吉野: 欧米では1st-lineで抗EGFR抗体薬を使うのが一般的であるのに対し、日本では1st-lineにおけるBevacizumabの使用が多いです。1st-lineでBevacizumabが選択される理由は、Bevacizumabと抗EGFR抗体薬のPFSが同等で、毒性はBevacizumabのほうが低いからではないかと思います。今回、Köhne先生は中〜高リスク群には抗EGFR抗体薬が推奨され、低リスク群でも肝限局転移の症例は抗EGFR抗体薬の対象となると述べられました。これは非常に印象的でした。
Köhne: Bevacizumabが毒性の低さから好まれることはよく理解できます。その一方で、BOXER試験について私は少し異なる見解をもっており、問題点も多いと考えています。まず、FOLFOXではなくXELOXを使っている点、そして奏効率の上乗せに疑問がある点です。対象となった45例のうち15例は最初から切除可能であり、切除不能の症例は30例でした。最終的に肝切除が行われたのは16例ですが、R0切除は9例のみです。これでは、実際にこの治療によって切除可能になる症例が増えているとは判断できないと思います。つまり、私はBOXER試験を本当にpositiveな試験であったとは考えていません。また、Bevacizumabを術前に使用する場合、創傷治癒遅延も問題となります。厳密にいえば、1st-lineにおけるBevacizumabの真の無作為化比較試験はありません。
しかし一方で、症例によっては1st-lineにおいてBevacizumabは選択肢の1つであるとも思っています。また、効果はやや小さいものの、BBPに関するエビデンスもあります。
設楽: 我々はグループ3の症例にBevacizumabを用いることがあります。先生が指摘されたように、NO16966試験ではPFSの差は大きくありませんでしたが8)、PACCE試験やCAIRO2試験などではBevacizumab併用によってPFSが10〜12ヵ月と良好な結果を示していることから35, 36)、1st-lineでBevacizumabを用いることを優先しています。
Köhne: PACCE試験とCAIRO2試験での問題は、化学療法 + Bevacizumab群と化学療法 + Bevacizumab + 抗EGFR抗体薬群を比較したことです。化学療法 + Bevacizumab群のPFSが長かったのは理解できますが、これらの試験で有効性を認めるのは難しいです。
設楽: 確かにご指摘のように、抗EGFR抗体薬とBevacizumabの直接比較試験の結果が必要だと思います。
吉野: 1st-line治療では、BRAF 変異型症例も意見が分かれるところでしょう。BRAF 変異型症例では2nd-line以降において抗EGFR抗体薬は効果がないことが報告されていますが37, 38)、1st-line治療ではどう思われますか。
室: CRYSTAL試験とOPUS試験のレトロスペクティブ解析では、OS、PFSともに良好な傾向がみられています18)。
山ア: 私はBRAF 変異型症例に抗EGFR抗体薬は有効ではないと考えているので、1st-lineでも使用するべきではないと考えています。今後、バイオマーカーなどにより対象を絞り込むことで、さらなる治療効果が望めるようになるのではないでしょうか。
吉野: そうですね。絞られた対象で劇的な治療効果が認められれば、そこから抗EGFR抗体薬の活用が広がると思います。