臨床的因子に基づいた患者の分類

市川: Meyerhardt先生のMedicareデータの解析では、併用化学療法を受けているのは約60%で、残りの40%には5-FU単剤またはCapecitabineが使用されているということでした7)。米国ではSchmoll先生の分類[図7]の下段グループ――切除不能で高齢、主な治療目的は病状コントロール、単剤療法を推奨――に相当する患者さんは多いのですか。
Meyerhardt: 我々の研究はMedicareのデータを用いています。Medicareは65歳以上の高齢者向けの公的医療保険で、解析対象には80歳以上の患者さんも含まれます。もちろん、治療の選択には経済面や主治医の判断など、さまざまな臨床的因子が関与しますが、我々の研究で単剤療法の割合が大きいのは当然の結果かと思います。
市川: 図7の上段のグループ治療目的は腫瘍縮小を最大限に得ること、中段のグループは腫瘍縮小と急速な増悪のコントロールであり、いずれも腫瘍縮小が必要となります。腫瘍縮小は確実かつ迅速に得られるべきだと思われますか。
Meyerhardt: 切除するために腫瘍縮小が必要か否か――つまり患者さんが切除可能 (initially resectable) か、それとも潜在的に切除可能 (potentially resectable) なのかを見きわめることが重要です。明らかに切除可能な場合は、術前化学療法を考慮すると思いますが、残念ながらその2つのグループの状況において、実際に治療して腫瘍縮小が得られるかどうかは確実ではなく、腫瘍が縮小すれば切除が可能になるかどうかも確かではないのが現状です。
1st-lineにおける分子標的薬の役割
馬場: 1st-lineにおける分子標的薬の役割、Bevacizumabの必要性についてディスカッションを進めたいと思います。
吉野: Meyerhardt先生と市川先生のご発表によれば、1st-lineにおける分子標的薬の役割は極めて重要だといえますね。
室: 市川先生が指摘されたように、日本では最近、1st-lineにおける抗EGFR抗体薬の使用が増えていると思います。その理由として、日本では外科医が化学療法を行うことが多く、外科医は常にconversion therapyを意識していること、そして抗EGFR抗体薬はBevacizumabに比べて腫瘍縮小効果が高いことが考えられます。米国の状況はいかがですか。
Meyerhardt: 10年ほど前までは、切除の可能性 (resectability) についてはほとんど考慮されていませんでしたが、現在は肝臓や肺への転移を切除することによりベネフィットが得られる患者が存在するという明確なデータが得られており、最近のガイドラインでは多発転移でも切除の対象になる場合があります。
私もaggressiveな治療をした結果、切除が可能となり、ベネフィットが得られた患者を経験していますが、現実には腫瘍が縮小して根治切除が可能になる症例は限られています。また、治療が奏効して切除できたとしても、肉眼では見えない腫瘍が残存している確率が高いことも複数の報告で明らかになっています33,34)。したがって、conversionによるベネフィットが少ない患者に対しては、FOLFOXのような毒性の高い治療による不利益が伴うことも考慮しなくてはいけません。
分子標的薬の併用に関しては、米国では大多数の医師がBevacizumabを併用していますが、私は過剰だと思っています。日本は抗EGFR抗体薬の使用頻度が高いように感じますね。市川先生が示された試験の奏効率の高さは明らかですが、conversionを狙ってデザインされた試験ではなく、元々切除可能であった患者も含まれています。ですから、こうした試験間で一概に切除率を比較するのは難しいと思います。しかしながら、抗EGFR抗体薬によって奏効率が上昇しているのは事実ですし、また実際にconversionを考慮すべき症例に対するaggressiveな治療の論拠にもなっています。
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