消化器癌治療の広場

切除不能進行・再発大腸癌の治療アプローチ: Aggressive or non-aggressive -患者の臨床的因子に基づいた治療選択-

Short lecture Prof. Alberto F. Sobrero

Non-aggressive approachのもう1つの選択肢:Sequential therapy

 Non-aggressive approachのもう1つの選択肢として、軽い治療から開始し強い治療に移行するという、sequential therapy (逐次治療) があります。2007年にLancetに掲載されたFOCUS試験3)とCAIRO試験4)、さらに同年の米国臨床腫瘍学会年次集会で報告されたFFCD2000-05試験5,6)の3試験において、「フッ化ピリミジン系薬剤単独→2剤併用化学療法に移行した群」と「最初から2剤併用化学療法を行った群」を比較した結果、両群のOSに有意差はありませんでした。当時、「OSが同じであれば、なぜわざわざ2剤併用化学療法から始めなければならないのか」と、さまざまな雑誌で数多くの論説が展開されました。
 Sequential therapyの初回治療の選択肢としては、ほかにフッ化ピリミジン系薬剤 + Bevacizumabの併用療法があります。AVF2107g試験、AVF0780g試験、AVF2192g試験の統合解析では、5-FU/LVまたはIFLを投与した群に比べ、5-FU/LV + Bevacizumab群でOSとPFSの有意な延長が示されています7)。CapecitabineへのBevacizumabの併用を比較したオーストラリアのMAX試験でも同様に、Bevacizumab併用群ではCapecitabine単独群に比べ有意なPFSの延長が得られました8)
 以上の点から、non-aggressive approach――段階を踏んで治療を強化していく ”staged approach” ともいえますが――は、症例を選択すれば有効であると考えられます。
 それでは、我々はどのように症例を選択すべきでしょうか。「潜在的に切除可能である」「随伴症状がある」「腫瘍量の多さが原因でPSが2に低下している」「患者さんが最も効果の高い治療を望んでいる」。この4点に当てはまる場合は、non-aggressive approachの対象外です。
 逆にこの4点に合致せず、3種類の臨床的因子からも適当と考えられる場合は、無治療経過観察を含むnon-aggressive approachを選択してもよいと考えます。ただし、その場合は急速な進行を見逃さないため、2ヵ月ごとの評価が不可欠です。

進行・再発大腸癌の治療戦略

 ここまでの話を踏まえ、最新の進行・再発大腸癌患者の治療戦略アルゴリズムをお示しします (図3)。最初の質問は「その患者は強力な治療が必要か」で、その答えが「YES」であればaggressive approachの対象となります。1st-lineの治療選択肢は2剤併用化学療法 + Bevacizumab、KRAS 野生型であれば2剤併用化学療法 + 抗EGFR抗体薬もよい選択肢になります。
 一方、答えが「NO」であればnon-aggressive approachの対象となります。現時点のsequential therapyのなかで最も効果の高いフッ化ピリミジン系薬剤 + Bevacizumabを1st-lineで行い、2nd-lineでは2剤併用化学療法を、そして3rd-lineではKRAS 野生型であれば抗EGFR抗体薬を使用します。さらに症例を絞り込むことで、これらのsequential therapyの前に経過観察の期間を設けることも可能です。経過観察後にaggressiveな治療を行うという戦略はデータがないため、ここアメリカでは一般的ではありませんが、欧州、特にイギリスやイタリア、北欧諸国ではしばしば行われます。

室先生

室: ありがとうございます。Sobrero先生に何か質問はありますか。

吉野: 初診時にその腫瘍の性状 (behavior) がaggressiveかどうかを見極めるのは非常に難しいと思いますが、何かよい方法はありますか。

Sobrero: 例えば「腫瘍量が多く、随伴症状があり、原発巣と10個のリンパ節転移を切除して術後補助化学療法を行った後、6ヵ月で再発した」のであれば、それだけで定義上はaggressiveと診断できます。これらの条件に当てはまらない場合、Köhne model (白血球数高値、ALP高値、PS 2以上、転移3ヵ所以上) 9)を用いるとよりscientificな判断ができるかもしれませんが、残念ながら私自身は活用できていません。というのも、Köhne modelにすべて該当し、なおかつ無症状で腫瘍量の少ない患者は滅多にいないからです。
 近年、BRAF 変異型患者ではaggressiveな経過を辿ることを示唆する論文がいくつか発表されています10-12)。しかし、臨床状態が悪くかつ腫瘍量も多い場合、BRAF 検査の結果が出るまで20日間も待っていられないのが問題です。

室: Sobrero先生が指摘されたように、BRAF 変異型は非常にaggressiveで予後不良の患者さんが多い印象がありますが、先生方はBRAF 変異型への抗EGFR抗体薬の使用に関してはどのようなご意見をお持ちですか。

吉野: 抗EGFR抗体薬はBRAF 変異型の患者には有効ではないと私は考えています。1st-lineでCetuximabを使用したCRYSTAL試験では、BRAF 変異が効果予測因子ではないことが示され10)、2nd-line以降ではBRAF 変異型患者は抗EGFR抗体薬に反応しないことが多くの論文で報告されています11)。ですから、2nd-line以降で抗EGFR抗体薬の使用を考慮する場合は、BRAF 変異が重要な指標になると思います。

Sobrero: 私も概ね賛成ですね。KRAS BRAF の変異型は治療抵抗性の予測因子でありますが、治療感受性の予測因子ではありません。

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