2012年 米国臨床腫瘍学会年次集会 特別企画座談会 切除不能大腸癌治療における分子標的薬の位置づけ

1st-lineにおける分子標的薬 Discussion

1st-lineにおけるBevacizumabの必要性

馬場: 1st-lineにおける Bevacizumabの必要性についてはどう思われますか。例えば、肝限局転移でかつ切除の見込みがある患者に対し、Bevacizumabは必要でしょうか。

吉野: 基本的には必要だと思います。もちろん、KRAS 野生型患者のなかには抗EGFR抗体薬による腫瘍縮小が根治切除につながるケースもありますが、その数は限られています。Conversion therapyを考慮する上で最も重要なのは、conversionが可能な症例の定義を明確にすることです。外科医の間でどのように定義されているかは不明ですが、日本と米国ではかなり違うのではないでしょうか。定義が不明であることが、現在の最大の問題だと思います。

Meyerhardt: おっしゃる通りで、conversion可能の定義を明らかにすることは非常に重要なポイントですね。明確な定義がないために、拡大解釈されているようにも感じます。今朝のoral sessionでは、Venook先生も1st-lineにおけるBevacizumabの有用性について言及されていましたね。彼によれば、「必要がないとは言い切れないが、1st-lineで必要とされる十分なベネフィットがあるかどうかは疑問である」ということでした。

 Venook先生がprincipal investigatorを務めるCALGB/SWOG 80405試験では、KRAS 野生型患者を対象に化学療法とCetuximabまたはBevacizumabとの併用療法を比較しています35)。結果は2013年前後に出ると紹介されていましたが、個人的には、効果は同等ではないかと思っています。私がこの試験について懸念しているのは、併用化学療法の7割をFOLFOXが占めているという点です。NO16966試験や我々のMedicareデータの研究と同じく、FOLFOXとの併用では効果を認めることは難しいかもしれません。

馬場: それでは1st-line治療として分子標的薬を選択する場合、どのような要因が関係してくると思われますか。

Meyerhardt: まず1つ目は、Bevacizumabの禁忌となるような心臓病や脳血管系疾患の既往歴があるか否か。2つ目はKRAS 野生型で、抗EGFR抗体薬の併用によってconversionが見込めるか否か。そして最後は、Bevacizumabのベネフィットを得られる患者を特定する方法はわかりませんが、実際にベネフィットを得ている患者が存在するという事実です。私が1st-lineでBevacizumabを使うのも、これが主な理由です。通常はFOLFIRIとの併用で用いますが、1st-lineとしてFOLFIRIとBevacizumabの併用を検討した無作為化試験はないのが現状です。

Jeffrey A. Meyerhardt, MD, MPH

市川: Conversion therapyを行う場合、CetuximabとPanitumumabのどちらを使われますか。

Meyerhardt: そうですね、どちらがより適しているかは難しいところです。

吉野: 1st-lineにおける抗EGFR抗体薬のエビデンスはかなり込み入っています。どちらも奏効率の有意な上乗せ効果が認められていますが、PanitumumabではFOLFOXと併用したPRIME試験のデータがあり28)、CetuximabではFOLFIRI併用のCRYSTAL試験とXELOX / FOLFOX併用のCOIN試験で一貫した奏効率の上乗せが認められています27,36)。エビデンスの数でいえばCetuximabが有利だと考えています。

市川: では、どの化学療法を併用しますか。

吉野: FOLFOXですね。これまでL-OHPベースの化学療法とFOLFIRIの切除率に有意な差を示した報告はありませんが、術後死亡37)や合併症の点ではFOLFOXのほうが良好です。また、CetuximabにおいてもFOLFOX併用のデータとして奏効率を主要評価項目とした第II相のOPUS試験がありますが、KRAS 野生型患者においてFOLFOX+Cetuximab群で奏効率の有意な上乗せが認められています29)

KRAS 検査のタイミング

馬場: KRAS 検査のタイミングについてお尋ねします。米国の状況はいかがでしょうか。

Meyerhardt: Conversionを狙って抗EGFR抗体薬を上乗せしたい場合は、早い段階で検査する必要があります。私自身は1st-lineで抗EGFR抗体薬を併用することは少ないのですが、検査結果が出るまでにはある程度時間がかかるため、化学療法の開始後すぐに検査をしています。特にFOLFOXと抗EGFR抗体薬の併用を考えている場合は、KRAS 変異型だと悪い影響を及ぼすため、早めに検査するようにしています。

市川: 私も化学療法の開始時に検査します。

室: それが理想だと思いますが、現実的には抗EGFR抗体薬の使用直前になってしまうことも多いですね。

吉野: 私は転移があると診断したときに検査しています。2011年のOncologist誌に、欧州の複数のラボにおけるKRAS 検査結果の不一致を認めた報告が掲載されましたが38)、日本ではほとんどが民間の検査業者に委託しており、検査の質も優れています。主にスコーピオンアームズ法が使用されています。

Meyerhardt: 米国では多くの医療機関が病理部門に全自動システムを装備し、例えば乳癌では自動的にER/PRやHER2/neuを調べることができます。ただし、KRAS 検査が必要なのは転移・再発大腸癌のみであり、すべての大腸癌に行う必要はないと思います。

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