CASE 1: 潜在的に切除可能な肝転移を有する症例
設楽: CASE 1は72歳の男性です。2011年6月に右上腹部痛を訴えて近医を受診し、CT検査で多発性肝腫瘍を検出。内視鏡検査ではS状結腸癌も認められ、当院に紹介されました。造影CTではS状結腸に狭窄を認め、当院で行った内視鏡検査ではII型 (潰瘍限局型) 結腸癌と診断、狭窄部は内視鏡が通過できませんでした。結腸が原発巣で、肝転移が5個以上あり、腹部大動脈周囲には小さなリンパ節転移を認めました (図4)。入院時の臨床検査では軽度の貧血とASTの上昇を認め、LDHは2,458 IU/L、CEAも3,043 ng/mLと高値を示しました。腎機能は正常です。病理組織検査では高分化S状結腸癌、KRAS / BRAF 野生型で、肝転移切除後の残肝量は30%未満と評価されました。この時点では切除不能ですが、腫瘍縮小後は切除可能になると考えました。PSは1で、随伴症状 (右上腹部痛、少量の血便) があります。我々はconversionを狙って、FOLFOX + Panitumumab療法を選択しました。
その結果、4サイクル行った時点で原発巣と肝転移巣は大幅に縮小しました (図5-A)。リンパ節転移に変化はありません。PRと判断してさらに2サイクル追加し、最終的にLDHは正常化し、CEAも132.6 ng/mLに低下しました。
2011年10月、S状結腸切除術と傍大動脈リンパ節郭清を行いました。病理診断の結果、残存癌細胞は著しく変性しており、断端陰性、傍大動脈リンパ節ならびにその他の所属リンパ節に転移は認められませんでした (pT3 / ss, pN0)。S状結腸切除後のCTで、肝転移巣が良好なレスポンスを維持していることが確認されたため (図5-B)、現在肝切除を計画しているところです (※2012年2月に肝切除を実施)。
室: CASE 1に関して、質問やコメントはありますか。
Sobrero: この症例に対してFOLFOX + Panitumumabを選択されたのは極めて適切だったと思います。治療開始時には根治切除後に長期のrecurrence-free survival (RFS) が得られる可能性はごくわずかでしたが、治療開始後、CEAは3,000超から100台へと2 桁の低下を示していますね。もし私がこの患者さんだったら、両葉性の多発病変でかつCEAもLDH も極めて高い禁忌の状態であっても手術を望んだと思いますが、薬物治療でここまで良好な状態に戻したのは本当に素晴らしいと思います。
ただ、ここで2段階肝切除 (two-stage hepatectomy) を計画している点は同意できません。2段階肝切除を行うと、かなり長い期間、患者さんを無治療にするリスクがありますね。あえて薬物治療を続けるという選択肢もあったと思うのですが。
設楽: いえ、この症例では2段階肝切除ではなく、1回の手術で右葉と左葉の一部を切除することになると思います。確かに他施設では2段階肝切除の適応になる症例かもしれませんが、当院では2段階肝切除は行っていないのです。ですから、先生が考えておられるほど無治療期間は長くなりません。
Sobrero: リンパ節はどのように処理されましたか。
設楽: 原発巣周囲の傍大動脈リンパ節郭清をしましたが、全体的に陰性であったことから、おそらく治療が奏効したのだと思います。