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座談会

大腸がんに関する注目演題
#3501 MACRO試験
維持療法としてのBevacizumab単剤投与の有用性

瀧内(司会):2010年 米国臨床腫瘍学会年次集会もついに最終日を迎えました。消化器領域については“negative 米国臨床腫瘍学会年次集会”との評価を耳にしておりますが、本日は重要演題をいくつかピックアップし、先生方から忌憚のないご意見をうかがいたいと思います。それでは、米国臨床腫瘍学会年次集会速報のレポーターの先生方に各演題について簡単にご紹介いただき、順次ディスカッションしてまいります。
 最初に取り上げる演題はAbstract #3501 MACRO試験です。FOLFOXの神経毒性を軽減するOPTIMOX11)のコンセプトは一般に受け入れられていますが、MACRO試験はさらに毒性を軽減する目的でbevacizumab(Bev) 単剤の維持療法としての有用性を検討した試験です。レポートを担当された松阪先生、宜しくお願いします。


松阪先生
松阪:MACRO試験は、転移性大腸癌に対する一次治療において、XELOX+Bev療法を6コース投与後、XELOX+Bev療法を継続するか、あるいはBevの単剤投与によって継続療法を行うか、その有用性を評価するための無作為化第III相試験です。
 480例がXELOX+Bev継続療法群またはBev単剤投与による維持療法群に無作為に割り付けられました。一次エンドポイントであるprogression-free survival(PFS) については、Bev維持療法群の非劣性は証明されなかったものの(図1-1)、PFSや二次エンドポイントであるoverall survival(OS)、奏効率のいずれも両群間に有意差は認められませんでした。これらの結果より、今後はBev単剤による維持療法が、XELOX+Bev療法後の治療オプションになるのではないかということで締め括られました。


瀧内:レポートの監修を担当された佐藤温先生は、どう思われましたか。


佐藤(温):今回の結果より、「それでは6コース終了時点で効果が得られている方は、すべてBev単剤のみに変えましょう」とまでは言えないと思います。また、PFSのグラフでは、両群の曲線が離れている部分もあることから(図1-1)、Bevは単剤では効果が薄く、わざわざ維持療法として単剤にする必要性を感じません。



瀧内:佐藤武郎先生は、外科医のお立場からどのようにご覧になりましたか。


佐藤(武):そうですね。Bev単剤の維持療法は管理がしやすいので助かるのですが、やはり佐藤温先生と同じで、今回のデータだけでは、Bev単剤に移行するのは時期尚早ではないでしょうか。


山ア:私も基本的には、この結果をもってBev単剤の維持療法を推奨することはありませんし、そうすべきではないと思います。ただし実臨床では、capecitabineによる手足症候群が非常に強い方に対しては、選択肢として考慮することもあると思います。



佐藤(温):その通りですね。計画的にBev単剤の維持療法に移行することはできませんが、副作用等の問題がある方に対してBev単剤投与という治療オプションが成り立つ、その裏付けにはなります。



吉野:私はやはり現時点では、Bev単剤維持療法は実臨床に応用すべきでないと考えます。有効性の差はわずかという見方もありますが、NO16966試験におけるFOLFOX/XELOXに対するBevの上乗せは、OS、PFSともに中央値1.4ヵ月程度しかありません2)。今回の結果は、PFSがXELOX+Bev群10.4ヵ月 vs. Bev単剤維持療法群9.7ヵ月で−0.7ヵ月、OSは23.4ヵ月 vs. 21.7ヵ月で−1.7ヵ月ですから、Bev単剤維持療法は、1st-lineでのBevの上乗せ効果を減弱させる治療と判断すべきだと思います(表1)
  現在、CAIRO3試験3)、OPTIMOX3/DREAM試験4)など、ほかにも維持療法の試験が進められています。また、今年のplenary sessionでは、卵巣癌に対するBev単剤維持療法の良好な成績が報告されています。今回の結果でBevの維持療法の可能性を否定するわけではなく、まだまだ検証する必要があると思います。


瀧内:そうですね。ただ、手足症候群をいかにコントロールするかという点では、この結果から学ぶこともあったのではないかと思います。坂本先生は統計家として、どのようにご覧になりましたか。


坂本:本試験は非劣性デザインですが(図1-2)、最近、非劣性マージンの設定については非常に厳しくなっています。本試験のマージン1.32というのはかなり緩い設定で、1.2を切るぐらいでないと、非劣性の十分な証明にはならないと思います。


瀧内:統計学の観点から見ても、今回の結果からは、実臨床に即導入することは推奨できないということですね。


Lessons from #3501
一次エンドポイントのPFSにおけるBev単剤維持療法の非劣性は証明されず、この結果をもってBev単剤維持療法を推奨することはできない。
維持療法としてのBevの有用性については、本報告のみで否定できるものではなく、今後のさらなる検証が必要である。
ただし、実臨床においては、capecitabineによる手足症候群がひどい症例に対し、治療の選択肢として一考の価値がある。