助化学療法におけるバイオマーカーの演題が4つ発表されました。佐瀬先生にご紹介をお願いします。
佐瀬 #4500は膵管癌のヌードマウス移植モデルの前向きな評価です。切除例 111例中76例に移植が可能で、そのうち49例に腫瘍が生着しました。転移性腫瘍に対してGEMが投与された4例では、ヌードマウスでの効果と臨床での効果に相関が認められ、また、術後補助化学療法としてGEMが投与された12例では、ヌードマウスでの効果とTTPが相関する傾向が認められました。しかし、生着率が低率であることから、個別化治療への臨床応用への可能性は乏しいと思われる、と結論づけていました。
寺島 ヌードマウスの実験は、慶應義塾大学の久保田先生が1980年代からずっと行われていたのですが、それがこのような新しいスタイルで実施されることもあるということですね。
佐瀬 #4501は、膵癌の術前補助化学療法施行例において、GEMの代謝関連酵素の一塩基多型がGEM治療による毒性やOSと相関するか否かについて検討したものです。その結果、CDA C111Tと
dCK C-1205Tの遺伝子多型と好中球減少に相関が見られたほか、CDA C111TとRRM1 G42Aの遺伝子多型とOSとの間にも有意な相関が認められました。
また、#4502は進行膵癌における多標的治療の有用性を評価する目的で行われたGEM+bevacizumab+cetuximab(GBC)療法とGEM+bevacizumab
or erlotinib(GBE)療法の第II相試験の最終報告です。毒性においては群間差を認めず、奏効率、病状安定化率(PR+SD)ともに有意差がみられませんでした。OSも7.8ヵ月
vs. 7.2ヵ月と差がなく、PFSも有意差がありませんでした。また、VEGFやVEGFRなどのバイオマーカーが検索されていますが、治療効果や毒性との関連は認められなかったそうです。
#4503は膵腺癌における術後の予後予測を目的とした網羅的遺伝子発現検索の発表です。予後と関連があるものとして、全組織からは 215遺伝子、マイクロダイセクションされた腫瘍組織からは
480の遺伝子が抽出されましたが、両者で共通しているものは3遺伝子のみでした。また、コピーナンバーの解析により、予後不良の症例において2ヵ所の遺伝子領域の増幅が認められたということです。
寺島 結果的には、まだ臨床的に有用なバイオマーカーは見つかっていないわけですが、非常に重要な研究であり、本来は日本人が得意としている分野なので、日本でも臨床試験グループと研究者が一緒になって積極的に取り組むべきだと強く思います。
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